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一応、公式の裏野ハイツ設定。
えぐいけど、一応、リアル名古屋準拠でもある。
俺は、守八吾郎。
佐伯雪乃先輩の相棒だ。
シャーロック=ホームズに対するジョン・H・ワトスンみたいな立ち位置になるな。
図々しいとは思うけども、情報収集とトラブルメーカーとドギツイ事件の時の精神安定剤と言う意味ではワトソンになるから。
よくいる染めた薄い金髪と黒に近い青いカラコンな平凡よりな顔にT―シャツと色あせたデニムを着せれば、大体、俺だ。
職業は、学歴潰しに近いが、オカルトよりのサブカル雑誌のライター。
元々の経験はもとより、大学時代のあれやそれやでそれなりにそう言う体験をした成果、オカルトライターとしてと所謂、語り部としてもそれなりに有名だと思う。
夏には、そう言うイベントに語り部で出ないか?って来るからなぁ。
筆名とかそう言う活動は、苗字をひっくり返して『八守』で統一してる。
元々実家の本来の名前らしいのと、ユキ先輩曰く、その名前自体が大きな守護になってるらしい。
こう言う商売やるなら、ちょうどいいんじゃない?とも。
確かに、名前は一番短い呪だってからな。
俺自身は、一応、レベルの霊感はあるけど、視えるのと相手次第で話せるぐらいだ。
零感ではないけども、戦闘と言うかそう言う意味では戦力にはならない。
一応、自分の身ぐらいは守れるけども、それでも俺は一般人だ。
口に入れない用の塩と水は持ち歩くようにしてるが、それでも俺は一般人だ。
んでだ。
俺はこの度、引越しすることになった。
勿論、俺自身の予定でもなんでもない。
十日ほど前に、住んでいたボロアパートで家事が出たぐらいなら、まだしも、其処に消防車よりも早くトラックが突っ込んで、一棟全焼したわけだ。
たまたま、会社に資料の大半とパソコンを持っていたから、燃えたのは俺の家財道具ぐらいなもんだ。
ほとんど寝に帰るだけレベルじゃないにしろ、割とそれに近いせいもあったが。
んで、アパートの大家さんが知り合いの不動産屋に交渉して代わりのアパートを探してもらって。
後、トラックの所有者と言うか所有会社が、それまでのホテル代と引越し代を持ってもらって、引っ越したわけだ。
……オカルトライターをやっていて、そう言う噂のある中でも極め付きの『裏野ハイツ』に。
一応、幾つか、候補があったけども。
下手に他の人に選ばれたら、マズくね?とは思ったんだけど、最悪、ユキ先輩に頼る前提でそこを選んだ。
最寄り駅まで徒歩7分で、商店街を通るもんだから、徒歩10分圏内にコンビニ・郵便局・コインランドリーまである。
ついでに言うなら、美味い定食屋もあるから、独り身には嬉しい。
ユキ先輩の住む多須観音からも一時間圏内なのも助かる。
最悪、歩いてでもどうにかなる範囲だから。
と言うことは、必然、県内で一番でかい駅にも一時間かからないぐらいの繁華街と言ってもいい立地のアパートだ。
探したのが、十年近く前だからまた変動はしてるだろうが、少なくとも、この立地で五万はない。
同じような条件で、十万近かった覚えがある、多少は下がった上がったはあっても、八万より下はないだろう。
多少古くて、独立洗面台じゃないアパートで七万五千だったし。
おう、わざと危ないのを選んだ。
さっきそう言ったな、そう、このアパート。
二棟あって、俺が入ったのが、裏野ハイツA。
二部屋以外埋まってない方が、裏野ハイツB。
その二部屋の片方が、このアパートの大家のおばあちゃんだ。
おばあちゃんは、着物でこそないけど、ぽたぽた焼のおばあちゃんっぽい死んだばあちゃんを思い出すようなそういうばあちゃんだ。
なんか、ばあちゃんがゲシュタルト崩壊しそうだな。
俺が入った方、と言うか、入った203号室。
ハイツBもやばいが、俺の部屋もヤバイ。
思わず、カタカナ表記しちまうぐらいにヤバイ。
俺が調べた範囲でも、ヤバイと思う。
築三十年なのと大家のおばあちゃんの高齢からして、後二十年しないうちに怖されんだろうなって言う探せば、それなりにあるようなアパートだと思う。
思うんだが、多分、ユキ先輩の母親の実家が出ないとマズイレベルだと思う。
元々は、前の世界大戦後の都市計画で、此処にはそれなりにでかい集合住宅が建っていた。
トキワ荘みたいな六畳だか八畳一間のが十部屋ぐらいのなんつのかね、下宿ってのかな。
まぁ、名古屋は、一回完全焼け野原から、計画的に練り直したから、地下鉄を地上からでも辿れるような街だからな。
んでだ、だけど、今は1LDKのアパートが二棟だ。
追跡できた範囲で、だが、その下宿出来て十年目に壊されてる。
それが四十年前だな。
壊された理由は、下宿でか、下宿を出た後に、下宿生とおばあちゃんの両親まで、ほぼ九割死んでること。
加えるなら、病死と寿命的な意味の死亡はない。
全部が全部、追跡できる範囲で、通り魔に刺されただの交通事故だの喉を掻き毟って死んだとか、そう言う類なんだな。
それとなく、ユキ先輩の実家か同系統出張ったらしいことは聞いたから。
土地の怨念か因縁があったんやろうな。
まぁ、そう言うのは、自己保身以外学ばない俺でも、あの名古屋大空襲の犠牲を利用すれば、色々できるよなぁ。
完全に門外漢な俺でもわかるし、聞いたらユキ先輩も表情消して『10は思いつけるぞ?』と言われたから、聞いたのは後悔した。
俺の息子が、縮み上がるぐらい怖かったとだけ言っておこう。
……まぁ、七十年経っても、戦争は終わってないからな。
んでだ、ユキ先輩の推測になるけど、そう言う怪死があった下宿をアパートに直したのは、時間と人の流れで浄化目的があったんじゃないか?とのこと。
アパートも、割と人の出入りがあるし、そう言う意図があるんだろうって。
だけども、『まぁ、呪術の方にも転用できるね、一種の蠱毒の壺だよ』とも。
割と人も長く留まっているらしいから、その弊害らしいけど。
うん、しこたま、叱られた。
手は出なかったけど、めたくそ、叱られた。
『なんかあったら、連絡よこせ。アパート倒壊させても、お前だけでも引っこ抜くぞ。』と助けてくれる気はあるみたいだ。
引っ越して、ある程度の荷物。
っても、食器棚とパソコン机をリビング机に置いて、パイプベッドと服を洋室に置いたぐらいだ。
ものは少ないし、そこに家事だったから更に少ない。
んで、引越し蕎麦とタオルを同じ棟に配って歩いた。
以下の印象は、更に数日過ごしてのも含む。
101号室の会社員のおっさんは、ちょっと中年太りがあるぐらいでどこにでも居そうなそんなおっさんだった。
気さくだったし、そう付き合いにくいわけでもない感じの人。
102号室の奴には会えなかった。
後から、聞いた感じ、オタクのアラフォーっぽい感じだ。
103号室は、30代の夫婦と子どもっぽい。
会ったのは、奥さんだったけど、ちょっと陰気な人だったと思う、美人だけど。
後、子どもがいるってことは、大学卒業後数年としても小学生ぐらいだろうに煩くない、と言うか本当に、子どもいるのか?
なんか、奥さん、ユキ先輩のおふくろさんの兄弟達と同じ匂いがしたぞ?
旦那も帰ったり帰らなかったりっぽいし、拓真でも調べ切れてないっぽいし。
201号室の年金暮しのばあさん。
世話好きってのもあるんだろうけど、寂しいのかね。
拓真に聞いたら、息子はいるらしいけどここしばらく様子を見にすら着てない。
まぁ、特別、ばあちゃん子ってわけじゃないけども、色々と教えてもらった。
ゴミの出し方だとか、出前のやってる店だとか、どこそこのピザはイマイチだけどよくチラシを配ってるとか。
だけどな、103号室のことは気付いてなさそうだったし。
202号室のことはなんも教えてくれなかった。
知ってそうだけどな、職業感としては、な。
202号室は入室済みなのは、確認してる。
人の気配。
音まで聞こえなくても、テレビつけてるんだなとか、トイレ行ったのかね?見たいに木造のアパートだとわかるもんだ。
前のアパートもそうだったしな。
少なくとも、なんかいるだろう。
なんにせよ、二週間少々は平穏だった。
半分は、会社に泊まりこんでたのもあるけども。
多少、足音や202号室側の壁から引っ付いているような気配を感じても、平穏だった!!
そうさせてくれぇぇぇええええ。
この間に、色々とわかって俺のSAN値はマッハになったけども。
とりあえず、入居して一ヶ月も経たないが、俺は引越しを決めた。
まぁ、連休なんかの関係で、あと三週間生き残るぞ、俺。
俺、引越しできたら、ユキ先輩と拓真と酒盛りするんだ……。
直接的なことがないまま、後、数日で引越し予定の夜のことだ。
今日と明日、職場の清掃の関係で、出社しなくてもいい日だった。
寝るに寝れず、寝酒を煽るが、寝れない。
呑んだ端から醒める感じだ。
隣の気配がヤバイ、と言うか、大家のばあちゃんに突撃すればよかったか?
平穏に過ごしたかったから、何かを確実に知ってるばあちゃんには聞けなかった。
ついでに、今、外の階段から、軋む音とハイヒール系統の音がする。
古い木製の階段を上るような軋みとハイヒールが鉄製の階段を上がるような音だ。
半分このアパートの外階段は、補強と兼用してる部分があるが、間違っても、木製の階段を上るような軋みは間違ってもしないはずだ。
もしかして、下宿時代の階段と外の鉄階段繋がってるのか?
コツン…………コツン………
…………ぎぃぃぃい…………ぎぃぃいぃ……
んでだ、ユキ先輩からはなんかあったらすぐに電話掛けろって言われた。
さっきも書いたけどな、でも、繋がらない。
そして、ユキ先輩から教えられたことがぐるぐるする。
―『音を伝えてくる相手というのはそれだけで強力だ。』
-『人間がね、あちら側と交信する力の中で一番、最初に捨てたのは耳だよ。』
-『確かに、聞こえればそれだけ備えれるけれど、同時に取り込まれてしまう。』
-『メリーさんがいい例かな。あれは、電話を介して、自分の領域に招きいれているもんだね。』
-『対処は、簡単と言えば簡単かな、物理的に音を断てばいい。』
-『でなけりゃ、聞かなきゃいい。』
今の俺には、どっちもできなかった。
外を寝室にしてるけども、二階ぐらいなら飛び降りればいい。
だけども、無理だ。
夜に紛れて色は分からないが、暗い色の水が浅くとは言えアパ-トの敷地が沈んでいる。
ただの水だと、楽観は出来ない。
かと言って、外に出て行けないし、フルボリュームで音楽を鳴らしても、音が離れない。
そして、軋む音が止まった。
『ネェェエ、アァァナァアタアアヲォォォオチョオォォオウゥゥゥウダァアァアイィィィ。』
そして、俺は気絶した。
次に目覚めたら、右足とあばら骨を折って入院してた。
そして、退院したら、あのアパートは無くなってた。
俺が入院した未明に、火が出たらしい。
201号室のばあちゃんと大家のばあちゃんが逃げ遅れたらしい。
伝聞ばかりだけど、そうとしか言いようがない。