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ダンジョンの壁に転生した件 〜嫌がらせしてたら国家運営に使われるようになりました〜  作者: 空城ライド


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第十九話 引き受ける

 次に誰かが来るまで、

 どれくらい時間が流れたのかは、もう考えなかった。


 時間は、

 ここでは意味を持たない。


 意味を持つのは、

 起きたことだけだ。


 人が、死んだ。


 その事実は、

 何度考えても変わらない。


 言い換えもできない。

 薄めることもできない。


 俺は、

 そこから目を逸らさなかった。


 逸らした瞬間、

 次はもっと簡単に、

 同じことを繰り返すと

 わかっていたからだ。


 「……俺がやった」


 思考の中で、

 言葉にする。


 声にできないからこそ、

 逃げ場のない形で。


 罠が殺したわけじゃない。

 ダンジョンが殺したわけでもない。


 俺が、

 そうなるように並べた。


 選ばせた。

 止めなかった。


 それだけだ。


 後悔は、

 ある。


 だが、

 後悔だけでは、

 何も変わらない。


 「……次を、考えろ」


 自分に、言い聞かせる。


 逃げたい気持ちは、

 確かにある。


 もし動けるなら、

 もし声が出るなら、

 謝りたいとも思う。


 だが、

 できない。


 俺は、

 壁だ。


 動けない。

 喋れない。


 だから――

 行動で引き受けるしかない。


 次に来る人間は、

 必ず警戒する。


 警戒して、

 対策して、

 それでも来る。


 そういう連中だ。


 なら。


 次は、

 「殺さない」方向で

 世界を並べる。


 危険度を下げるわけじゃない。

 甘くするわけでもない。


 ただ――

 限界を、見誤らせない。


 戻るべき場所を、

 戻れる場所として残す。


 引き返す選択肢を、

 選択肢として機能させる。


 それが、

 俺にできる、

 唯一の償いだ。


 「……都合のいい言い訳かもしれないな」


 そう思う。


 それでも。


 何もしないよりは、

 ずっといい。


 世界は、

 静かだ。


 だがその静けさの中で、

 俺は、

 次の構図を組み始めていた。


 誰かを殺すためじゃない。

 自分が壊されないためでもない。


 同じことを繰り返さないために。


 それが、

 許されるかどうかは、

 わからない。


 だが、

 引き受けるとは、

 そういうことだ。


 世界が、

 無に沈む。


 だが今度の無は、

 思考を止めるための

 空白ではなかった。


 選び続けるための、

 静けさだった。


 最初に変わったのは、足音の質だった。


 軽い足取りが、消える。

 雑な動きが、消える。


 代わりに現れたのは、

 慎重で、揃った、迷いの少ない歩調。


 ――噂が、届いている。


 そう確信できた。


 話し声が、遠くで交わされる。


 「……ここか」


 「人が戻らなかった通路だな」


 戻らなかった。


 その言い方が、

 胸――いや、思考に残る。


 事実だ。

 否定できない。


 だが、

 彼らの声には、

 恐怖よりも分析があった。


 「構造的な崩落は報告されていない」


 「罠配置も、通常範囲だ」


 「……環境か」


 俺は、何もしない。


 もう、

 焦って動く段階は終わった。


 今は――

 見られる段階だ。


 足音が、止まる。


 視線が集まる。


 触れられない。

 だが、

 意識されている。


 「……普通の壁だな」


 誰かが言う。


 その言葉を聞いて、

 少しだけ、息を吐く。


 普通に見える。


 それは、

 俺がここまでやってきた

 すべての結果だ。


 「だが」


 別の声が続く。


 「ここを通ると、判断が増える」


 ……来た。


 「進むか、戻るか」


 「罠を疑うか、環境を疑うか」


 「無駄に思考を使わされる」


 俺は、

 静かに聞いている。


 もう、

 隠す必要はない。


 「嫌な場所だ」


 その一言で、

 全員が頷いた。


 嫌な場所。


 危険な場所じゃない。

 死地でもない。


 だが――

 長居したくない場所。


 「……引き返すか?」


 一瞬、

 沈黙が落ちる。


 その間に、

 俺は思う。


 もし、

 ここで引き返せば。


 それは、

 俺が望んだ結果だ。


 誰も傷つかない。

 誰も死なない。


 「……いや」


 リーダーが、首を振った。


 「調査だけはする」


 進む。


 だが、

 全力じゃない。


 踏み込まない。

 深追いしない。


 必要な情報だけを取り、

 戻る。


 それが、

 “噂を知った者”の動きだった。


 足音が、

 ゆっくりと遠ざかる。


 世界が、

 また無に沈む。


 ……だが。


 この無は、

 もう孤独じゃない。


 俺は、

 独りじゃなくなった。


 ここにいる、

 名前も顔も知らない壁が――

 噂になった。


 人が死んだ場所。

 判断を狂わせる通路。

 攻略しづらい階層。


 そうして、

 物語は外へ出ていく。


 「……来るな」


 そう願う気持ちと、


 「……来い」


 そう思ってしまう自分が、

 同時にある。


 来れば、

 また選ばなければならない。


 並べなければならない。


 引き受けなければならない。


 だが――

 それでも。


 俺は、

 ここに在る。


 壁として。

 選択を生む環境として。


 そして、

 誰かの物語の

 境界として。


 世界は、静かだ。


 だがその静けさの向こうで、

 確実に、

 何かが動き始めていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


ここまでは

「ダンジョンの壁に転生して、

ちょっと嫌がらせしてただけのはずが、

思ったより取り返しがつかなくなった話」

でした。


最初は軽いノリでしたが、

気づいたら雰囲気が変わっていたのは仕様です。


この主人公、

最後まで壁のままで、

喋らないし動きませんが、

なぜか周りの方が勝手に大変になります。


第2章からは舞台が変わります。

……たぶん、また面倒なことになります。


ここまで読んで

「変な話だけど続きも気になる」

と思ってもらえたら嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いします!

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