第三十話 役割が違う
少し、冷静になれた。
状況は変わらない。
俺は相変わらず、
壁のままだ。
だが、
考える余裕はできた。
「……何が違う?」
第一章の場所と、
ここ。
同じダンジョン。
同じ壁。
それなのに、
結果がまるで違う。
冒険者の時は、
嫌がらせで人が減った。
噂が立ち、
慎重になり、
引き返した。
判断する自由が、
あった。
だが、
ここでは違う。
嫌がらせは、
効率低下として処理される。
改善は、
前提条件として組み込まれる。
どちらにしても、
人は来る。
「……判断主体が、
俺じゃないな」
そこだ。
冒険者ダンジョンでは、
判断するのは侵入者だった。
危険かどうか。
割に合うかどうか。
それを、
各自が決めていた。
だから、
俺の嫌がらせが効いた。
だが、
鉱山では違う。
判断するのは、
運営だ。
個人じゃない。
組織だ。
効率が出るか。
事故が出るか。
数字が合うか。
それだけ。
「……だから、
逃げない」
作業員は、
判断しない。
判断しないように
設計されている。
嫌でも、
寒くても、
やりづらくても。
続ける。
続けられるように、
調整される。
俺は、
ようやく腑に落ちる。
ここで俺がやっているのは、
人を追い払うことじゃない。
運営の条件を
上下させているだけだ。
嫌がらせは、
条件を悪くする。
改善は、
条件を良くする。
だが、
どちらも
運営の判断材料でしかない。
「……そりゃ、
縛られるわけだ」
改善した結果、
条件が良くなった。
条件が良くなれば、
使われる。
使われ続ければ、
前提になる。
これは、
善悪の話じゃない。
役割の話だ。
俺は、
ダンジョンの壁であり、
運営要素になった。
冒険者ダンジョンでは、
障害物。
鉱山ダンジョンでは、
インフラ。
同じ存在でも、
役割が違う。
「……そりゃ、
扱いも変わるな」
冒険者にとっては、
嫌な場所でよかった。
だが、
国家にとっては違う。
嫌な場所は、
管理コストが高い。
良い場所は、
使い続けられる。
俺は、
後者に入った。
自分で、
選んだわけじゃない。
だが、
選んでしまった。
嫌がらせが無意味だと知り、
改善を試した。
それだけだ。
「……運営、
ってのは、
逃げ道を消すな」
人を守る。
効率を上げる。
そのどちらも、
間違っていない。
だが、
その結果として、
場所は固定される。
固定された場所は、
動かない。
俺は、
その中心にいる。
壁として。
「……ここから先は、
どう動くか、
じゃないな」
どう使われるか。
そして――
どう影響するか。
俺にできるのは、
そこだけだ。
冒険者ダンジョンと、
鉱山ダンジョン。
同じダンジョンでも、
役割が違う。
その違いを、
理解した以上、
もう戻れない。
ここから先は、
運営の話だ。
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