③
床に転がる花を拾い柔和な顔でこちらを窺う初老の男。
「仕方がないのう。みんな引き上げよう」
男たちは、まだ何か言いたそうではあったが
初老の男はすごすごと背中をみせた。
黒人の男とマッチョな男は怒りを露わにしながら
それでも、無言で初老の男に続く。
「ボーズ、邪魔したな」
そう言って一番後ろにいた中年の男が私の頭を撫でて踵を返した。
その思いがけない行動に胸がチクリとなった。
私は何も言うつもりなんてなかったのに、
「共同墓地に・・・」
ふいに言葉が口をついて出ていた。
男たちは立ち止まって振り返った。
私は視線を合わせたくなくて、また下を向く。
「母さんは・・セント・・クリス・・共同墓地に・・」
ぼそぼそと呟くような小声だったのに、初老の男は振り返り
嬉しそうにこちらに戻ってきた。そして私の手をぎゅっと
握りしめながら何とも言えない恍惚の笑みを見せた。
「ありがとう。本当にありがとう。ありがとうね」
彼の口角があがり、さらに皺を深くしながら目じりを下げる。
私はただ固まるばかりで、やっとの事で唇を噛みしめた。
「では、行こうかの」
私の手を握ったまま歩き出そうとする。
きょとんとする私に
「出かけるところなんじゃろう?そのカバン」
持っているカバンを見る。
「あ、これは、あの、別に、その」
まさか、大家から逃げるところとは言えない。
すると見透かしたように、さっき私の頭を撫でた中年の男が
「部屋には荷物がないようだが、もしかして出て行くところか?」
私が黙っていると
「父親が引き取ってくれるのか?」
彼は地雷を踏んだ。