10-1 ◇
◇
「…………」
こーちゃんを見つけた。
とうとう。
やっと。
……なのに。
あんなに探していたはずだったのに、何の達成感もない。それどころかむしろ、何でだろう、落ち着かない。
こーちゃんは休んでいたはずなのに、別に体調が悪そうには見えない。でも、変な言い方だけど、少し違和感がある。今まで一切感じたことがなかったのに、この時になって突然に、だ。でもそれは、それが今までずっとあったことに自分が気が付いていなかっただけのことなのかもしれない。本当は気が付いていたはずなのに、気付かぬふりをして、自分で普通だと思い込んでいたことなのかもしれない。
曖昧なものなのだけれど、そこにいるはずなのに、そこには何もない、そんな感じがした。そんな矛盾を感じさせる、違和感。
そんなことを考えてしまうのは、どうしてなんだろう。
「どうしたんだよ? 俺のこと、そんなに恋しかったのか?」
ケラケラと、おかしそうに笑う。
でも、おどけて言うその言葉も、笑顔も、空っぽに見えた。それは私のせいなのか。
「ねえ」
そこにはないもない。何も感じられない。
精巧に作られたマネキンに話しかけているような、そんな空虚感。
あるけど、ない。
いるけど、いない。
なのに、ある。なのに、いる。
矛盾。不思議。不可解。だから――怖い。
「……どこに、いたの」
無意識に、口調がきつくなっている。まるで、知らない外敵に対する威嚇のようだと、自分で自分に驚いた。そんなつもりはなかったのに。
それを感じ取ったんだと思う。向こうの笑顔が少し陰ったように見えた。
でも、何も答えない。
ただ、笑っている。
「どこにいたの」
疑問符をつけない、抑揚のないしゃべり方になっている。
でもそれは、虚勢を張っているだけの、恐怖の裏返し。しかし恐怖と同じくらいに怒りがあった。裏切られた、勝手にそんな気になっていた。その感情も私の言葉に含まれていた。
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
向こうは、無理をしていることは明白なのに、まだ笑顔を崩さない。それに、私の質問に答えるつもりもないみたいだった。
もどかしい――それが怒りを生み、その怒りはより強い恐怖に変わる。私の目の前に立っている「彼」に。今まで誰よりも近く誰にも代えがたい存在であったはずの「彼」に……。
なんで、こんなことに。こんなこと、今まで一度もなかったはずなのに。何がいけなかったのか。どこからおかしくなってしまったのか。
嫌だ――と、ここまできて、そんな風にまだ私の中のどこかでやめようとする私がいる。真実を、求めない自分がいる。
知りたくない、逃げ出したい、怖い、怖い。
唇が震えている、身体も震えている。
そんな自分を振り払って――私は、言う。
「ねえ……どうしたの? 学校休んで、何してたの? なんだか、変だよ?」
「何言ってんだよ、変なのは加奈じゃねーか」
「いいから……私の聞いてることに、ちゃんと答えてよ」
「何だよ……本当にどうしちゃったんだよ加奈。らしくないぞ?」
「いいから!」
確かに私は今、私を知る誰が見ても変だろう。それでも、彼ほどではない。
彼はこんなに白々しく笑うマネをする人だっただろうか。
「……分かんない」
分からないことに苛立って、おかしなことに怖がって、考えがぐちゃぐちゃになってどうしていいのか分からなくなって、いつの間にか私は涙を浮かべていた。
それに気が付いた彼がこちらに近寄ろうとしたから、私はその分後ろに下がった。彼はその場で立ち止まった。
震える喉を大きく息を吸うことで落ち着かせようとした。あまり効果はなかったけれど、声を出すことはできた。
「あなたは、なんなの?」
怖くて、涙が流れて声が震えても、私は私の中に重く沈殿する想いを――言葉にした。
私には、恐怖に立ち向かう勇気はない。
でも、恐怖を抱き続ける勇気はもっとなかったから。