一時帰還
裕也が目を覚ますと、最初に来たときと同じく、リンがベッドの脇にいた。手元を見ると、今度は腕時計がちゃんとしてある。
「…おい」
裕也はリンに声をかけるが、よく見ると彼女は座ったまま寝ていた。スースーと寝息をたてて、起きる様子はない。
「悪いが起きてくれ。訊きたいことがある」
裕也はリンを揺さぶる。二、三回程揺すると、彼女はあくびをしながら、目を覚ました。その姿に、彼は鈴を思い出してしまい、裕也は頭を振った。
「ふ…どうかしたの? あ…しました?」
「今更敬語に直さなくてもいい」
裕也はそう言って、リンが覚醒するのを待った。彼女は背伸びして、息を吐き出すと、裕也の身を案じてきた。
「…体の方は…」
「心配はいらない。…高崎という男について詳しく聞きたいんだが…」
「高崎…タ…タカ…」
すると、突然リンの様子がおかしくなった。ボーッと呆けたリンを見て、裕也は不安になる。
「リン…?」
「…高崎貴弘…。彼は私の過ちの一つ…」
その声に裕也は驚きを隠せなかった。違う。この声はリンじゃない。
「…何だ? …お前リンじゃないな!?」
「はい。今はこの方の体を借りています。…貴弘についてお話はまた今度。あなたがなすべき事をまず行ってください」
リン、いやリンの姿の女らしき者は、裕也の頭に手を伸ばし、かざした。
「何言ってる?」
「大丈夫。すべきことが終われば、また戻してあげましょう。……では」
「な…おい…うおっ!」
裕也は、ここに来たときと同じように、神々しい輝きに包まれ、消えた。
「あれ……? あの人は…?」
リンが首を傾げて、辺りを見回すが、裕也の姿は見当たらない。アリスに話を聞きに行ったのだろうか。
「…教会見に行こうかな…」
リンはそうつぶやくと、アリスに会いに、ついでに裕也を探しに、村へと出かけた。
とある大学の、学生食堂。大勢の学生と、彼らが座る席とテーブルと並んでいる場所で、瑠璃は友達と食事をしながら、おしゃべりを楽しんでいた。他愛もない話、恋愛話。そして、今話題の神隠しについての話で彼女達は盛り上がっていた。
「…と言うわけでね、人が消えちゃうんだって!」
「そんな…漫画じゃないのよ?」
話好きの友人に瑠璃は呆れた。そんなオカルト話を食事時にしなくても。
「ホントなのよ? 中でも、不幸な人がよくいなくなるらしくてね…。最近、たまにあるじゃない。行方不明事件。この前は…えっと…太った人が行方不明になってたでしょ!?」
「うーん…。あの人は不幸とは言えないと思うけど…」
瑠璃自身もあまり良く覚えていないが、その行方不明者は確か、他人に罪を着せてたはずだ。当初こそ、警察は何らかの事件に巻き込まれた哀れな被害者だと思って捜索していたものの、自宅から、少し前に犯人の自殺によって片がついたと思われていた事件の真犯人だったということが分かり、犯人検挙に向けて動いている、ということがニュースでやっていた。
「瑠璃の言う通りよ、あの太った人はただの犯罪者でしょ」
「いやーこれは陰謀の匂いがしますなー」
「話ずれてるよ」
リンは呆れながら指摘する。話は後にして、このきつねうどんをさっさと食べてしまった方がいいかもしれない。
「でもなー。神隠しは面白いと思うけどなー。行方不明者が出たのだって、血の誕生日の事件からじゃない」
箸でうどんを啜ろうとしていた瑠璃の手が止まった。その様子を見て、別の友人が話を止めようとするが、彼女はそんな瑠璃の様子に全く気付かず話を続けた。
「あれさー。あの妹が殺されたって人。紅…」
バンッ! という音がして、話が止まった。周りの学生も、何事かと音のした方を見る。その視線の先には、瑠璃が、思いっきりテーブルに手をついていた。
「…やめてよ…。その話は…」
「…あ…そうだった…。ごめん…」
友人が素直に謝る。瑠璃がはっとして、気にしないで、と言った。彼女も悪気があって言ったわけじゃない。ただ、今この場には居づらいか。
「…ごめん、先行ってるね…」
「う、うん。ホントごめん…」
瑠璃は食べかけのうどんのトレーを持って返却口に返すと、そのまま食堂の出口へと向かった。
瑠璃が出て行ったのを見計らって、友人達はひそひそ話を始めた。
「こら。瑠璃にあの事件は話しちゃダメじゃない」
「ごめん…。つい…」
「…大丈夫かな…」
「それは大丈夫でしょ。瑠璃、成績いいし、美人だし…」
「…でも、楽しそうに笑ってるとこ、見たことないわよ?」
まさかー、と調子のいい友人は言って、うどんは啜り始めた。
「…裕也…帰ったかな…」
大学の構内のベンチに座りながら、瑠璃はスマートフォンをチェックした。だが、返信も、着信もない。
「もう…一週間も経つのに…」
瑠璃は不安げな表情でお預かりセンターを確認し、そこでも反応がないことに肩を落とした。
裕也が仕事だ、と言って自宅に帰らないことはままあった。だが、連絡は三日以内には来たし、長期不在の時も彼女に伝えてはくれたのだ。
「…まさか…神隠し…」
瑠璃は一度バカにした話を思い出して、怖くなった。神隠し、があるとは思えないが、行方不明者が多いことは事実だ。最も、その人達は皆、一律に罪を犯していたことがわかっているが…。
「そんなことないよね…」
だが、瑠璃の心中は穏やかではなかった。不安で胸が張り裂けそうになる。身近な、大事な人が突然いなくなる恐怖を彼女は知っていた。
「鈴ちゃん…」
彼女と仲の良かった、幼馴染の名前を口にする。紅鈴は、彼女が16歳の時に突然亡くなった。
殺されたのだ。ストーカーに。
それから、裕也の…いや、瑠璃の生活も激変した。彼女は、愛想笑いはするものの、本気で笑うことが出来なくなっていた。笑っていても、どこかぎこちない。自分の笑みを皆、おかしいと口をそろえて言った。
だが、笑えるはずないではないか。自分が誕生パーティーなど考え付かなければ、鈴は生きて、裕也は高校を中退することもなかったはずなのだ。
「…大学…やめようかな…」
瑠璃はふと、そんなことを思った。今まで、惰性で通っていたが、なぜ自分がここに通っているか、彼女にはわからなかった。この大学を選んだ理由だって、裕也のアパートに近かったからだ。
どうしたらいいのだろう。瑠璃が考え込んでいると、背後から突然、何かが落ちる音と、うめき声が聞こえた。彼女はびっくりして、思考を中断させる。
「…何が…?」
「くそ…一体何なんだ…」
背中を擦っている、灰色のスーツの男と目が合う。その顔を見て、瑠璃は思わず声を上げた。
「裕也…」
その男は間違いなく、彼女の幼馴染だった。
生垣から、驚いた表情をしている幼馴染の顔を見て、裕也は自分が現実に戻っていたことを知った。そして、心の中で、あの謎の声に文句を言う。
(くそ…結局貴弘の事は何一つ聞けてない…それに)
現実。異界に来た時こそ、裕也は帰りたくて仕方なかったが、今は違う。彼が殺すべき相手が向こうにいるのだ。今は異界に戻りたくてしょうがない。
「裕也…どこ行ってたの…?」
「…いや…仕事だ…」
裕也ははぐらかした。今いたところはとても説明しづらい。それに、そもそも瑠璃は裕也が殺し屋だと言う事も知らないのだ。下手に話すわけにはいかない。
「…なら連絡くらい…」
「忙しかったんだ」
裕也は立ち上がって瑠璃の前に立った。裕也は瑠璃を見つめながら、まだこの幼馴染が、鈴の死に囚われていることを再確認し、罪悪感に襲われた。
「…裕也…あたしね…」
丁度、予鈴の鐘がなった。何か話そうとしていた瑠璃を裕也は急かした。
「予鈴がなったぞ。授業に遅れるだろう」
「別にさぼっても…」
「ダメだ。行ってくるんだ」
裕也は瑠璃を立ち上がらせて、促した。彼女は不満げな顔を見せるものの、すぐ納得し、教室へと向かい始めた。
「…今日は家にいるの…?」
「ああ…たぶんな」
瑠璃はわかった、と言って歩いて行った。彼女がいなくなった事を確認すると、携帯をチェックする。
(着信が53件…。瑠璃と卓也か…)
一通り目を通して、その全てが自分の身を案じたものだった事に、複雑な気持ちを覚えながら、とりあえず家に向かって歩き出した。
(結局何をすればいい?)
裕也は歩きながら、ここでの目的を考える。来た時も突然なら帰った時も突然だ。向こうの人間は、説明という言葉を学んだ方がいい。
大学の門から出た瞬間、裕也の携帯が鳴った。電話だ。
「もしもし。卓也か」
『どこ行ってたんだ。ずっと連絡してたのに』
「すまん。少しトラブってな」
端末を耳に当てながら、人通りが多い道を歩いて行く。
『しかし、無事で良かった。瑠璃ちゃんに会ったか…? 心配してたぞ』
「ああ。さっき会った。所で、一つ訊きたいんだが」
『何だ?』
「最近何か変わったことがあるか? 大物が出たとか」
謎の女は、すべき事をしろと言っていた。ならば、何かしら変化があるはず。
『いや…大物は特に…相変わらず小物なら大漁だが…』
「そうか…」
当てが外れて裕也は嘆息する。まずい。一刻も早く戻りたいというのに。
『あ、そうだ。…大事な話があるんだった』
「何?」
大事な話? それがなすべき事の可能性がある。裕也は、聞き漏らすことがないよう、立ち止まって聞いた。
『竜二いたろ? ヤクザの』
「ああ。…あのくそ野郎か…」
竜二。あの男の存在をすっかり忘れていた。あの男のおかげで、高崎を見つけ出せそうなのだ。きっちりとお礼をしなければ。
『あいつが瑠璃を狙ってる』
「…バカな…」
裕也は驚きの声を上げた。瑠璃が狙われる理由が全く分からないからだ。
『…あいつ、組を裏切ったんだよ』
「だろうな」
それは、裕也を鉄パイプで殴ったことから推察できる。裕也と協力関係にあった義連組は、テレビドラマで出るようないわゆる悪役タイプのヤクザではなく、無関係な人間には手を出さず、ヤクザ間の抗争もなるべく避けるような穏便派だった。それでいて、地域貢献や悪人排除のために、警察にも手を貸している。極めて珍しいタイプだ。
『で、あいつ、お前を殺すの失敗しただろ。その埋め合わせで、人身売買に手を出したらしい。雇い主も大変だな。あんな使えない奴雇って』
「それは同意だ。なら…すべき事は決まった」
『ああ。何か必要な物は?』
竜二を始末するのには、拳銃一つで事足りるが、異世界での今後の事を考え、裕也は多めに装備を頼む事にした。卓也は、わかった、と返事をすると、電話を切った。
「…帰りを待つか…」
裕也は一度来た道を引き返して、大学へと戻った。
瑠璃は、講義が終わると、急いで教室を飛び出した。裕也が帰ってきたのだ。ぐずぐずしている暇はない。
(帰らないと…またどこかへ行っちゃう…)
瑠璃は、暗い夜道を小走りで走り、疲れて歩き出した。大丈夫だ。さすがに、すぐいなくなりはしないはず。そう自分に言い聞かせて、静かな住宅街を進んで行く。
「あの車…」
ふと見ると、黒いバンが道の脇に停まっている。それだけなら特に違和感はなかったが、車が停まっているそこは、潰れたコンビニの前だ。瑠璃は不思議に思いながらその横を通り過ぎた。
(何か買ってった方がいいかな…)
瑠璃は、裕也の家に向かう前に寄り道をすることにした。ここから少し離れた所に、コンビニがある。
瑠璃は脇道に逸れて行った。
瑠璃が通り過ぎて行ったのを確認すると、バンから竜二とその取り巻きが出てきた。竜二は、面倒そうに頭を掻くと、取り巻きに指示する。
「お前らは俺と来い。太一、お前は後から車で来い」
「なぜ降りるんで? 横についてラチった方が…」
「それだとよ、楽しみがいがないだろ」
「どういうことで?」
竜二はにんまりと笑うと話を続けた。
「せっかくだから、路上レイプって奴をすんだよ。俺達は愉しめるし、あのくそも、きっと怒って出てくるさ」
「それはいいですね、兄貴。愉しみだ」
「だろ? 行くぞ」
竜二は取り巻きと共に瑠璃の後を追って行った。
バンの運転手である太一はそわそわしながらエンジンをかけた。急がないと、自分は愉しみに出遅れてしまう。
「どうせならビデオカメラ持ってくりゃよかった…っ!?」
直後、ドアの窓が割られた。太一は驚いて、その弾みにクラクションを鳴らす。だが、その喧しい音は長く続かなかった。すぐに、喉を掻っ切られ、運転席から放り出されたからだ。
『…運転、大丈夫か?』
「久しぶりだが、行けるはずだ。リチャードに教わってる」
裕也は血の付いたナイフを助手席に放り投げると、アクセルを踏んだ。
「今の音…何?」
瑠璃は肩を竦ませながら後ろを振り向いた。自分がいた方向から喧しいクラクションが聞こえたのだ。すると、自分の後ろにいた数人の男達が慌てて道を引き返して行った。
「…何なの…?」
瑠璃は首を傾げて、不思議がった後、コンビニへと急いだ。
「何だよ…太一のバカ野郎!」
「何でクラクションなんか…っ!?」
男達は、最初こそ太一の悪口を言っていたが、猛スピードで向かってくるバンに顔色を変えた。
「何だ!? …あいつ!」
「兄貴! あの殺し屋ですぜ!」
「あいつを殺せ! ぶっ殺してやれ!」
だが、男達は言葉とは逆に、必死で逃げ出した。裕也はアクセルを目いっぱい踏み、手ごろな男にバンを突っ込ませた。
ドンッ! という車と人が、ぶつかる音がし、裕也はブレーキを踏んで、車から降りた。同時に拳銃を抜き、もう一人の頭を撃ち抜く。
「くそお!」
竜二は射殺された取り巻きを見ながら、叫んだ。ナイフを抜いて、裕也に突撃する。
「くそくそくそ! 死ねよお!」
だが、ナイフを使うには距離が遠すぎた。裕也に足を撃たれて、無様に転がる。裕也は竜二の手から落ちたナイフを蹴飛ばすと、彼の傍に立ち、見下ろした。
「哀れだな」
「何だよ…その目は! てめえにだけは言われたくねえぞ!」
「そうか…」
裕也は消音器つきのベレッタを竜二の頭に向けた。あまりゆっくりはしていられない。消音器のおかげで、だいぶ抑えられた銃声は、聞いた人にそれが銃声だと確信させるには至らないだろうが、車と人がぶつかる音は別だ。そろそろ警察が来る頃だろう。
「待てよ…撃つな…殺さないでくれ…」
「無理だ」
裕也は引き金を引いた。竜二の頭が鮮血を飛ばす。竜二が死んだのを確認すると、裕也はすぐ卓也と連絡を取った。
「卓也、今から逃げるが…後処理は難しそうだな…」
「それは大丈夫だ」
突然声がして裕也は後ろを振り返った。すると、義連組のヤクザがいた。組長だ。
「…どうしてここに」
「何、バカ息子を始末しようとしたが…お前がやってくれたようだ。後は任せろ」
「…いいので?」
「今言ったろう。息子を殺しに来たと。いなくなってせいせいした。…浩二、お前、哲郎と連絡を取れ」
組長は若い男を呼び出すと後始末を始めた。
裕也は、会釈した後、急いで家に戻り血で汚れた上着を脱ぐと、瑠璃を追って行った。
瑠璃がコンビニを出ると何やら、通り道に人だかりができていた。どうやら、何か事件があったらしい。
(急いでるのに…)
瑠璃は焦燥感に駆られて、回り道をした。ダメだ。パトカーのあの赤い光は、血の誕生日事件を思い出す。
瑠璃は急いで裕也の家へ向かった。だが、前から裕也が走ってきたのを見て瑠璃は驚き、その名を呼んだ。
「裕也!? どうして…」
「…偶然だ」
裕也は瑠璃の横に並び、歩き出した。あの時と逆だ、と瑠璃は思った。
「…事件があったみたい…」
「らしいな。何もなかったか?」
瑠璃はその問いに疑問を感じつつ返答した。
「何も…何で?」
「…深い意味はない」
裕也は歩き、瑠璃が手に持っている袋に目をやった。食べ物がいくつかある。自分用だろうか。
「…今日は真っ直ぐ帰れ…」
その言葉に瑠璃は動揺し、思わず大声を上げた。
「何で!?」
「…今日は遅くまで授業だったろう? 疲れてるはずだ」
「…あたしは、平気よ」
瑠璃は声のトーンを落とした。
「いや、それでもだ。…また会える」
裕也はアパートの前に着き、止まった。だが、瑠璃は全く帰る様子はない。
「…ダメ。ここまで来たんだし…」
裕也が階段を上がっていくが、それでも瑠璃は付いて来る。こうなったら仕方ない。
部屋の前に着くと、裕也はドアを開けて、中へと入った。瑠璃もいっしょに入ってくる。
「…ここで待ってろ」
裕也はそう言って、自分の部屋に入り、中に置いてあったものを確認した。
大量の弾薬と、各種グレネード。他に狙撃用ライフルSVD。それと、短機関銃PP-16があった。武器箱の中に、裕也が頼んだ物が全て入っており、彼は満足した。
「裕也、まだ?」
リビングから声が聞こえる。買ってきた物をテーブルに並べてるのだろう。
『よく出来ました。すべき事を終えましたね…』
裕也は瑠璃に返事をしようとして、頭の中に響いた声に驚く。あの謎の声だ。
「…なら、さっさと連れて行ってくれ」
『…いいのですか?』
裕也は一瞬思案したが、すぐに答えた。
「ああ…いいとも」
『わかりました…では…』
「裕也? 何ぶつぶつ言ってるの?」
瑠璃が裕也の独り言を不審がって、ドアの前に来た。
「裕也?」
瑠璃は、恐る恐る扉を開けた。そして…。
「裕也!? どこ! …嘘…どこに…」
突然いなくなった幼馴染に、瑠璃は驚き、膝をついた。
「よろしかったのですか?」
裕也が気づくと、リンの家の椅子に座っていた。テーブルを挟んで、リンがいる。だが、そのしゃべり方と、言葉に、目の前の少女がリンではない誰かという事に気付いた。
「ああ。…瑠璃は、俺に関わるべきじゃない」
「そうですか。それは、とても悲しいですね」
リンが悲しげな表情を見せる。しかし、裕也はそれに取り合わず、高崎について訊いた。
「それはいい。高崎貴弘について教えてくれ」
「…はい。彼はルドニア城にいます」
裕也は失笑した。ストーカーが城にいるだと。
「何とも似つかわしくないとこにいるな。…いるべき場所は地獄だろう」
「そうですね。彼は来てはならなかった。条件を満たしていない。完全なイレギュラー」
「…条件? イレギュラー?」
裕也は、意味ありげな単語を復唱する。だが、リンであってリンではない誰かはそれについての説明はしなかった。
「…あなたも、ある意味イレギュラー。でも、それは加護が特殊だと言うだけ。イレギュラーはたった二人。しかし、起きた歪み、悲劇はとても大きい…」
少女は訳の分からない事を話続けた。
「加護が特殊…?」
「はい。あなたの加護は救済のメリットを全て台無しにしている。転移が使えるのが不思議なくらい。でも、それはあなたの生い立ち上、仕方ない。逆に、あの男は違う」
「…どういうことだ?」
「それは……残念、もう時間です」
少女は、名残惜しそうに言うと、裕也を見つめた。
「あなたの世界の武器は、あなたの世界の人に有効。…覚えておいてください…」
「待て…話はまだ!」
「話? 話って…っていうか、いつ帰ったの!?」
裕也の叫び虚しく、リンはリンに戻ってしまった。そして、彼女は大声を上げる。
「ちょっと、この大荷物何!? 部屋を散らかさないでよ!」
裕也が振り返ると、自分の部屋にあった装備の数々がリビングにあり、ソファーを押しつぶしていた。リンが勝手に触ろうとするので、裕也がその手を止める。
「待て、危ない。…片付けるから少し待ってくれ」
裕也は、装備を床に置き始めた。危ない。この武器箱の中には、爆発物も入っている。一歩間違えれば大惨事だ。
「これ…写真、って奴?」
「写真? …っ!」
リンが手に持っていた写真を見て、裕也は息を呑んだ。その写真は、自分と瑠璃、鈴の三人で撮ったものだ。どうやら、いっしょにここに送られてしまったらしい。
「…私?」
リンが鈴を見て驚く。無理もない。裕也だって間違えたのだ。最も、彼が最初にリンを見た時はこの場所が夢だと思っていた為、すぐどうでもよくなったが。
「似てるな。同じ人間に思えるほど」
「…そうだね」
リンはじっとその写真を眺めている。そんなに珍しかったのだろうか。
「そんなに気になるか?」
「…ちょっとね…」
鈴を凝視するリンが少し気になったが、裕也はそのまま作業を続けた。
「…何か手がかりが…」
リンのつぶやきは裕也に聞こえなかった。
登場人物少ない方がやっぱ書きやすいですね…。
読んで下さった方、ありがとうございました。