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彼らはきっと幸せな人生しか知らないんだろう。
世間は弱者に優しくて、スクールを出たばかりで右も左もわからない子供の
ただ一人の身内が死んだなら、顔も名前も知らない遺伝子上の父親が突然現れて
さぁ今日からはお父さんと暮らしましょう。ちゃんちゃん。
みたいなハッピーエンドが用意されているはずだと?
おっさんは、夢見る少女かっつーの。
「父親なんて、生まれた時からいねぇんだよ!」
急に野良犬の様に吠える私を、なだめる様に
「そうか。じゃぁボーズはこれからどうするんだ。ホームレスか?」
嫌なところをいきなり突かれても睨むことしか出来ない。すると
「ボーズ。生きていくにはな、飯とその飯のたねが必要なんだ」
なぜか私の頭に手を乗せて説教し始めた中年男。うざい。
「どうなろうと、あんたには関係ない」
手を振り払いカバンを抱えて、おっさんどけよと威嚇する。
「なぁ、何処に行くのかって聞いてるんだぞ。」
「何処だっていいだろ!」
私の行く手を遮って尚も聞いてくる。
「その態度じゃぁ行くあてはないんだろ」
「うるせぇ!ほっといてくれ。どうでもいいだろ」
「行く所が決まっていないんだったら、俺のとこに来いよ」
「はぁ?寝言は寝て言え!なんで他人の・・・」
急に大声を出したせいで体力が一気に消耗した。
ここ数日水だけで凌いできた私のお腹は、あろうことかこんな場面で
グゥゥゥゥーーーー・・・と悲鳴をあげた。
私は、怒りも忘れてお腹を抱えて、しゃがみ込んだ。
一瞬の沈黙の後、男たちはどっと笑った。
そして、幾つもの掌がしゃがみ込んだ私の頭や肩に落ちる。
恥ずかしくて顔も上げられずにいると、一際大きな手が私を抱え上げた。
驚いて振り向くと、スキンヘッドのマッチョが私を脇に抱えていた。
「うわぁ。何すんだよ!離せよ!変態!痴漢!マッチョ!はーなーせー!」
逃げようと必死にもがいてみたが、がっちりとホールドされていて
バタバタする手足が無意味に空を切るだけだった。
「腹減ってんだろ。とにかく飯だ飯。行くぞ」
いわば拉致状態で車に押し込まれた。
これが、私と仲間たちの出会いである。