川の流れのように流されてはいけません
「……………………………。」
い、今 この人は何を言ったんデショウカ?
口をポッカーンと開け呆然とアーディアルトを見上げると、その顔が面白かったのか、アーディアルトはくすりと笑みを浮かべた
あ、笑顔もイケメン。
―――って、いやいやいや。 そうじゃなくて!
自分の耳に聞き間違いがなければ今この人は私に…ひ、ひ、一目惚れしたと、いわなかったでなかろうか?
「―――――可愛い。」
ひとりあたふたと考えている間に
ブニッと片頬を摘まれた。
びよーんとリーシャの皮膚がだらしなく伸びる
えええっ なにその不意打ち!
混乱するリーシャとは反対にアーディアルトは笑顔がどんどん深くなる
それと比例して皮膚もどんどん伸びていく
びよ~~~~ん。
「い、いひゃいんだへど!」
気づけば最初は片頬だけだったのが両頬になりありえないくらいリーシャの頬は伸び切っていた。
「ああ、すまない。つい、な。」
くすくすと笑うアーディアルトから顔を取り返し、赤くなった頬をさすっていると不意打ちで今度はその頬にキスをされる
「~~~なにするの!」
真っ赤になって慌てて飛びずさろうとするが、間一髪のところで腰を掴まれてぐっと引き戻される
「離して!!」
「嫌だ。」
何だとぅ!
こんなのはセクハラだ! 軽い強姦だ!! 訴えてやる!!
美形はなんでも許されると思うなよ!!
「離したら逃げるだろう? 離れたくない。」
「私は離れたい!!」
じたばたもがく。が、それ以上の力でまた抱きしめられる
「……すまない。お前が可愛くて、止まらなかったんだ。」
「か、かわ――――!? 」
ないないないない! ありえない!!
煽ててもなにもでませんよ!
衝撃的すぎて動きが止まったリーシャをさらに引き寄せてアーディアルトは顎を捕らえて顔を向けさせる
「だが好きな女に、キスしたいと思うのは間違ったことなのか?」
首をかしげ、訪ねてくる
「その頬に、額に、唇に……リーシャの身体すべてに触れたいと思うのはいけないのか?」
甘ったるい声で、耳朶に囁いてくる
うぎゃあ! なにその気障な台詞!
駄目に決まってるだろう!!
こんなことして許されるのは画面の向こう側の人達だけなんだぞー!
ただし、イケメンに限る。なんだぞー!
――――あ、この人もイケメンでしたね。充分すぎるくらい。
って違う!!
とりあえず、今全力でお願いしたいことは。
は な せ !
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「と、とりあえず。現状を把握しよう」
もうすっかり脱力状態でリーシャはそう言って地面に座った
もうすでに日も傾きかけてる
これからの夜の準備に備えなければならないので、このことに割いてる時間はあまりないのだ。
「先ほども言ったが、ここは[上]の聖なる島で、私の住処の庭だ。」
手早く説明を始める
それに続き、アーディアルトも地面に座った…………正確にはリーシャの真後ろに胡坐をかいてそこに彼女を乗せるようにして座った。
「…わざわざこんな体制で座る必要性はないと思うのだが。」
眉をひそめるがアーディアルトはどこ吹く風だ。「気にするな」といい続きを促す
「……それで、私は月神の半身でもある魔女。お前の国が今真っ向から戦争を仕掛けてる場所の親玉だ。」
あまりに自然な動作だったため思わず閉口するが、少ししたら小さな溜息をついて諦めた。
この短い時間の中で彼に反抗しても無駄だということを嫌でも学習したのである
「いいか? 私はお前たちの国のことをどうこう思ってはいないが、お前らにとっては私は敵で、この首が欲しいんだろう。 仮にも皇太子様とあろうお方がそんなふざけたことを言っていいのか?」
もしかしたら神愛者で魔力のあるこいつをここに送らせてリーシャの首を取ろうと画策したのかと思わなくもないが、あの傷の様子からしてその線は薄い。
演技だったのだとしても自らの国の皇太子にあれほどの傷を負わせるなどしないだろう。
「国のことなど関係ない。俺がお前のことを好きになったからそう言ったまでだ。」
わお! 直球すぎる告白ですね! もし私が第三者の立場だったら今頃キャーキャー騒いでますよ!
「それに、俺は皇太子といってもゼフェロンの政にはほとんど首を出してないし、あんな国捨てたってかまわない。」
ゼフェロンにとって俺は体のいい魔力源なのだ。とアーディアルトは自嘲気味に話す
「魔力源? ゼフェロンはお前の魔力を使ってこちらに戦争を仕掛けているのか。」
「ああ、ここ最近は[上]だけだが、少し前までは[下]の国との戦争にもな。奪われる量は俺にとっては微々たるものだが、ひと月の一度、馬鹿でかい魔石に魔力を勝手に入れられていた。」
それを聞いたリーシャはゼフェロンの愚かさに愕然とした
「神愛者はここ数百年でていなかったとはいえ、その扱いはどうなんだ。昔は国の象徴として祭り上げられていたと聞いているし、神愛者の魔力は神の力と同義され神聖なものとして只人には不可侵なもののはず。」
「俺の前にいた最後の神愛者は124年前に死んでいるからな。そんな宗教めいた言い伝えはとっくに捨てられた。太陽神も、ここしばらくは姿を見せられないから[下]全体でも信仰心が少しずつ薄れてきている。」
神愛者 とはその文字通り神に愛された者のことだ。
この世界では二柱の神が存在していると言われ、太陽神と月神 と呼ばれている。
兄妹神で、太陽神が“生”“昼”“光”“豊穣”“戦”“大地”などを司り、月神が“死”“夜”“闇”“癒し”“水”“自然”などを司っている。
太陽神が[下]と呼ばれる大きなひとつの大地を創りだし、月の女神が[上]と呼ばれるその大地のはるか上空に浮かぶ様々な無数の浮島を創りだしたと言われ、神愛者はそのどちらかの神のいわばお気に入りという存在だ。
神愛者は胎児の頃に神から力を授かり、程度に差はあれど人間にはありえないほど強大な魔力を持って生まれてくる。
太陽神のの神愛者なら黒髪にアメジストの瞳、月神の神愛者なら黒髪に黒目を持つという特徴があり、どれも美形。
太陽神はもともと金髪なのだが昔妹の月神が大好きすぎて自分の髪も黒髪に染めたといわれ、神愛者も金髪から黒髪に変わった。
ちなみに[下]は太陽神が創ったので太陽の神愛者は必ず[下]から生まれ、[上]は月神が創りだしたから月の神愛者も絶対[上]から生まれる。
神愛者が生まれてくる時は必ず世界に何か異変がある時だ。
過去に出てきた神愛者たちはどんな形にせよこの世界をなくさないために貢献してきたのだという。
そして世に安寧をもたらす救世主的な存在として人間たちから称えられた
だからその存在も御神の力として、只人が侵してはいけない不可侵なものとして扱われるはずなのだが。
「あー。最近太陽神めっきり引きこもって顔見せないからな。信仰心が薄れるのも無理ないか……」
「太陽神と会ったことがあるのか?」
「一応、ね。月の女神を迎えに行くためにあいつの神殿に行った時とか。」
あいつのシスコンぶりは見ていて目の毒になるほどだった。
月神の後をひっついて離れないし、何かにつけてはお姫様だっこしてるし、うざがってる月神に回し蹴りをくらっても一瞬後には復活して妹をこれでもかというくらい抱きしめていた。
神としての仕事をあまりしなくなったのも、月神と一緒にいたいから。というなんとも言い難い理由からだ。
ちょっとヴィートルで問題が起こったので迎えに来た私をみてものっすごい目で睨んできた。まあ私が半身だとわかると多少は態度を変えてくれたけど。
それでも私と一緒に帰ろうとする月神を無理やり引き留めようとするし、最後には鳥籠を創りだしてそこに月神を閉じ込めようとしていた。
……あの時の兄妹の攻防戦はすさまじかった。
ここまでくるとシスコンもただのヤンデレである。
「太陽神にあったことがある…か。さすがは月神の半身の魔女だな。」
ポツリと呟くアーディアルトは心なしか少し羨ましそうだった
あ、自分を選んだはずの神が一度も会ってくれないんだよね。そりゃ会ってみたいに決まってるか。
「いや、魔女といっても私は神でも人間でもない中途半端な存在だし。そんなさすがとかいわれるもんでもない。」
リーシャは神愛者ではなく、月神の半身そのものだ。
月神は人間が嫌いなため人間はヴィートルに住んでいない。だから必然的に神愛者も生まれない
そのかわり生まれたのが、魔女と呼ばれるものでヴィートルで唯一人型をしている生き物だ。
里沙はその[上]を守るために創られた、月神の半分の魔力を注いだ生身の人形の身体のなかに里沙の魂だけを入れたいわゆる憑依というものをしている。
だから髪の色も薄茶で瞳も琥珀色で、神愛者のような外見にはならない。
しかし、魔女になったことがあるのはなにもリーシャだけではない。
彼女の前には約13人もの魔女がいたらしく、彼女たちもまたこの身体に魂をいれ、この世界で過ごしたという。
だから顔も身体も先代や先々代の魔女とか関係なくみんな同じ。
性格に違いがでるだけで見た目はまったく一緒なのだ。
……お下がりにもほどがあると思わない?
てゆーかこの身体を他の誰かも使っていたと思うとなんだか気持ち悪い。
まあそれはさておき
魔女は月神が異世界から連れてくる。
神愛者とは違うが同じく莫大な魔力を有する身体のため、それに耐えられる魂を持つ者を探すらしいのだ。
リーシャのときはなかなかいい魂が見つからず先代の魔女が亡くなってから約200年経っていたようで、ヴィートルは荒れに荒れていた。
月神そこはなんとかしろよ、なんのための神様だよ! とリーシャは突っ込んだが月神は太陽神から逃げ回るので精いっぱいだったらしい。
……いろんなところで太陽神に迷惑かけられてるなー
「今度太陽神の所に行く時は、あなたも連れていってあげよう。アーディアルト殿下。」
次なんていつ行くかわからないのだが、なんとなくそうしてあげたくて気づけばそう言っていた
するとアーディアルトは一瞬驚いた顔をして……そしてほほ笑んだ
「ああ、ありがとう。…だが殿下なんてよしてくれ。媚びへつらう貴族のような呼びかたをしないでくれ。アーディでいい。リーシャにはそう呼ばれたい。」
「わかった。アーディ。」
後ろにいた彼に振り返って、リーシャは頷く。
すると、ますます笑みを深め、アーディは彼女の頬にまたキスをした。
後書き 後半説明くさすぎてごめんなさいorz でもようやく舞台感をだせてきましたよ!
起承転結の起の終わりあたりにようやく入ってこれました!
次回更新遅れると思います
2週間くらいは更新できないかな?




