その3
二人の店員と別れ、一度荷物を置きに帰った陽介は、今度こそ当初の目的である城に来ていた。立ち入り禁止のテープで囲まれた現場で、青い作業着の捜査員たちが中腰となって、地面を注意深く観察している。テープの外は何人もの野次馬たちでごった返している。彼の傍にカチューシャはいない。買ったばかりの服を由孝の家で試着しているためであった。
「店で十分試着しただろうにな」
「組み合わせっていうのがあるだろ。揃えて着てみないと分からないこともあるんだよ」
「そんなもんかね」
カチューシャの代わりに彼の隣にいるのは由孝。実は陽介以上に外出する機会の少ない彼女。今日は日差しが強いからということで、キャップを目深に被り、サングラスまで掛けた重装備で身を固めている。そのため、周りにいる人々から、少なからず注目を集めてしまっている。
芸能人の変装か何かだと思っている人間もいれば、ここで見つかった斧の持ち主ではないかと疑っている人間もいた。もっとも、割合的には後者の方がよっぽど多かったのだが。
「しっかし、まだ立ち入り禁止のままなんだな。折角来たのに、これじゃあ何が何だか分かりゃしないじゃないか」
「そうだな。仕方ない、もう帰ろうか。悪いな、由孝。わざわざ付き合わせって」
「構うことないって。アタシが好きで付いて来たんだから。でも、折角外に出た以上、これで帰るのも味気ないな。どっか寄って行こうぜ」
「どっか、ってどこだよ」
踵を返した陽介は、歩き出しながら訊ねた。彼に続いて由孝も歩き出し、少し考え込んでから答える。
「そうだな……ミナトなんかがいいな。こんなに暑い日はアイスでも食わないと、溶けちまいそうだ」
「溶けるのはアイスの方だろ」
まったく。と、陽介は続けた。