終わりと始まり
チェンジリング。取り替え子。
それは、ヨーロッパの昔から存在する伝承。人間の子どもがひそかに連れ去られたとき、その子の代わりに置き去りにされる子のことを指す。妖精が連れていくのは、主に洗礼前の幼子や若い女性、特に金髪の持ち主は狙われると言われている。
当時の俺はそんなおとぎ話や伝説、ファンタジーが好きではあったが、信じてはいなかった。
2月。学生にとって終わりと始まり、別れと出会い、卒業式と始業式が控えているこの時期。大学4年生の俺はうまくいかない就活という悪魔に追い込まれていた。
なんとか内定をもらいたい。そんな思いでどうにか今日まで戦ってこれた。
あとは最終面接でうまくいけば内定か。だけど…
「俺の人生ってこんなもんかな?」
もっと努力をしていれば、もっと死ぬ気になって何事にも励んでいれば、人生の勝ち組という者のなれたのだろうか。いやなっていただろうな。少なくとも大学はもっと偏差値が高いところで青春を謳歌していただろう。そう思うとなんだか悔しい。過去の自分を殴りたくなってくる。
そんなとき俺のスマートフォンが鳴り出した。
「っ!?また電話か。」
就活をしているとよく会社から電話が掛かってくる。この手のものは、合同説明会のときのアンケートなどに記した電話番号を使って会社説明会への勧誘をしてくることが多い。無視をしたいところだが、もしかしたら最終面接の結果の知らせかもしれない。
のどの調子を整えるために咳払いを一回。
さあていったい誰だ、俺に電話してきた奴は?
のどの調子を整え、電話に出る。
この時の俺は、まさかこの電話が自分の人生を180度変わる片道切符になろうとは夢にも思わなかった。