おまけ 先日のご令嬢
依頼を終え、帰還しようとしたクレメンスを女性が呼び止めた。
クレメンスが振り向くと、侍女を従えた令嬢が立っていた。
「お嬢様がお話ししたいことがあるとおっしゃられて……」
侍女の言葉にクレメンスはチラリと令嬢をみる。
令嬢は何やら深刻そうにうつむいていた。
「承知いたしました。お伺いいたしましょう」
クレメンスは微笑む。
侍女は深々とお辞儀をすると、庭園にある四阿へ案内した。
令嬢とクレメンスは四阿に設置された椅子に腰かけた。
侍女は一礼するとさがった。
二人きりになった。
しばらくすると、令嬢は頬を桜色に染めながら口を開いた。
「お慕い申し上げております」
そう言うと恥ずかしそうに手巾を弄りながらうつむく。
クレメンスの眉がピクリと動いた。
「それで? 」
令嬢は不思議そうに顔をあげた。
「あなたのお気持ちはわかりました。ほかにご用件は? 」
令嬢は呆然とクレメンスをみつめている。
「ないのならば、私は失礼させていただきます」
クレメンスは立ち上がろうとした。
「あの……。お気持ちを……。お気持ちを教えて下さい」
令嬢は慌てて引き留めるように言った。
「気持ち? 私の気持ちですか? 」
クレメンスは座りなおす。
「ええ。私のことをどうお思いでらっしゃるのかを……」
令嬢はクレメンスを真っ直ぐに見つめる。
「そうですね……」
クレメンスは考えるように視線を落とした。
「あなたはお美しい方ですね」
顔をあげ、令嬢をじっとみながらこたえる。
令嬢の顔がぱぁっと華やいだ。
「これでいいですか? では、失礼いたします」
クレメンスは再び立ち上がろうとした。
「え? あの……、お待ちになって」
令嬢はすがるように引き留める。
「まだ何かあるのですか? 」
クレメンスはうんざりした顔で座りなおした。
「あの……。また、お会いしていただけますか? 」
令嬢は上目使いにクレメンスをみつめると、艶を含んだ笑みを浮かべた。
「お断りいたします」
クレメンスは冷ややかな声で言った。
「え? だって今、私のことを美しいって……」
令嬢は目を丸くしながらなじる。
「容姿に対する感想を述べただけです」
「あの……」
クレメンスはため息をついた。
「あなたもわからない方ですね。率直に申し上げても構いませんか? 」
「はい」
令嬢は少し声を震わせながら返事をする。
「興味がありません」
「え?」
「確かにお美しい方だとは思いますが、それだけです。私はあなたに何の興味もおぼえない」
クレメンスは令嬢をじっと見据えながら、感情のない冷えた声で淡々と言った。
「ひどい……」
令嬢は目を見開き、つぶやく。
「ひどい?」
クレメンスの瞳の奥がキラリと光る。
そして口元を楽しそうに歪めると「フフフ」と嗤った。
「あなたがそう思うのならば、私はひどい人間なのでしょう。これで用件は済みましたね? では失礼させていただきます」
クレメンスは立ち上がり、一礼すると、四阿を後にした。