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リンダは、迎えに来た女中のイルゼと街を歩いていた。

あの後、マリアンヌたちを探したが、予想通りその姿を見つけることはできなかった。


イルゼは沈んだ面持ちのリンダを励まそうと、少し回り道をして市に行くことを提案した。

都の港の近くにある市には、ありとあらゆる物資が並んでいる。

行き交う人々で常にお祭りのようだった。


「リンダお嬢様。ほら、あちらを御覧なさいましな」

イルゼの示す方を見ると、異国の民族衣装を着た一団が、太鼓を叩きながら踊りを披露していた。

その軽快なリズムは、ドンドンと身体の中にまで響いてきて、一緒に踊りたくなるような、そんなリズムだった。


リンダは引き寄せられるように近づき、驚いて足を止めた。

一団の真ん前、しかもど真ん中に買い物袋を持ったロジーナが立っていた。

ロジーナは食い入るように彼らを見つめている。


リンダは何となく気になって、ロジーナの横顔がよく見える位置に移動する。

ロジーナはリンダの視線に全く気がついていないようだ。

まばたきもほとんどしないで、見入っている。

気付かれないことをいいことに、リンダはロジーナをじっくりと観察する事にした。


ロジーナは一見、身じろぎもせずに見入っているようにみえるが、よく見ると、太鼓のリズムに合わせて、微妙に頭を上下に揺らしていた。

太鼓がドンと鳴ると、ロジーナの唇がかすかに動く。

指が中央の踊り手の動きに合わせて揺れている。

リンダはそんなロジーナを眺めながら、思わずクスリと笑ってしまった。


曲が終わると、歓声が上がった。

踊り手たちはニコニコしながら、小さな笊をもって観衆の間を歩き回る。

人々はその笊の中にコインを投げ入れる。

踊り手の一人がロジーナの前に笊を差し出した。

ロジーナはハッとしたように笊を見つめた後、戸惑うようにキョロキョロと視線を動かした。


リンダはイルゼが用意したコインを受け取ると、ロジーナの真横にスッと立つ。

合図をするかのようにロジーナをチラリとみてから、笊の中にコインを投げ入る。

横を向くと、ロジーナが目を大き見開いてリンダを凝視していた。

リンダはロジーナに微笑みかける。

「あ、ありがとうございます」

ロジーナは嬉しそうに少しはにかみながら、ぺこりと頭を下げた。

リンダはロジーナが顔をあげると軽く頷き、イルゼを従えて立ち去ろうと歩き出した。


「リンダさん」

ロジーナに呼び止められ、リンダは振り向いた。

「あの……。リンダさんなら上級魔術師になれるって。師匠とカルロス先輩が、前に、そんな話してました」

ロジーナはそれだけ言うと、ぱっと身をひるがえし、駆けて行ってしまった。

リンダは呆然と、ロジーナの後ろ姿を見送った。

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