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光る道を捉まえて  作者: 相上園
5/17

4-2 ◇

日曜日。私はこーちゃんと墓参りに来ていた。天瀬家の墓、私の先祖が眠る墓、私の両親が眠る墓。

 「やけに長く手合わせてたけど、おじさんたちに何話してたんだ?」

 その帰り道、こーちゃんが私に聞いた。

 言おうか言わないか少し迷って「教えない」と答えた。

 「なんだか、こーちゃんに言っちゃいけない気がする」

 特別理由があったわけじゃなかった。でも、これはこーちゃんには言っちゃいけないという思いが漠然とあった。

 「なんだそれ、どーゆー意味だよ?」

 「さあ?」

 「さあ? って……まあ、いっか」

 こーちゃんは少し肩を落とすしぐさをしたけど、すぐ元に戻った。

 「まあ、いっか。はちょっとひどくない?」

 その興味のなさそうな姿ちょっと気に入らなかった私は思わず突っかかってしまった。

 「じゃあ、興味津々に聞けば教えてくれるのか?」

 「それはない」言っていて自分でも目茶苦茶だな、と思った。

 「なんなんだよ」

 「ただ、もう少し食い下がってくれてもいいじゃん」

 そんなことを言って少しすねて見せる私。そんな様子を見て、はあ、と小さくため息をついたこーちゃん。これじゃ私がこーちゃんの手を焼かしているわがままな妹みたいだ。

 「じゃあ、教えて」

 「やだ」

 「教えて?」

 「いやだ」

 「教えて下さい」

 「いやです」

 「教えろよ!」

 「くどい」と私はぴしゃりと言い放った。こーちゃんは「ひどっ!」と言って、がっくりうなだれた。

 それで、二人で笑った。

 「なんだか少し腹減ったなあ」

 「もうすっかり食いしん坊キャラ確立だね」

 「俺は成長期で食べざかりなの。加奈こそ最近食べすぎじゃないか?」

 「女の子に向かってそんなこと言わないの! それに最近食べすぎちゃうのはこーちゃんのせいだよ!」

 「人のせいにするのは良くない」

 「こーちゃんがいっぱい食べるから、おばさんもいっぱい作っちゃって、その影響が私にも来てるの」

 「なら残せばいい」

 「おばさんが朝早くから作ってくれてる料理を?」

 「…………」

 「やっぱ、こーちゃんのせいじゃん」

 「ああ、すげー腹減ったなあ」

 「話をはぐらかさないの! それにそのはぐらし方だとまた同じ話になっちゃうよ?」

 「なるほど! やっぱり加奈は頭が良いなあ。そういえば小学校の頃からずっと成績は上位ランカーだったよな~」

 「結局はぐらかすんだね」

 二人でまた笑った。


 翌日。学校が始まって何度目かの月曜日。そんなに日にちも経っていないと思っていたのにクラスの人は早速気の合う仲間たちとかたまるようになってきた中、私は未だにそういった輪の中には入れずに一人でいることが多くなっていた。多少会話はすることがあっても、自分から積極的に関わって行かない私に、クラスメイトも積極的に関わりに来ようとはしなかった。

 その反面、こーちゃんの周りは男女問わずいろんな人が集まってきていた。明るく、優しく、ちょっとお馬鹿で面倒見が良いこーちゃんは、入学してすぐクラスメイトと打ち解けていた。

 そんな姿を見て、私も何度も頑張ろうとした。何度も自分から話しかけようとした。でも、もしかしたら、迷惑なんじゃないかな。もしかしたら、拒絶されてしまうんじゃないかな。そんな思いがすぐ浮かんでしまって、どうにも行動に起こせないでいた。

 その日の帰り道も、私の気持はずっと沈んだままだった。

 「なあ、加奈のこと、俺からみんなに紹介してやるよ」

 こーちゃんも最近はこのことに関してはあまり触れずにいた。こーちゃんもそれが私のためだと思っていたんだろうし、私自身もそれを望んでいると察してくれていたからだと思う。でも、最近の私の様子を見てそうも言っていられない、そう思ったのだろう。久しぶりにこの話をしてきた。

 「みんな良いやつだからさ、きっとすぐ仲良くなれるって」

 でも、私はうつむいたまま何も答えなかった。返事もおざなりに、私は別のことを考えていた。

 私がまだ、こーちゃんに会う前。

 私がまだ、こうなってしまう前。

 私がまだ……パパとママと別れてしまう前。

 私はこんなじゃなかった。人見知りとは無縁で、もっと明るくて、活発で、誰とでも仲良くなれると思っているような子だったはずだった。そんな「私」は、もうどこかへ行ってしまって、残された「私」は、似ても似つかない、違う「私」になっている。変わってしまった、そう、変わってしまったんだ。あれから――あの事故から、あの事故で、パパとママが死んでしまってから――それ以来、ずっと人の目を気にするようになってしまった。小学校に行けばクラスメイトから好奇の目で見られ、近所の人から悲哀の目で見られ、親戚からは同情の目で見られ、いつからか人の目を気にするように、おびえるようになってしまった。

 おじさんやおばさんやこーちゃんは、そんな目で見ることなく、本当の子供のように、本当の兄妹のように私に接してくれている。

 でも――どんなに否定しても、どうしても、心の奥底では思ってしまう。

 本当は……みんなもそうなんじゃないか、と。

 そんな「私」が、本当に嫌だ。

 だから……。

 「いい」

 「え?」

 その声には、私らしくないと自分で思ってしまうほど、強い、拒絶が含まれていた。それに、こーちゃんは驚いて聞き返してきた。

 「そんなことしなくて、いい」私はうつむいたまま答えた。

 「いいって……」

 「大丈夫、私、自分で何とかするから」

 「お、おい」

 「大丈夫だから」

 そう言ってこーちゃんに笑顔を向ける。その時のこーちゃんは、とても複雑そうな顔をしていた。それはきっと、私が本当に笑っていないことを、この笑顔の裏に何かを隠していることを、そしてその笑顔が何を隠しているのかを私はきっと教えてくれないだろうということを、分かったからだと思う。そんな気がした。

 「……そっか、ゴメンな! 余計な御世話だった」

 こーちゃんは手を振りながら言った。

 「ううん、そんなこと無いよ、ありがと」

 この前、二人の墓前での約束を思い出した。

 私は「私」のままじゃダメなんだ。

 だから私は、一人で頑張らなきゃ。

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