②
生まれた時から母しかいなかった。
父の事は知らない。母は何も話してくれなかったし、
父なんて別にどうでもよかった。
母は生活の為に昼も夜も働いていて、家に帰らない事も茶飯事だった。
帰ってきたかと思えば、古い雑誌や時代遅れのゲーム機が枕元に置いてあったりした。
いつもひとりぼっちの私の友達はゲーム機の中のキャラクターだった。
だから、スクールに行くようになっても、
他人との関わり方がわからなかった。
話かけられても無反応で、頷くことも、首を振ることも出来ず
笑うなんて芸当は自分とは絶対に無縁だと思っていた。
だから、当然友達なんていなかったしそれでも自分は平気だった。
働き積めの母だったので少しばかりの貯えもあったが、
あっと言う間に高い病院代に消えた。世の中は厳しい。
命をぶら下げれば誰からでも金は芋ずる式に取れるとふんでいる。
そして母は亡くなり、私は無一文になった。
右も左もわからない子供に家賃を取り立てる大家。
払えないなら体で稼いで来い。働き口はいくらでもあると。
数日前から大家が頻繁に来てせっつくので、修道院にでも逃げ込もうかと
荷物をまとめて部屋を出ていくところだった。
ドアを開けたらこの男たちとの邂逅。
最初は大家の回し者かと思ったがそうじゃなかった。
よくわからない面子で、しかも花束まで押し付けてきた。
花なんてもらっても食えないし、もうここには母の物も何も無い。
だから今さら憐憫にも浸れない。
情けない自分を隠そうと下を向く。
弱い自分すべてを見られたくはなかった。