ヒマワリ畑
初夏のその日、そよ風でカーテンがなびく部屋の窓から、私は庭の向こうのヒマワリ畑を見ていました。セミの鳴き声のもとで、ヒマワリたちは焼きつくすような太陽の光を静かに浴びていました。その向こうには真っ青な海があります。その日も海は穏やかで、キラキラと光を反射させていました。空には二羽のカモメが円を描きながら飛んでいるのが見えました。
風になびくヒマワリたちを見ていると、私は少しだけ寂しくなりました。この夏も終われば、またヒマワリたちは枯れてしまうのだと思ったからです。その時、ビュウーと強い風が吹き、幾枚ものヒマワリの花びらが舞い上がり、海の方へひらひらと飛んで行きました。すると私の体も窓の外へと舞い上がり、花びらとともに宙に舞いながら海へと向かい、静かに水の上に落ちたのです。海水は心地良い冷たさでした。間もなく私の体は海へと沈んで行きました。そして気づかぬうちに私は海の中を泳いでいたのです。
海の中では魚たちや、ピンク色のさんご礁が、上から差し込む金色の光に照らされていました。自分の姿を見ることはできませんが、どうやら私は魚になっているようでした。シャボン玉のような泡がいくつもゆっくりと昇っていくのが見えました。海の中は静かでした。その光景を見ながら暫く泳いでいると、ある時に数えきれないほどの小さな魚たちが、虹色の光を散乱しながら、塊となって私の方へ向かってきたと思うと、あっという間に私をとり囲みました。その時、私は恐怖を感じていましたが、彼らに敵意の無いことが分かると気持ちが安らいでいきました。暫くの間、私は虹色の光りによって包み込まれていました。渦巻いている魚たちを、目を細めながら見ていると、ある時にその大群は私からすっと離れ、いっせいに海底に向かい泳ぎだしました。私は彼らを追って泳ぎました。すると、その魚たちの光の塊が海底の闇へとスーッと小さくなっていったまさにその瞬間、まるで夜空に咲く花火のように魚たちは暗闇に散らばりました。私があっけにとられていると、その光はいつの間にか夜空に瞬く星になっていたのです。私は宙に浮かんでいることに気がつきました。いつの間にか私の腕は白く大きな鳥の羽に変わり羽ばたいていたのです。
見下ろすと、海にはその星たちが映し出され波に揺られていました。辺りには船も陸地も見えませんでした。ただどこまでも広がっている海に星が揺られているだけです。私は前の海へと飛び始めました。時々宙返りもしてみました。私は思い通りに飛ぶことができたのです。一時間程経った頃でしょうか。前方に小さな島が見えてきました。島にはヤシの木が生い茂っていました。私はその島に降り立ちました。
島はとても静かでした。波音だけが聞こえていました。私の腕は元通りになっていました。私は背の高いヤシの木の下を歩きました。暫くすると開けた場所を見つけました。そこにあったのはヒマワリ畑でした。その上の開けた夜空には、巨大な月が見えました。それは見慣れているものより遥かに大きい月でした。クレーターが手に取るように分かります。その明かりに照らされた多くのヒマワリたちは、まるでうつむいているかのように頭を垂れて、そよ風になびいていました。その花弁は青白く、昼間とは全く別の花のように見えました。暫くの間、私はその青白く光る静かなヒマワリたちを眺めていました。ある時に、そばのつぼみがポッと音を立てて開きました。すると、ヒマワリたちは一斉に空を見上げ、急に月に向かって伸び出しました。そしてあっという間にそのヒマワリたちは大木のようになりました。
あっけにとられた私は、暫くの間、その巨大なヒマワリたちと、その合間に見える巨大な月を眺めてから、よろけるようにそばのヒマワリの茎に寄りかかり腰を下ろしました。すると、どこからともなく真っ白な鳥が飛んできて隣のヒマワリの葉にとまりました。その鳥の外見はというと、長く黄色い口ばし、黒い眼、真っ白な羽といったものでした。まるでオウムのようにも見えました。するとその鳥は、月を見上げると、羽をゆっくりと広げて、ホーホーと鳴き始めました。どうやら月に向かって鳴いているようでした。暫くの間、鳥は鳴き続けていました。その鳴き声を聞いていると私は眠くなってきました。そして目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまったのです。
目が覚めると、私は見知らぬ白い部屋にいました。私は見知らぬ白い椅子に座り、見知らぬ白い机に頬杖をついていました。窓の外を見ると青空の下にヒマワリ畑がありました。その日の風も穏やかでした。私はねむい目をこすり、外に出ようと、見知らぬ白いドアを開けました。




