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Do Man  作者: 山野 鹿
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第6話 失血

人間は、全血液の20%を急速に失うとショック状態に陥る。いつか新聞の片隅で見た覚えがある。


30%を超えれば生命の危機になり、ジーンズを真っ黒に染めたこの出血量は、おそらく20%の境界線を越えようとしている。


(今、俺は何回、意識を失ったんだ?)


椅子に固く縛り付けられた体には、自分が磨き上げたはずのフォークやナイフが、無造作に、だが正確に急所を外して突き刺さっている。


なぜ、俺はまだ生きている。


なぜ、あの男たちは俺を生かしている。


壊れた鳩時計が刻むリズムさえ聞こえない静寂の中で、啓司は血の匂いにまみれた現実逃避の海へと沈んでいった。


「根性だけは認めてやるよ。お前みたいな奴は珍しい」

髪を掴み上げられ、無理やり視線を固定される。


男が何かを喚いているが、啓司の耳には届かない。


「普通、ここまでやって白状しないのなら、情報を持っていないか、ただの馬鹿なんだが...。俺の勘が、こいつは『知っている』ってずーっと囁いてるんだよ」

「もうこいつ、死んでんじゃねーの? 周り一帯、血だらけじゃねえか。さっさと痕跡消して、ずらかろうぜ」

相棒の冷めた声。


拷問が始まって数時間。


新宿署の捜査網が及ばない密室で、啓司の意識は、20%の血液と共に「現実」という岸辺を離れ、深い暗闇へと漂流し始めていた。


「そうだな。珍しく勘が外れたか。おい、そろそろバイバイの時間だ。あばよコックさん」

男が冷たく笑い、猟銃の銃口を俺の眉間に固定した。


誰にも心配されない孤独な人生。


それもまた「好都合」だと言い聞かせ、啓司は安らかな眠りを乞うように、ゆっくりと瞳を閉じた。


——ドォォォォン!!

静寂を切り裂く爆音。


その衝撃は頭蓋を砕くことはなく、驚愕に目を開けた視界の先、そこには四人の男たちが入り乱れる地獄のような乱闘があった。


一人は、返り血すら寄せ付けないようなきっちりとしたスーツを纏い、圧倒的な力でナイフ男を組み伏せている。


そしてもう一人——。


ロングコートを着た、硝煙の匂いを纏うハードボイルドな男が猟銃を奪い取り、容赦なく猟師の足めがけて引き金を引くのが見えた。


啓司は朦朧とする意識の中で、その背中を見つめていた。


「やりましたよ! 服部さん! 例の二人です!」

きっちりとしたスーツを一切乱さず、男が声を弾ませた。


「なんか、拍子抜けだったな。上が喜ぶといいが」

ロングコートの襟を立てたハードボイルドな中年——服部は、奪い取った猟銃を無造作に眺め、すぐにフロアへと放り投げた。


「何言ってるんですか!? 二人も捕まえたんですよ? 少なくとも、こいつらに殺される人間はもう出ませんよ!」


「相変わらず熱いねぇ、お前さんは。いいか、手柄は全部やる。その代わり、クソ面倒な書類仕事は全部お前がやってくれ」


「えー、またですか!? いつもそれじゃないですか! そうやってハゲタカみたいに、美味しいところだけ持って行くんだから!」


血の海に沈む啓司の意識の端で、そんな場違いなほど軽快な口論が響き、死の淵を彷徨っていた少年の耳に、ようやく警視庁の無線機が鳴らすノイズと現実へと引き戻す応援のサイレンが重なり合う。

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