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オリエンテーションのキャンプをきっかけに、私は女の子の輪の中に入れてもらえるようになっていた。相坂さんや山根さん以外にも友達ができた。放課後になると駅の近くにあるデパートに服を買いに行ったり、ケーキを食べに行ったりするようになった。はじめてカラオケにも行った。ファーストフードのお店でだらだらしたりもした。今までの生活からは想像もつかないような毎日が、現実になっていた。
「なんだか最近楽しそう」晩御飯を食べているとおばさんが言った。
「うん、楽しい。ちょっと前からクラスの女の子たちと仲良くなってね。この前始めてカラオケに連れて行ってもらったんだけど、恥ずかしいねあれ、私全然歌えなくってさ、でもみんなはすごく上手なの。だから余計歌えなくなっちゃってさ」
それから、と友達の話をした。自然と笑顔になる。
「そう、よかったね」
おばさんも笑顔で聞いてくれる。でも、友達と買い物に行った時の話とか、学校での出来事の話をしていて、ふと思った。おばさんは相変わらず笑顔で話を聞いてくれているけど、なんだか、悲しそうだ。
「光介くんは」私の話がひと段落すると、おばさんがぽつりとつぶやいた。「最近全然来ないのね」
ドキッとした。なんだか、悪いことをしてしまって、それがばれてしまった、そんな気持ちだった。
確かに、キャンプ以来私は友達と遊びに行くようになって、こーちゃんと一緒に帰らなくなった。その頃から、こーちゃんも朝うちに上がって行くことがなくなった。それでも一応、朝は途中で会って、一緒に行っていた。
昨日までは。
「山根さんと相坂さんの家ってね、案外うちの近くなんだって。だから、今度から一緒に行かないかって」
昨日の朝、こーちゃんと一緒に学校に行っている時、私は言った。
他にも理由はあった。冷やかされるのが恥ずかしいとか、勘違いする人がいるとか……こーちゃんは、とても人気があるから。
でも、結局友達の名前を出して遠回しに言ってしまった。
「そっか、じゃあ俺も一緒に行こうかな」こーちゃんは笑ってそう言った。でももしかしたら、私の言葉の中の、私の意図するものに気付いているんじゃないか、そんな風にも見える笑顔だった。それを承知で、私と行こうと言ってくれているんじゃないか、と思った。
そして私は、それを拒んだ。
「えっと、二人もさ、特別こーちゃんと親しいわけじゃないじゃない? だから気まずくなっちゃうっていうか……」
少しの間、こーちゃんは黙っていた。それから「そうだよな」と笑って言った。「じゃあ、明日からは別々に行こう」
その言葉に私は内心ほっとした。こーちゃんを重荷に感じている自分がいたから。だから、こーちゃんから言ってくれたことで、私は罪悪感を感じることがなくて、だから、……ほっとした。
おばさんが寂しそうにしている理由が分かった。でも、もうどうすることもできない。だから私は「そうだね」と言うことしかできなかった。
「そう」とだけ言って、おばさんは黙ってしまった。当たり前だけど、おばさんから寂しさが消えているはずがない。私もなんだかここにこれ以上いられなくなって、急いで晩御飯を食べると自分の部屋に行った。友達に選んでもらって買った服を着てみたり、この前とったプリクラを見たりした。胸の中に湧き出してきた罪悪感のようなものを忘れようとしていた。
次の日、学校に着いてからこーちゃんが休みであることを知った。