シロツメグサ ~ 約束、クローバーの丘で ~
読んでいただきありがとうございます。
「きゃーあぁぁぁーーー」
牛の糞に足を滑らせ私はクローバーの丘を転がり落ちている。
止まらない~。ゴロゴロ ゴロ ガサツ!
私はアゼイリアの茂みに突っ込んで漸く止まった。
「はあ~。助かったこのまま転がったら川に落ちるところだったわ~」
「お嬢様~大丈夫ですか?」
遠くに私を心配する、セラの声が聞こえる。
勢いよく体を起こし茂みから顔を出すと、川岸で休憩する商家の一団の中心にいる少年と目が合った。
黒いサラサラの髪を後ろでひとつに結び、はちみつみたいに深い金色の瞳……。
「素敵…………。」
10歳の私は初めて会った商家の少年にすっかり心を奪われた。
少年から眼を離すことが出来ずにいると、肩にかけたタオルで汗をぬぐいながら少年が近づいてくる。
「君、大丈夫かい?ケガはない?」
指がすらりと長いたおやかな手が私に差し伸べられて私は無意識にその手を取った。
「おや、茂みにはまってしまったのですか?」
少年の従者も駆け寄ってきて、一緒に私を茂みから救い出してくれた。
「ありがとうございます、私はこの領地を治めるラミレス伯爵が娘 アンジーと申します」
私は草と泥で汚れたワンピースの裾を少し持って挨拶する。
「あぁ僕は、カイル。隣の国に商談に行く途中なんだ……」
少年の顔が少しゆがむ。
クンクン。ん!私の靴むちゃくちゃ臭い!
私の右足は牛の糞がべったりと付いている。
きゃーーーーー。私の初恋、牛のウンチで終了だわー。
「うちのお嬢様がすみません。さあ お嬢様、この大きな石に座ってください」
侍女のセラが追いつき、私を近くの大きな石に座らせると、右足の靴を奪い、川でざぶざぶと洗ってくれる。
「タルゴ、荷物の中に靴の変えもはいっていただろ、彼女に」
「はい、カイル坊ちゃん」
タルゴさんは商馬車の荷物の中から、少年の靴を取り出し私の足元に置く。
「あ、あの……」
戸惑う私に少年はにっこり微笑んだ。
「僕の靴だけど新しいものだから、よかったら使って」
「ありがとうございます」
靴は少し大きかったけれど、歩くのには問題はない、それにすごく質のいい靴だわ……カイルのお家は大きな商家なのかしら……。
「あのお礼をしたいのですが、伯爵家にお立ち寄りいただくことはできますでしょうか?あの丘の上にある屋敷です」
カイルはタルゴさんを一度見てうなずく。
「では、お言葉に甘えて、それにしてもラミレス領はクローバーでいっぱいだね」
「ええ。我が領地は牛やヤギ、ヒツジの飼育から肉の販売、皮や羊毛の加工販売を主な収入源としています。クローバーは彼らのご飯なんです、繁殖力も強く草丈も低いので積極的に増やしているんです」
「へ~。凄いね、アンジーは四葉のクローバーは見たことがある?」
「はい。四葉は良く私を呼んでくれます」
「呼ぶ?」
「はい、こっちにいるよ~って」
「凄いね、四葉以上の葉も見たことある?」
「はい6枚までは見たことあります、今も一面に咲いている、このシロツメグサで花冠を作るのが小さなころは好きだったので」
「ふふ。今は作らないの?」
「もうそんなに子供ではないのです!私はもう10歳なんですから!」
「はは、僕のふたつ下だね、子供じゃないアンジーにお願いなんだけど、僕は四葉のクローバーを見たことが無いんだ、是非見てみたいんだけどいいかな」
「はい。四葉なら直ぐに見つけられると思います。セラ!私、カイルさんと四葉を探してから戻るから、先に皆さんを家にご案内して、お父様に事情を説明してくれる?」
「はいはい。大人の嬢様!泥だらけなことをお忘れなく、早くお戻りくださいね」
もー。セラの意地悪!
「はい。直ぐにみつけて戻ります~」
私が頬を膨らませると、カイルさんにぶすりと膨らめた頬を突かれた。
「ははっ。淑女は頬を膨らませたりしないよ」
「む~。カイルさんまで!四葉探しますよ!」
「ああ、頼むよそれと呼び方はカイルでいい」
私とカイルは、クローバーが一面に広がる丘で、四葉を探す。
「わあ!見つけた。カイル~四葉あったよ」
少し離れた場所にいるカイルに大きく手を振る。
走り寄ってきたカイルの瞳は四葉を見つめてキラキラと輝いた。
「凄い、本当に直ぐに見つけたね」
「四葉はひとつあると近くにもいくつかあるから……。」
「みてアンジー、五つ葉だ!」
「わあ。私も久しぶりに見ました凄い」
私たちは四葉と五つ葉を摘んで、栞にすることにして伯爵家に戻った。
それから毎年、シロツメグサが咲く頃になるとカイルは伯爵領を訪れては、私と一緒に四葉を探したり、川で遊んだりする楽しい時間を過ごす習慣が数年続いた。
✿ ✿ ✿
「お嬢様、明日から貴族学院ですね」
「そうね、王都のタウンハウスで過ごすのは少し心配だわ、それにカイルに会えなくなる……。」
16歳になるとすべての貴族子息、令嬢は王都にある貴族学院に通うことが義務とされている。
学院に通う2年間は夏と冬の長期休暇以外は領地に戻ることが出来ず、これから学院に通う2年間は……シロツメグサの咲く頃にカイルに会うことができない。
「お嬢様、元気を出してください、王都にはセラも一緒に参りますし、夏の終わりに見つけたこの七つ葉のクローバーで作った栞もちゃんとラミレス伯爵様からカイルさんに渡してもらえますから」
「そうね、もしかしたら王都でカイルに会うことができるかもしれないし、栞と手紙をお父様に託すわ」
「それにしてもカイルさんはなんで多葉のクローバーを探しいているんですかね~」
✿ ✿ ✿
カイル(ブルクハルト王国第一王子)視点
俺はブルクハルト王国の第一王子として生を受けて何不自由なく過ごしていた。
しかし5歳の冬に第二王子、クラウスの母であり側妃であるアイオナ様から送られたお茶を飲み、冬になると燕に姿が変わり清和月の誕生日になると人間に戻る呪いを受けた。
呪いをかけたアイオナ様は療養という名目で離宮に幽閉され、まだ3歳だった弟のクラウスは伯爵家に養子に出すことで降下させられたが……呪いをかけた呪術師が見つからないと呪いの解き方がわからない。
次の冬が訪れ、初雪が降った日俺はまた燕の姿になる。
両親と侍従のタルゴは呪いをかけた呪術師を血眼になって探し、ようやく見つけてたどり着いた事実は、解術の方法は10 っ葉のクローバーを俺が20歳になるまでに見つけること。
それから俺は、冬になると燕になり誕生日が来ると人間の姿に戻ることを繰り返している。
呪いのことを知るのは、国王夫妻である両親と呪いにより姿が変わるのを見た、侍従のタルゴと乳母をはじめとする数名の家臣だけだ。
呪いを解くため国中で多葉のクローバーを探し、12歳の時ラミレス伯爵領でアンジーと出会った。
叫びながら丘の斜面を転がり、茂みから顔を出したアンジーは金毛の子犬の様にかわいらしくて一瞬で眼を奪われた。
そのあとのアンジーとのやり取りは、臭かったり、膨れる頬が愛らしかったり、こみ上げっる笑いをこらえるのに必死で、呪いのためにどこか薄暗かった俺の毎日に、あっという間に光が差した。
それから毎年、誕生日が来て人間にも戻るとラミレス領を訪れてアンジーと多葉のクローバーを探す。本当はもっと多葉を探すことに時間を割きたいが、王太子としての一年分の公務を人間の姿の間にこなさなければならないため、なかなか時間が取れない。
そしてかわいかった少女は会うたびにどんどん奇麗になって行った。
「カイル様、アンジー様は今年から貴族学院に入学されたそうです」
「そうか、もうそんな年か……。」
「ラミレス伯爵からこれを預かりました」
タルゴから手渡された、シロツメグサの絵が描かれたかわいらしい封筒には、7つ葉のクローバーで作った栞とアンジーからの手紙。
= カイルへ =
この春、私は王都の貴族学院に入学します。
シロツメグサの咲く頃に、一緒に多葉を探せないけれど、もしかしたら王都で会ったりできないかしら?
夏と冬の長期休暇にはラミレス領に戻るので、夏の川や冬の雪をカイルと一緒に見れたらうれしい。
また会えるのを楽しみにしています。
7つ葉は昨年の夏の終わりに見つけました。今までの最高記録!
カイルに幸運が訪れますように。
アンジー・ラミエル
「タルゴ、あと2年で俺は10つ葉のクローバーを見つけられるだろうか……。」
「カイル様、必ず見つかります。ラミレス伯爵も探し続けてくれていますし、アンジー嬢がくれた7つ葉がきっと幸運を運んでくれますよ」
「そうだな」
10つ葉のクローバーが見つかる確率は 数十億分の一と言われている。
必ず見つけて呪いを解く、そしてアンジーの前に立つんだ。
俺は気合を入れなおし公務に向かった。
✿ ✿ ✿
学院では友人も出来て楽しい毎日。ただひとつの懸念を覗けば……。
今日も昼休みに友人たちと中庭で過ごしているとその憂慮はやってきた。
「アンジー嬢、我が家のバラが見ごろを迎えているんだ、見に来ないかい?」
「エリソン侯爵家令息様、今日はユリア様との約束がありまして……申し訳ありません」
「いやいいよ、また誘わせてもらうよ、お勧めしたいカフェもあるしね」
エリソン侯爵令息のジェイド様は、なぜだかこんな田舎伯爵令嬢を気にかけていろいろなところに誘ってくれる。
「断っていいの~、今、学院で人気ナンバーワンのジェイド様よ」
「いいのよ。田舎娘が珍しいだけよ、地味な私のどこがいいのか……。」
「本当にアンジーは自覚がないのね、学院内の女性人気ナンバーワンはアンジーあなたよ、鏡見たことある?その整った顔にふわふわのプラチナブロンドの髪とスタイルの良さ!さらに成績は上位10位以内にいつも名を連ねるのに、どれだけ自己評価が低いの?」
「褒めてくれるのはユリアだけよ、ユリアこそ公爵家の血筋にその美しいブラウンの髪と澄んだ青い瞳!成績だって私より上じゃない」
「困ったものね、そのどこの商会かもわからないカイルさんがいいんだっけ、私は純粋なアンジーが伯爵家と縁づきたい商家に騙されないか心配よ」
「カイルはそんな人じゃないわ、お父様はカイル様の事情を知ってるみたいだし…」
コルダー公爵家のユリアは学院に入って仲良くなった私の親友と呼べる存在だ、高位貴族のお嬢様なのにおごることなく気さくで一緒にいると楽しい。
「ねえ、今度ジェイド様に誘われたら三人で出かけるのはどう?異性の友人も作るに越したことはないわ二人きりじゃなければ大丈夫でしょ」
「まあそうね、友達としてなら大丈夫」
次の日ジェイド様にカフェに誘われて、三人で人気のカフェに出かけた。
話してみると、ジェイド様は多趣味で穏やかな方で私たちは直ぐに仲良くなり、学院の中でも三人で行動する様になった。
カイルとは時々手紙のやり取りをするけれど会うことができないまま季節は過ぎて、私はついに学院最後の冬休みを迎える。
「アンジー最後の冬休みは王都で過ごしましょうよ」
「そうだよ、学生最後の時間を一緒に過ごさないか?観劇やサロンに出かけてもいいし、三人で旅行に行くのはどう?」
「いいわね~。学生最後の思い出に出かけましょうよ」
「あの…………ごめん、この冬休みはラミレス領に帰ろうと思うの、観劇もサロンも旅行も卒業を迎える春にお願いしてもいい?」
「もう。またカイルさん?」
「うん。この冬は帰ったら会える気がするの」
ジェイド様とユリアはカフェのテーブルに手をついて大きなため息をついた。
「う~ん。これは友達として心配だから言うけど、エリソン侯爵家の情報網を駆使して調べた結果、大きな商家にカイルという青年はいなかったよ、やっぱりアンジーは騙されてるんじゃないか?」
「…………」
「アンジー。私も同じ意見よ、こっそり調べて悪かったけど、アンジーが心配で私もお父様に相談して調査した結果は、ジェイドと同じだったわ」
黙り込んで俯く私を、二人が心配して覗き込む。
「…………二人ともありがとう、でもカイルを信じたいの…………これで最後にするからお願い」
私は引き留める親友の二人に自分の思いを話し、この冬休みにカイルに会えなければ諦めることを約束しラミレス領へ戻ることになった。
✿ ✿ ✿
王都からラミレス領までは馬車で二日かかるが、王都を出る日に初雪が降って、予定より一日余計に掛かってしまった。門で馬車を降りて玄関までの道を歩いて向かうと、父とタルゴさんがドアの前で言い争いをしている。
「この二年で見つからなければ、アンジーには話さないまま、諦める約束です」
「まだ終わったわけではありません。アンジー嬢の力をどうかお貸しください」
「私も親です。娘を傷つけたくはないのです、どうかわかってください」
「先日の雪で、すでにカイル様は燕になってしまいました、次の誕生日までに10つ葉が見つからなければ、もう二度と人間の姿に戻ることができません」
「10つ葉の捜索はラミレス伯爵家が全力で探しますから」
大きな声で言い合う二人の声は、少し離れた場所にいた私にも十分に聞こえた。
私は全速力で駆け寄りタルゴさんの腕を掴む。
「どういうことですか?カイルがどうして燕に!そんなこと今はどうでもいい!とにかく10つ葉を見つけなきゃいけないのね、お父さんあそこならまだたくさんクローバーが生えているはず」
(ツピー。ツピー)
小さな燕が鳴きながらくるくると私の周りを飛ぶ。
「カイルなの?」
私が手を伸ばすと燕は私の手のひらにとまって、小さく首をかしげる。
「カイルなのね!私が必ず10つ葉を見つけるから」
私はカイルをコートの胸ポケットに入れて、裏の洞窟をめざず。
洞窟と言っても山肌が深くえぐれた窪地で、中は風もなく年中暖かい、天井には複数の穴が開いていて日差しが入るため冬でもクローバーが生い茂っている。
私は岩を滑り降りて、這いつくばり必死に10つ葉を探す。
探す。探す。探す。
暗くなり月が雲に隠れると葉の枚数がはっきり見えなくなった。
(ツピー。ツピー)
ポケットから顔を出したカイルが悲しげに鳴いた。
「お嬢様~。今日はこのくらいにして明日また日が昇ったら探しましょう。他の場所もみんなで探したのですが6つ葉までしか見つけられませんでした」
セラが迎えに来て……今日は探すのを諦める…………明日こそ見つける。
伯爵家に戻ると、同じように10つ葉を探していた、お父様とタルゴが戻ってきて夕食にしながら今までのことやこれからのことを話し合うことになった。
タルゴさんは泣きながら、カイルが呪いにかかった経緯を話してくれ。お父様は、私が事実を知れば血眼になって10つ葉を探し、呪いが解けなかった時には自分を責めて傷つくと思い事情を話さなかったと謝り頭を下げた。
そして明日からは、カイルの誕生日!清和月の5日までに何としても10つ葉を見つける!この領地のクローバーの数なら必ずあるはず!
それから毎日私は、日が昇ると日当たりが良くクローバーの残った場所で10つ葉を探したが、見つからないまま冬休みの終わりを迎えた。
「アンジー本当に学院に戻らなくていいのか?」
お父様が心配そうに私を見つめる。
「うん。もうすぐクローバーがどんどん芽を出し始めるはず、絶対に10つ葉を見つけるの。学院は卒業資格ももう取れているし、もともと最終学年の私達は自由登院だから戻らなくても大丈夫、卒業式には友達にも会えるしね」
(ツピー。ツピー)
私の肩でカイルが心配そうに鳴く。
「自分で決めたことだから後悔はしないわ、親友の二人には手紙も書いたし大丈夫よ」
私はしょんぼりと肩を落とすお父様の肩をバンバン叩き、気合を入れてクローバーの丘を目指す、日差しが暖かくなりクローバーが生えている場所も広がってきている。
クローバーの丘に登ると、下の街道に大きな馬車が見える。
馬車は私を見つけて止まると、バン!と大きな音を立て扉が開きユリアとジェイドが勢いよく飛び出してきた。
「アンジー。来ちゃった~」
「俺達も手伝うよ、人手は多い方がいいだろ」
私は嬉しくてボロボロ泣きながら、二人に飛びついて三人で草原に転がった。
「きゃー。アンジー虫がいたらどうするの~」
「私がやっつける!」
「ははっはは。草に転がって空を眺めるなんて子供の頃以来だよ~気持ちいいな」
「二人ともこんな田舎まで来てくれてありがとう」
なかなか見つからない10つ葉に沈みきっていた私の気持ちに二人の優しさが染み渡る。
なかなか涙が止まらない私を今度は二人が抱きしめる。
三人の上をカイルが鳴きながらクルクルと飛んでいた。
✿ ✿ ✿
2人のおかげで元気が充電された私は、以前の様に楽しく多葉を探す。
探す。探す。探す。探す。探す。探す。探す……。
時々四葉に呼んでもらえるようにはなって、四葉はいっぱい発見できるがそれ以上の多葉は、なかなか見つからない。
「カイルさんの誕生日は清和月の5日でしょ?二日後ね……。」
この10日余り探し続けてくれているユリアとジェイドが心配そうに私を見詰める。
「うん。でも絶対見つけるからね。カイル!」
私は肩に乗るカイルに話しかける。
「さあ探しに行こう♪」
結局その日も10つ葉は見つけることが出来ずに家に戻ってきた。
私は玄関で、クローバーの丘を振り返る。
「もうあんなに密生してるのに……。」
みんなで夕食を取り、部屋に戻るとタルゴさんが訪ねて来た。
「アンジー様。これはお渡しするかどうか悩んだのですが……やはりカイル様のお気持ちを知っていただきたく」
そう言いながらタルゴさんは白い封筒を差し出し私に渡すと、深々と頭を下げ部屋を後にした。
私は机に向かい、封筒を開ける。
中には二年前に私がカイルに送った7つ葉の栞と手紙が入っていた。
私は机に置かれた籠に目線を落とす。
籠に敷かれた毛布の上で、カイルがすやすやと眠っている。
私は手紙に目線を戻し、そっと開いた。
= 親愛なるアンジーへ =
この手紙がアンジーの手にあると言うことは、もう僕は人間には戻れなくなってしまったのだろう。
絶対に呪いを解いて、アンジーを迎えに行くつもりだったのに情けない。
燕でしかなくなる僕に、こんな手紙を貰ってもらってもアンジーを悲しませるだけかもしれないけれど、僕は初めて会ったあの日からずっとアンジーが好きだった。
燕になってもシロツメグサが咲く頃に、必ずアンジーに会いに行くよ
カイル ブルクハルト
私は手紙を読み終えて、ぐっと歯を食いしばった。
「まだ、あきらめない」
私はコートを羽織り、7つ葉の栞とカイルをポケットに入れ、ランプを片手に家を飛び出した。
きっとあそこにある気がする。
私は山端の窪地へ向かう。
(ツピー。ツピー)
カイルがポケットから顔を出し、心配そうに何度も鳴いている。
「大丈夫よカイル。私が絶対に呪いを解くから」
私はランプの明かりを頼りに窪地をくまなく探す。
「ああ。これいっぱい葉がついてる。1、2、3、4、5、6、7、8!うあー!8つ葉だ、最高記録」
「この窪地には牛や羊が入ってこないから、きっとある」
私はランプの明かりを頼りに、黙々と見落とさない様に、丁寧に探す。
一通り窪地を探しつくして私は仰向けに大の字で倒れこむ。
(ツピー。ツピー)
「…………」
どうして見つからないの……。
私の役立たず……。
必死に我慢していた涙が溢れだす。
(ツピー。ツピー)
カイルがポケットを抜け出し、ぴょんぴょん私の体の上を跳ねてやってくる。
顔の近くまで来ると、止まらない涙にキスをするように私のこめかみを突く。
私はそっとカイルを手で包んで横を向いた。
目前のカイルの後ろに、天井の穴から月明かりが差し込んでいるのが見える。
なんだか私はその光が差す場所を確かめたくなって、カイルを両手で包んで立ち上がった。
ゆっくりと光に近づき跪く。
月明かりが淡く照らす楕円の真ん中には多葉。
カイルを肩に乗せ私は葉を確認する。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10!……きゃー!やった!カイル 10つ葉だよ~」
私はカイルを手に乗せ10つ葉の根元に降ろす。
降ろした瞬間カイルは青白い光に包まれ、空高く上がっていく。
ひえ~、なんで?どうなってるの?
カイルはちょうど丘の上の中空で、もう一度ピカッと輝くと人間の姿に戻り落ちてくる。
「カイルー。」
私はカイルを受け止めようと急いで岩をよじ登りカイル目掛けて全速力で走る。
「うそー。間に合わない」
カイルは地面に着く瞬間、ふわりと浮いて草原に落ちた。
「良かったカイル」
私は横たわるカイルの場所に向け一歩足を踏み出した。
ヌル……。
「きゃーあぁぁぁーーー」
私は牛の糞に足を取られてまたもクローバーの丘を転がり落ちている。
止まらない~。ゴロゴロ ゴロ ガサツ!
アゼイリアの茂みに突っ込んで漸く止まる。
「いたたあ~」
腰をさすりながら起き上がる。
「君、大丈夫かい?ケガはない?」
指がすらりと長いたおやかな手が目の前に差し出された。
「カイル~」
私はカイルに抱き着いた。
「アンジー」
カイルにぎゅっと抱きしめられる……。
「はっはははっは!臭いね」
「ははは。うん臭い」
私は汚れた右足の靴をとりあえずその場に置いて、カイルにお姫様抱っこされて伯爵家に帰還した。
✿ ✿ ✿
そのあとはとんとん拍子に話が進み、私は王太子の婚約者となり、ジェイドはカイルの側近に抜擢された。
さらにさらになんとジェイドとユリアは婚約し、半年後には式を挙げる。
そして私は久しぶりに、ユリアとジェイドと通いなれたカフェでお茶の最中。
「もう。いつの間に婚約の話になってたの~」
「いや。アンジーが多葉を必死で探しているときにかな」
「無事にいろいろ解決したし、冬休みに行けなかった旅行に三人で行こうよ」
「わあ。いいね、何日か時間を貰えないか王妃様にお願いしてみる」
「「………………。」」
ん? なぜだか二人は私の頭の上を見ながら沈黙している。
私も目線を上に向けると、そこにはニッコリほほ笑むカイル!
「やあ。二人とも僕のかわいいアンジーをどうするって?」
「いえいえ、もちろんカイル殿下も一緒に四人で旅行に行きたいな~って話してたんです」
「そうそう、婚姻の話が進むとなかなか自由な時間もなくなりますから~」
「それはいい考えだね!どこに行こうか」
カイルはさらりと私の隣に座って、手を握る。
呪いが解けてからのカイルはなんだか前より明るくなって、はっきり自分を主張する様になった。
ちょっぴり愛が重めだけど、私の愛も思いからちょうどいい♪
~ 終わり ~
(*^-^*)




