結末
翌日、リンダはジャネットに叩き起こされ、早朝から両親とともにクレメンスの館へと向かった。
「承知いたしました。私が責任を持って、必ずやお嬢様を上級魔術師にしてみせましょう」
クレメンスはそう言うとニッコリと頷いてみせる。
「よろしくお願いいたします」
エスタークとジャネットは立ち上がり、深々と礼をした。
リンダも慌てて立ち上がると、両親にならった。
「リンダ」
クレメンスに呼ばれ、リンダは顔をあげた。
「これからは今までのようには行かぬぞ。手を抜いたら許さぬ。覚悟はできているな」
クレメンスはリンダの目をじっと見据え、厳しい声で言った。
「はい」
リンダはクレメンスを見返し、決意をあらたに頷いた。
「うむ」
クレメンスは頷くと、顔をほころばせ、穏やかな微笑を浮かべた。
「では、行きなさい」
リンダは一礼すると、両親を残し、応接室を後にした。
廊下に出ると、カルロスとロジーナが立っていた。
カルロスはリンダと目が合うと「よっ」と片手を挙げた。
「おけぇーり、っうより、ようこそだな」
そう言って破顔した。
「リンダ。本気モードの師匠は、マジでやべぇーぞ」
カルロスはきょとんとするリンダに近づく。
「『人間の皮を被った悪魔』ってのも、あながちウソじゃねぇ」
小声で言うと、リンダの背中をバシッと叩いた。
その衝撃に、リンダは思わず前のめりになる。
「ガハハハハ」
カルロスは大声で楽しそうに笑うと、伸びをしながら廊下の奥へと消えていった。
「ロジーナさん」
リンダは、無言でカルロスの後に続こうとしたロジーナを呼び止めた。
振り向いたロジーナは首を傾げ怪訝な顔をする。
「市で、あなたが教えてくれなかったら、私、辞めていたと思う。ありがとうね」
リンダはニッコリと笑いかけた。
ロジーナは一瞬目を見開いた後、リンダから目を逸らすように視線を斜め下に落とした。
「コイン、出してくれたから」
蚊の鳴くような声でそういうと、パッと身をひるがえし、廊下の向こうへと駆けて行った。
リンダはそんなロジーナの後ろ姿を、微笑みながら見送った。