ボタンの瞳 〜古びたクマのぬいぐるみと、緑の屋根のお医者さん〜
会社から帰ってきた、しおりさんはドサッとベッドに横になりました。
ギュウギュウの満員電車に乗るのは、とても疲れるのです。
「ただいま、くますけ」
しおりさんは枕元に座っている、くますけに声をかけました。
くますけは何も言わずに、ちょこんと座っているだけです。
それはそうです。だって、くますけはぬいぐるみなんですもの。
しおりさんが子どもの頃からのお友達です。
しおりさんはくますけが大好きで、寝る時はいつも一緒でした。
今だってそうです。
薄茶色のクマさんで、目は、こげ茶色の木のボタンです。
もう、ずいぶん長いことそばにいますから、ところどころ綿が飛び出しています。
ボタンの瞳も、片方取れかかっています。
「目だけでも直そうかしら」
しおりさんは、おさいほう箱から針と糸を出しました。
でも、くますけに針をさすのがかわいそうで、手が止まってしまいました。
「たしか、町のはずれに『ぬいぐるみの病院』というのがあったっけ」
次の日曜日。
しおりさんは、バスケットにくますけを入れて、「ぬいぐるみの病院」へ行ってみました。
緑の三角屋根の、かわいいおうちです。
屋根とおそろいの緑のドアを開くと、机の前に真っ白な髪の丸いメガネをかけたおじいさんが座っていました。
「今日は、どうしましたか?」
おじいさんが優しい声でたずねました。
しおりさんはバスケットからくますけを出して、おじいさんに見せました。
「ははぁ、目をケガしているねぇ。他にも、ここと、ここもかな?」
しおりさんは心配そうに聞きました。
「くますけは直るでしょうか?」
おじいさんは本当のお医者さんのように指でくますけのおなかをトントンとして、ニッコリ笑いました。
「ケガ以外は元気なものです。ちゃんと治りますよ。さぁ、くますけくん、治療をはじめようか」
おじいさんは、引き出しの中から糸を選んで、針に通しました。
しおりさんは、キュッと目をつぶりました。
「痛くないですから、大丈夫ですよ」
そう言いながら、おじいさんは綿のはみ出たところを閉じて、きれいに目もつけ直してくれました。
あっという間の出来事でした。
まるで、魔法のようでもありました。
そうして、くますけはしおりさんと一緒におうちに戻ってきました。
「治って良かったね、くますけ」
くますけは何も言わず、こげ茶色のボタンの瞳で、じっとしおりさんを見つめているだけです。
でも、その瞳がどこか暖かく見えるのは、くますけが「ありがとう」と言っているのでしょうか。
それとも、おじいさんの魔法でしょうか。




