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偽りの愛を囁いて

作者: クロネコ


 ふと 思いついた物語です。

誤字脱字などがあれば お知らせください。


 華やかな夜会―――――そこは、聞きたくもない噂話を聞かせてくれる場所。

偽りの微笑みで 忘れ去ろうとしていた現実を 思い知らせる残酷な空間だった。


「まぁ ご覧になって?また ダルトン卿が、御寵姫様とご一緒になられているわ?」

「やっぱり 絵になりますわね?お2人とも 美しい方ですから」


あたしは、その声に誘われるかのように 人々が注目している人物に視線を向ける。

まるで 誰の邪魔も許さないというような空間の中心部にいる2人。

全ての人々から 祝福されたようだった。


「元々 あのお2人は、恋人同士だったのでしょう?」

「ええ………仲睦まじくて ご結婚を控えていたそうですわ?でも 陛下が、お見初めになられて………引き離されてしまわれたのです」

「本当に お気の毒ですわ。悲しみを支えて下さる方が現れればよろしいのですけど」

「御寵姫様を失った 心の傷を癒してからご結婚すべきですものね?でも 自棄を起こされて………。いくら 陛下の後ろ盾があるにしても」


その会話を聞いて あたしは、胸が締め付けられる思いだった。

このまま 会場にいれば 醜い心が(さら)け出されてしまう。

あたしは、そこまで 無垢な心を持っていないから。






 ダントン卿は、あたしの旦那様。

王族の方々からの信頼も厚く 優秀なお方。

あたしなんかが、妻になれるような身分にはないはずだった。

けど あたしは、あの方と婚姻を結んだ。

理由は簡単だった――――あたしは、ダントン卿の愛する女性の妹だから。

妹といっても 血の繋がりはない。

あたしの母は、父の死後 ミルフィーユ伯爵家のメイドをしていた。

幼かった お姉様は、あたしの母に 亡き実のお母様の面影を追って 懐いていたらしい。

そして 伯爵様は、お姉様の寂しさを少しでも 和らげられるようにと 母と再婚した。

当時 色々と悪意の声を聞いた――――幼い子供の世話をする為だけに 貴族に仲間入りした母娘と。

でも 本当のことだったから 何とも思わない。

だって あたしは、母が傍にいてくれるのなら 何を言われても 平気だった。

ミルフィーユ伯爵は、あたしを実の娘のように扱ってくれたし 屋敷に仕えている人達も、良い人ばかりだったのだから。






 お姉様も、血が繋がらない あたしのことを、可愛がってくれた。

身も心も、穢れを知らない 美しきお姉様。

本当は、愛する方(ダントン卿)と幸せな家庭を築くはずだった。

それなのに その美しさが故 権力を持つ方の目に留まってしまったのだ。

愛し合っていたお姉様は、ダントン卿と別れの言葉を交えることができないまま 後宮に連れて行かれてしまった。

そして 次に出逢えたのが 側室としてのお披露目の時。

あの時ほど 2人の身に起こった悲劇に涙した時はない。

きっと それは、同じくパーティーに出席した人々も同じ心境だったはず。

でも 陛下は、誰の目にもわかるような態度で お姉様をご寵愛なさっていた。

それこそ 正妃様を入れ替えてしまうのではないかという勢いで。

正妃様 贔屓だった 貴族の方々も、ミルフィーユ伯爵家に 取り入るようになった。

誰も そんな待遇を望んだわけではなかったというのに。

お姉様の苦しそうな微笑みが、頭に焼きつく。

いくら 贅沢な暮らしができても 愛してもない人の妻になることの辛さが目に浮かぶのだ。






 あたしが、ダントン卿に求婚されたのは お姉様が側室としてお披露目されてから 1か月経った頃だった。

それは、突然のこと。

何の先触れもなく あの方は、伯爵家へやってきたのだ。

お姉様がいない 静かな屋敷へ。

最初は、お姉様との婚約の正式な破談を申請する為の書類を持ってこられたとばかり思っていた。

けれど ダントン卿は、迷いなく あたしの前に立ち その場に 跪かれたのだ。

そして あの方は、あたしに求婚した――――愛していると。

あたしは、その言葉を聞いて 戸惑う。

本当は、お姉様の婚約者であった ダントン卿に惹かれていたから。

他の貴族のように あたしを蔑まず 優しい笑みを向けてくれていた あの方を。

だから あたしは、文字通り その求婚に 舞い上がってしまっていた――――残酷な真実を知らずに。

でも 真実は、必ず 明らかになるもの。

求婚を受け 正式な婚約を交えた頃 あたしは、知ってしまった。

ダントン卿が、あたしに求婚した 本当の意味を。






 あたしは、その日 ダントン卿との婚約発表のパーティーに参加していた。

思ったよりも 大々的なものになってしまって あたしは、恐縮するばかりだったけれど。

しかも 陛下とお姉様が、お忍びで参加なさったものだから 大袈裟になってしまった。

参列者は、みんな 主役よりも、陛下達の元へ。

恋敵だったとはいえ 王を敬うことを忘れないダントン卿も、陛下への礼を見せなければならない。

勿論 婚約者である あたしも、一緒に。

この時 誰もが、あたし達に視線を集中させていた。

誰もが、お姉様とダントン卿の関係を知っていたのだから。


「婚約 おめでとう。思ったよりも早く 話が進んだようだな?ルドのことだから もっと 強引に話を持っていくとばかり思っていたが」

「急いだわけではありません。きちんと 両家の承諾が必要でしたので」


飄々(ひょうひょう)と声をかける陛下に ダントン卿は、まじめに答える。


「ミルフィーユ伯爵令嬢も、この不器用な男を頼んだぞ?ルドは、昔から 生真面目な性格が関係して 妙な誤解を生むことが多い。色々と大変なこともあるだろうが 支えてやってくれ」

「はい………ありがとうございます 陛下。勿体ないお言葉です」


あたしは、震えあがりながらも お辞儀することができた。

でも 陛下は、ガタガタに震えている あたしに苦笑だけで留まらず あろうことか 頭を撫でてくる。

会場は、その光景に 凍りついた。


「陛下………お戯れも、大概になさってください」

「……あぁ 済まんかった。いやぁ~お前の反応が、面白くて ついな?それに お前が、夢中になる理由も頷ける。やはり 趣味が良い」


高らかに笑う 陛下に 人々は、何と答えればいいのか わからない。

勿論 あたしも、同じで ダントン卿を心配する様に見つめる。

お姉様は、ただ 呆れたように 溜息をついているようだった。

そして あたしと目が合うと クスクスと笑う――――幼い頃のように。


「まぁ 冗談はさておき。リリアーナ嬢 婚約おめでとう。そなたは、アマーリエの妹………つまり 余の妹ということだ。もし 困ったことがあれば いつでも 力になるぞ?」


その言葉は、つまり あたしの後ろ盾に陛下がついてくれたことと同義。

貴族の方々は、それを耳にして 目の色を変えている。

始まった当初は、あたしが ダントン卿の婚約者になったことへの妬みを抱いていた人達も、悔しそうに唇をかみしめていた。






 その後 陛下は、ダントン卿と話があるとおっしゃられて あたしは、久しぶりに お姉様とお話しすることができる。

お姉様のお話によれば 後宮での生活は、何かと戸惑うこともあるけど 楽しいこともあるらしい。

最初のように 不安でいっぱいだったお顔ではなく 吹っ切れたようなお姉様に あたしは、安堵する。

そして パーティーも終盤に差し掛かって あたしは、見てしまった。

人気のない中庭で お姉様とダントン卿が、抱き合っている姿を。

それは、まるで 恋人同士のように。

誰にも、侵害することのできない 純愛を目の前で見ているかのようだった。

考えてみれば 最初から わかっていることだったのかもしれない。

ダントン卿が、あたしとの結婚を望んだ理由――――それは、あたしとお姉様との関係。

あたしと婚姻を結ぶことで ダントン卿は、お姉様と会うことが可能なのだ――――妻の姉との面会を理由に。

考えてみれば 簡単なこと。

結局 ダントン卿は、お姉様を忘れることができなかった。

そして お姉様も、陛下の寵愛を一身に受ける身分であっても 愛する人との危険な逢瀬を選んだということ。

あたしは、この時 自分が、どんなに惨めな立場にあるのか 実感することができた。

全てを知ると もう どうでもよくなっていく。

あの方の言葉は、全て 嘘なのだから。






 あたしは、婚約パーティーから3か月後 ダントン卿の妻になった。

偽りの愛を育てる 仮初の夫婦に。

誰も知らない場所で 愛する人を想って涙する 切ない関係に。


「リリアーナ………愛してる」

「あたくしもですわ ルドウィック様」


  今日も、また 偽りの愛を囁いて。


 いかがだったでしょうか。

時間があれば 別視点も載せたいと思っています。

ご意見やご感想をお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 切ないです~。 別視点読みたいです。少しはリリアーナさんが報われると良いな。 お時間あれば、ぜひぜひ別視点よろしくお願い致します:)
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