その1
吸血鬼、人狼、夢魔、生ける屍や食屍鬼など。夜の世界を基本生活圏とする種族は多い。彼らは総称して『夜留』と呼ばれるが、その定義は曖昧で、太陽に灼かれて死ぬようなものもいれば、フクロウやハムスターよろしく単純に夜行性というだけのものもいる。とは言え純粋な意味での夜行性なだけの生物は『夜留』に含まれない。『夜留』唯一の絶対的な共通定義は太陽を恐れること。彼らにとっての太陽は死そのものなのだ。生物が共通して死を忌避するのと同じ理屈で、彼らは太陽を恐れる。純血種のヴァンパイアなどでも、根の部分では太陽が弱点なのだ。例外はない。ないはずだ。ならば……自己の能力によって太陽を真の意味で克服してしまっているカチューシャは、果たして『夜留』と呼べる存在なのだろうか。
――それにしても、よく寝るなあ……。
気持良さそうな顔で眠るカチューシャを見て、陽介はなんとなく和んでいた。
――でもいい加減、寝過ぎだろ……。
とっくに太陽は昇り始め、もうすぐ昇り切ろうとしていたが、カチューシャはまだ目を覚まさない。『真っ白な紙』という能力を持ち、一ヶ月間幸人のところで過ごしていた彼女は、既に生活リズムが昼行性へシフトしているはずであるのだが、彼これ十一時間は眠ったまま。
――とりあえず、二人分用意するか。
起きるかどうかも分からないカチューシャの分も含め、陽介は昼食の炒飯作りにとりかかった。ヴァンパイアであるカチューシャに本来食事は必要ない。ただ、まだ人間だった頃の癖が僅かにでも残っているのならば、空腹感は錯覚として残されているはずである。それを知っているからこそ、陽介はカチューシャの分も含めた二人分の食事を作っていた。
フライパンに放り込んだ飯がパラパラとしてきた頃、ようやくカチューシャが目を覚ました。大きな欠伸とともに。
「ふわあぁふ。あぁ、おはようございます」
「おはよう。と言っても、もうすぐ昼の十二時だけど。昼ご飯、食うか?」
「いただきます」
「もうすぐ出来るよ。好き嫌いとかはないか? 今作ってるのは炒飯だけど、大丈夫?」
「食べたことはないですけど、大好物です」
「食わず好きとは珍しいな……。まあ、いいや。カチューシャ、食器棚から皿を二枚取ってくれるか?」
「了解しました」