第二十六話 人が集まる
増えたのは、人だけじゃなかった。
音も、
振動も、
滞在時間も。
すべてが、
じわじわと濃くなっていく。
「この区画、
今日も回すぞ」
指示が飛ぶ。
一度きりじゃない。
毎日だ。
人が入り、
出て、
また入る。
休む時間は、
短くなる。
だが――
作業は、滞らない。
「……回転率、
上がってるな」
誰かが言う。
褒め言葉でも、
愚痴でもない。
ただの事実。
俺は、
静かに理解する。
良くした場所は、
使われ続ける。
それが、
効率というものだ。
改善した床の上を、
人が絶え間なく通る。
空気の流れを整えた通路で、
呼吸が乱れないまま、
作業が続く。
疲れにくい。
だから、休まない。
「……皮肉だな」
楽になるほど、
長く使われる。
嫌な場所なら、
短時間で済まされた。
だが、
楽な場所は違う。
「ここ、
持つな」
「いける」
そんな会話が、
当たり前になる。
俺は、
少しだけ、
手を止める。
いや、
正確には――
何もしない時間を、
長くする。
それでも、
状況は変わらない。
人は来る。
作業は続く。
改善した状態が、
前提条件になっている。
「……もう、
戻せないな」
戻せば、
不満が出る。
数字が落ちる。
理由を探される。
その先にあるのは、
調査と対策だ。
俺は、
その流れを
よく知っている。
嫌がらせの時と、
同じだ。
ただ、
立場が逆になっただけ。
嫌がらせは、
排除された。
改善は、
組み込まれた。
結果は同じ。
俺の自由は、減っている。
「……集まるな、
本当に」
作業員だけじゃない。
管理側も、
頻繁に通るようになった。
測定。
記録。
確認。
視線が、
この区画に集まる。
「この辺、
安定してるな」
安定。
その言葉が、
重い。
安定している場所は、
変えなくていい。
変えなくていい場所は、
そのまま使い続けられる。
俺は、
ようやく気づく。
嫌がらせをしていた頃は、
人が来るかどうかを
選べた。
だが今は、
来る前提だ。
来ない選択肢が、
消えている。
「……これ、
どこまで続く?」
答えは、
見えない。
ただ一つだけ、
はっきりしている。
改善は、
人を呼ぶ。
人は、
場所を縛る。
そして、
縛られた場所は――
離されない。
俺は、
壁のままだ。
だが、
この区画は、
もう“俺の外”じゃない。
人の動きに、
完全に組み込まれている。
「……良くしたのは、
間違いじゃない」
そう思いたい。
だが、
間違いじゃないからこそ、
厄介だ。
使われ続ける場所に、
逃げ場はない。
俺は、
その中心にいる。
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