学校に行かなきゃ
「おはよう。崎野君」
可憐な女子高生たちが挨拶をかわしながら歩いていくこの道で一人の女生徒が声をかけてきた。
「あー、えっと君誰?」
見たことがない顔だと思った。しかも顔の半分はマスクで隠れていた。すると声をかけてきた彼女は俺の発した言葉に若干驚きを表しながら、またもや口を開いた。
「あら、覚えてないのね。残念だわ。」
仕方ないだろう。分からないものは分からないのだから。だけども今の発言には気になる点が一つあった。目の前の彼女は先程とある言葉を発したのだ。彼女自らの口で『覚えてないのね』と。不思議な感覚が訪れた。なぜだろう。この女生徒には関わってはいけない気がした。
「えーと、人違いじゃないかな?それに、学校もうすぐで始まっちゃうから、もう行くね。」
とりあえず、言いたいことは言った。自分の考えではこの彼女は自分と誰か他の人物とを間違えているのだと。そして、本当に学校が始まってしまう。大体あと十分かそこらだろう。早くこの場を去り、学校に向かわねばと思っていた。
「貴方で間違いないわよ。そういえば今日は平日だったわね。忘れていたわ。」
彼女は凛とした瞳でこちらを見つめながら、はっきり『間違いない』と。それにしても学生が通学して、自身も制服を身にまとっているにも関わらず忘れる。直感僕は彼女を変な人だと思った。
「それよりも貴方気づいてないの?」
気づいてないの?のと聞かれて最初意味が分からなかった。だが、彼女の次の言葉でようやく理解した。
「あなたの学校の女子の制服と私の着ている制服。同じものよ?」
よくよく見てみればそうだ。自分の学校の制服は、男子は黒のブレザーに色味の強い灰色に紺のチェックが入っておりシャツは薄い水色のものだ。女子も黒のブレザーだが、スカートは淡い灰色に赤のストライプがはいっている。
「それにしても時間は大丈夫なのかしら?」
時間?すっかり忘れていた。急いで鞄から折り畳み式の箒を出す。
「そうだ!遅刻しそうだったんだ。それじゃ先行くからまた後で!」
箒にまたがった時。腕を引っ張られて、ほっぺに何かが当たった。
「えぇ。また後でね。崎野君」
なぜ僕の名前を知っているのか聞こうと振り返ったがそこには彼女はいなかった。あったのは一切れの紙だけだった。何が書いてあるか確認するため箒をおりて、紙を見た。
【先に学校についてるわね。】
この紙を見つけてすぐ学校に向かうため箒にまたがったと同時に始業のチャイムが鳴り響いた。