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ヒマワリ畑

作者: Kazuhiro
掲載日:2016/12/31

 初夏(しょか)のその日、そよ風でカーテンがなびく部屋の(まど)から、私は庭の向こうのヒマワリ畑を見ていました。セミの鳴き声のもとで、ヒマワリたちは()きつくすような太陽の光を静かに()びていました。その向こうには真っ(まっさお)な海があります。その日も海は(おだ)やかで、キラキラと光を反射(はんしゃ)させていました。空には二羽のカモメが円を(えが)きながら飛んでいるのが見えました。

 風になびくヒマワリたちを見ていると、私は少しだけ(さび)しくなりました。この夏も終われば、またヒマワリたちは()れてしまうのだと思ったからです。その時、ビュウーと強い風が吹き、幾枚(いくまい)ものヒマワリの花びらが()い上がり、海の方へひらひらと飛んで行きました。すると私の体も窓の外へと舞い上がり、花びらとともに(ちゅう)に舞いながら海へと向かい、静かに水の上に落ちたのです。海水は心地(ここち)良い冷たさでした。間もなく私の体は海へと沈んで行きました。そして気づかぬうちに私は海の中を泳いでいたのです。

 海の中では魚たちや、ピンク色のさんご(しょう)が、上から()し込む金色の光に照らされていました。自分の姿を見ることはできませんが、どうやら私は魚になっているようでした。シャボン玉のような(あわ)がいくつもゆっくりと(のぼ)っていくのが見えました。海の中は静かでした。その光景(こうけい)を見ながら(しばら)く泳いでいると、ある時に数えきれないほどの小さな魚たちが、虹色の光を散乱(さんらん)しながら、(かたまり)となって私の方へ向かってきたと思うと、あっという間に私をとり(かこ)みました。その時、私は恐怖(きょうふ)を感じていましたが、彼らに敵意(てきい)の無いことが分かると気持ちが(やす)らいでいきました。暫くの間、私は虹色の光りによって包み込まれていました。渦巻(うずま)いている魚たちを、目を(ほそ)めながら見ていると、ある時にその大群(たいぐん)は私からすっと離れ、いっせいに海底に向かい泳ぎだしました。私は彼らを追って泳ぎました。すると、その魚たちの光の塊が海底の(やみ)へとスーッと小さくなっていったまさにその瞬間(しゅんかん)、まるで夜空に咲く花火のように魚たちは暗闇に散らばりました。私があっけにとられていると、その光はいつの間にか夜空に瞬く星になっていたのです。私は宙に浮かんでいることに気がつきました。いつの間にか私の(うで)は白く大きな鳥の羽に変わり()ばたいていたのです。

 見下ろすと、海にはその星たちが(うつ)し出され波に()られていました。辺りには船も陸地(りくち)も見えませんでした。ただどこまでも広がっている海に星が揺られているだけです。私は前の海へと飛び始めました。時々宙返(ちゅうがえ)りもしてみました。私は思い通りに飛ぶことができたのです。一時間程(ほど)経った頃でしょうか。前方に小さな島が見えてきました。島にはヤシの木が生い茂っていました。私はその島に降り立ちました。

 島はとても静かでした。波音だけが聞こえていました。私の腕は元通りになっていました。私は背の高いヤシの木の下を歩きました。暫くすると(ひら)けた場所を見つけました。そこにあったのはヒマワリ畑でした。その上の開けた夜空には、巨大な月が見えました。それは見慣(みな)れているものより(はる)かに大きい月でした。クレーターが手に取るように分かります。その明かりに()らされた多くのヒマワリたちは、まるでうつむいているかのように頭を垂れて、そよ風になびいていました。その花弁(はなびら)は青白く、昼間とは全く別の花のように見えました。暫くの間、私はその青白く光る静かなヒマワリたちを(なが)めていました。ある時に、そばのつぼみがポッと音を立てて開きました。すると、ヒマワリたちは一斉(いっせい)に空を見上げ、急に月に向かって()び出しました。そしてあっという間にそのヒマワリたちは大木(たいぼく)のようになりました。

 あっけにとられた私は、暫くの間、その巨大なヒマワリたちと、その合間(あいま)に見える巨大な月を眺めてから、よろけるようにそばのヒマワリの(くき)()りかかり(こし)を下ろしました。すると、どこからともなく真っ白な鳥が飛んできて隣のヒマワリの葉にとまりました。その鳥の外見はというと、長く黄色い口ばし、黒い()、真っ白な羽といったものでした。まるでオウムのようにも見えました。するとその鳥は、月を見上げると、羽をゆっくりと広げて、ホーホーと鳴き始めました。どうやら月に向かって鳴いているようでした。暫くの間、鳥は鳴き続けていました。その鳴き声を聞いていると私は眠くなってきました。そして目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまったのです。

 目が覚めると、私は見知らぬ白い部屋にいました。私は見知らぬ白い椅子(いす)に座り、見知らぬ白い机に(ほお)(づえ)をついていました。窓の外を見ると青空の下にヒマワリ畑がありました。その日の風も(おだ)やかでした。私はねむい目をこすり、外に出ようと、見知らぬ白いドアを開けました。


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