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ダンジョンの壁に転生した件 〜嫌がらせしてたら国家運営に使われるようになりました〜  作者: 空城ライド


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第二十三話 逆をやってみる

 嫌がらせが意味を持たない。


 それはもう、

 はっきりしすぎるほど分かっていた。


 冷やしても、

 滑らせても、

 歩きにくくしても。


 文句は出るが、

 作業は止まらない。


 対処され、

 修繕され、

 続けられる。


 「……じゃあ、逆はどうだ?」


 思いついたのは、

 善意からじゃない。


 ただの確認だ。


 嫌がらせが無効なら、

 改善は有効なのか。


 俺は、

 ほんの少しだけ手を入れた。


 壊れていたわけじゃない。

 危険だったわけでもない。


 ただ――

 微妙にやりづらかった場所。


 そこを、

 “普通”に戻す。


 床の冷えを抑える。

 空気の流れを、少しだけ通す。


 頑張らない。

 目立たせない。


 「……あれ?」


 作業員の声が上がる。


 「今日は、なんか楽だな」


 その一言で、

 十分だった。


 転ばない。

 立ち止まらない。


 動きが、

 わずかに滑らかになる。


 「……」


 俺は、何もしない。


 ただ、

 様子を見る。


 次の往復。

 さらに次。


 誰も気づかない。

 誰も立ち止まらない。


 だが――

 疲れが減っている。


 足取りが、軽い。

 呼吸が、乱れない。


 「ここ、前よりいいな」


 誰かが言う。


 それだけだ。


 感謝もない。

 評価もない。


 ただ、

 作業が続くだけ。


 「……効いてるな」


 内心で、

 小さく呟く。


 嫌がらせの時と、

 反応が真逆だ。


 不満は出ない。

 対処もされない。


 誰も、

 “異常”だと思わない。


 普通。


 改善とは、

 そういうものらしい。


 俺は、

 もう一箇所だけ、同じことをする。


 目立たない範囲。

 数字が動くかどうかも、

 分からない程度。


 結果は――

 同じだった。


 作業が、

 滞らない。


 交代が、減る。


 ミスが、起きない。


 「……面白いな」


 面白い、という言葉は

 正しくないかもしれない。


 だが、

 嫌がらせよりも、

 ずっと静かで、

 ずっと強い。


 誰も警戒しない。

 誰も止めない。


 そして――

 誰も、元に戻そうとしない。


 「……これ、

 止めたらどうなる?」


 ふと、

 そんな考えが浮かぶ。


 試す気には、

 ならなかった。


 今ここで止めれば、

 それは“悪化”になる。


 良くなった後の悪化は、

 嫌がらせより

 ずっと目立つ。


 「……もう、

 戻れないやつだな」


 まだ大したことはしていない。

 命を救ったわけでもない。


 ただ、

 少し楽にしただけ。


 それなのに。


 この場所は、

 確実に“良くなった側”へ

 傾いている。


 作業は、続く。


 人は、集まる。


 誰も、

 ここを避けようとはしない。


 俺は、

 壁のままだ。


 だが、

 環境は、

 俺の方を向き始めている。


 「……嫌がらせより、

 よっぽど厄介だな」


 そう思いながら、

 俺は次の変化を待つ。


 これは、

 善意じゃない。


 ただの実験だ。


 だが――

 この実験が、

 どこまで続いてしまうのか。


 その答えは、

 まだ見えない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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