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光る道を捉まえて  作者: 相上園
8/17

6-2 ◇

 

     ◇


 オリエンテーションが始まった。

 先生からの全体説明が終わるといよいよ班ごとに夕飯作り。ご飯を作ること自体は苦ではないけど、ここで求められているのはチームワーク、班の仲間で共同作業をすること。いよいよ私は追い込まれてしまった。一人で勝手にやってしまったり、逆に一人だけ何もしないとなればもう打ち解けるなんてことは夢のまた夢だ。恥ずかしがらずに、自分から声をかけていかなきゃ。

 私の班には山根さんがいる。他の人とは話したことはないけど、そこは徐々に話していけばいい。肝心なのは黙り込んで自分の世界を作ってしまわないこと。幸いこの班の男子の人たちもあまり怖そうではないし、むしろ気さくな人たちみたい。

 そう自分に何度も言い聞かせたのに、いざ料理が始まると、想像通りそう簡単にはいかないことを痛感してしまう。

 男子が火を焚いて、女子がその間に野菜を切るという役割分担をしたはいいけど、包丁が二本しかなかった。そこで「私がやるよ」の一言が言えなかった。包丁で野菜やお肉を切る作業は山根さんと相坂さんが担当するとこになってしまい、私はやるとこがなくなってしまった。

 どうしよう、このままだと一人だけ何もしてないままだ。何かしなくちゃ。そう思ってももう私にできることは何もない。どうして「代わるよ」の一言が言えないのだろう。悔しくて泣きそうになる。

 「よっ、どんな感じよ」

 と、陽気な声で現れたのはこーちゃんだ。ジャージにエプロン姿。みんなそうなのに、こーちゃんだけなぜか異様に見える。似合ってなさすぎ。

 「ん~いい感じじゃん」

 こーちゃんは後ろに手を回しながら山根さんが切った野菜を見て言った。何がいい感じなのか、こーちゃんに見てわかるのか、疑問だ。

 「あ、立花君。何してるの?」

 「いや、クラスの出来を見て回ってるのよ」

 「大変だね。委員長の仕事?」

 「まさか、なにもやることがなくて暇だからだよ」ははは、とこーちゃんは笑った。私もこれくらい気楽に構えてみたい。

 すると、同じ班の高橋君と武田君が言った。

 「おい委員長! しっかりやれよ」

 「うちの班は優秀だから俺がいなくても問題ないの。お前たちこそどうなんだよ?」

 「バッチリに決まってんだろ。ほら」

 二人が言う通り、火はもう既に点いていた。

 「やるな、後は野菜と肉を切るだけか――ってこらこら相坂さん、野菜の大きさ違いすぎないかそれ」

 みんなの視線が相坂さんの手元に集まる。……確かに、相坂さんはすごくぎこちなそうに野菜を切っている。その形、大きさにはそれぞれちょっと差があり過ぎる。

 「やったことないって感じが如実に表れているねこりゃ」

 「う、うるさい! しょうがないでしょやったことないんだから! そんなに言うなら立花君やってよ!」

 そう言って相坂さんは包丁をこーちゃんに差し出した。でもこーちゃんはその包丁を受け取ろうとしないまま答えた。

 「俺の技術をお披露目したいのは山々なんだけど、あいにくここは俺の班じゃないからね」

 その顔はまた意地悪いものになっている。

 「そう言って逃げるんだ?」相坂さんがニヤッと笑った。ちょっと怖い。

 「そう挑発すんなって、それに適任ならここにいるじゃん」

 そしてこーちゃんは私を見た。さっきの相坂さんの時のような視線が、今度は私に集まった。自分で自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 「え、ええ! わ、私? 無理だよ!」

 自分で望んでいたことなのに、なぜ拒んでいるんだろう。任せて、その一言を言えばいいだけの話なのに――

 「またまた~ご謙遜を。能ある鷹は爪を隠すって言うけどな、隠しっぱなしじゃ能があるのかないのか分からないままだぞ?」

 「天瀬さん、お料理するの?」

 山根さんが笑顔で話しかけてくれた。なんだか恥ずかしくてうつむいてしまったけど、「ちょっとだけ」とやっと答えられた。

 「じゃあやってくれない? 適材適所ってやつ?」

 「ほう? なら相坂さんの適所はどこにあるのかな?」

 「立花君、いい加減にしないとぶつよ?」

 相坂さんがこぶしを振り上げた。こーちゃんは「おーこわ」と言って、なんだか正義のヒーローにやっつけられて退散していく悪の組織の人たちみたいにそそくさと逃げてしまった。

 本当に、私はこーちゃんがいないと何もできないんだな。

 きっと、やることがなくて他の班の様子を見て回っているなんてのはただの名目で――いや、何もやらせてもらえないのは本当だろうけど――私が班の人たちとうまくやれていないことが分かっていたから見に来てくれたんだ。実際、私は何もできていなかった。こーちゃんの予想通り。だから助け舟を出してくれた、それもなるべく自然に。それはこーちゃんなりの気遣いなんだろうけど、こーちゃんが私のことを誰より分かってくれるように、私も、こーちゃんのことを誰より分かっているのだ。

 「また、迷惑かけちゃったな」ふう、ため息といっしょに誰にも聞こえない声でつぶやいた。本当に、情けないな。いつもいつもこーちゃんに助けてもらってばっかり。小学校三年生の時も、中学校の三年間も……。

 「あれ? どうしたの天瀬さん?」

 山根さんが心配そうに私の顔をのぞきながら言った。思わず顔をそむけてしまった。

 「玉ねぎが……」

 「ああ、なるほど。ゴーグルでもあればよかったのにね」

 「そうだね」

 でも、それじゃ言い訳できなかった。


 高橋君たちが飯盒で炊いたご飯を容器によそってから、出来上がったカレーをかけて、みんなでテーブルを囲む。

 私はここにいてもいいのだろうかと言う不安が心のそこでもぞもぞ動いて落ち着かない。

 「やっぱり、カレーなんだよな」

 「当たり前だろ、これがチャーハンに見えるか?」

 「いや、そうじゃなくってさ、やっぱキャンプって言ったらカレーなんだよなって」

 高橋君は自分の前に置かれたカレーをすごい真剣なまなざしで見つめながら言っていたんので思わず笑いそうになるのをお腹に力を込めて堪えた。

 でも確かにキャンプといえばカレーが定番というか、ほとんど常識になっている気がする。

 「一体誰が始めたんだろうな」

 「文部科学省じゃねーの?」

 それはどうだろうか……。見ると武田君はやはり真面目な顔をして言っている。

 「あ、天瀬今笑ったな?」

 しまった、顔に出ていたみたい。

 「ご、ごめん」

 「そりゃ天瀬さんだって笑うよ。なんで文部科学省が出てくんだよ?」高橋君もそう言って笑った。

 「確かに」

 「今のは武田君が変だった」

 相坂さんも山根さんも笑った。武田君以外の人たちがみんな笑った。こうやってみんなで笑うのは中学校以来かも、なんだか楽しい。

 「なんだよ、みんなして馬鹿にしやがって」そう言って武田君がすねたふりをするのもまたおかしくて笑った。すごく楽しい。

 「いつまで笑ってるんだよ。早く食べようぜ」

 みんなでいただきます、と言って食べ始めた。なんてことない普通のカレーが、今まで食べたことないってくらいおいしい。これは文部科学省が始めるのも無理はないな。

 「あ! このジャガイモ中まで火通ってないぞ!」

 「じゃあそれは相坂さんが切ったやつだ」

 「どのお口がそんなことを言うのかな武田君? 高橋君も、そのジャガイモがどうしたって?」

 「……何でもないです」

 「……おいしいです」

 相坂さんの笑みには男の子顔負けのすごみというか、威圧感というか、そんなものがある。でも、決してこれは本人に言ってはいけないな。そんなことを考えていたら、「それにしても」と言って相坂さんがこっちに振り向いたのでつい身体がびくっと反応してしまった。

 「天瀬さんってほんと料理上手だよね。よく家で作ってるの?」

 「いや、たまに手伝ってるだけで……」

 「たまにでこんなにうまくなれるもんなのか。高橋んちの母親も見習ってほしいくらいだ」

 「おい! なんでうちなんだよ!」

 またみんなで笑った。笑いすぎてお腹が痛くなってきた。あー、すごく楽しい。ご飯を食べた後の少しの自由時間も、この班のみんなで話をして過ごした。

 就寝時間になると女子は二つの部屋のに分かれた。私がいるほうの部屋には相坂さんも山根さんも一緒になった。部屋には二段ベッドが四つ。そのうちの一つ、上の段に相坂さん、下の段に私、隣のベッドの下の段を山根さんが使うことになった。

 「なんか、まともに話したの今日が始めてだったよね?」二段ベッドの上から相坂さんが顔を出していった。

 「うん、私ってば人見知りがすごいから、全然話しかけられなくて」

 「実は、今までなんとなく話しかけづらかったんだ。でも、実際話してみると全然そんなことないし、料理もできるし、これならもっと早くから仲良くなってればよかったな~」

 やっぱり話しかけづらいんだな、私って。思わず苦笑い。でも、今はそんなことを言ってもらえるようになった。それが嬉しい。

 「私も、なんだか相坂さんって怖い人なのかと思ってた」

 「なんだと~」部屋にいるみんなが笑った。

 「なんだかんだ、今日の班をクジで決めたのは正解だったね」

 「そうだね」山根さんの上の段にいる野崎さんが言ったことにはみんなが共感した。本当に、クジで決めてよかった。そうじゃなきゃきっとここまでならなかったと思う。こればっかりはこーちゃんに感謝だ。

 「もしかして、立花君ってちゃんとこうなることを考えて決めたのかな」

 「それはないよ~」

 山根さんが危うく誤解をしそうだったのでキチンと訂正しておかなきゃ。ただこーちゃんは自分の楽しみのためにクジにしたのだから。

 「そういえば天瀬さんって、立花君と幼馴染なんだよね?」

 あれ? なんで知ってるんだろう? ……ああ、きっとこーちゃんが話したんだな。でも改めて幼馴染って言われるとなんだか照れくさいな。

 「うん、そうだよ」

 「立花君って小さいころどんな子だったの?」

 「それ私も気になるな」

 違うベッドにいる鈴木さんが身を乗り出してきた。それに続いて他のみんなも「私も気になる」と言ってベッドから身を乗り出してきた。やっぱりこーちゃんって人気があるんだな。「う~ん……ほとんど今と変わってないよ。あんまり勉強できなくて、テスト前になると決まって私のノート借りに来たり」

 「それでそれで?」

 相坂さんが先を促す。

 う~ん、みんなの反応から察するに、どうやらこれくらいじゃ勘弁してくれないみたい。ゴメンこーちゃん、許して。

 見回りに来た先生に怒られるまで、ずっとこーちゃんとの昔話をして、みんなで笑った。

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