伯爵夫人ですが義母ギフトにはもう限界なので、夫の胃袋を鍛えようと思います。夫よ、後悔してももう遅いから
「お義母様からのギフトに困ってますの」
ある寒い朝、シアは騎士団長の夫に訴えた。
シアの義両親は今、夫に伯爵位を譲り田舎に引きこもって悠々自適に暮らしている。
それはいいのだが困るのは、秋が深まるとそこの産物を大量に送ってくれることだ。
産物のままなら有り難い。しかし義母は料理好きだった。
いつ作ったのか不明なケーキに、揚げ物。大鍋に入ったポトフの汁が移動の際の衝撃で溢れてそれらに付着してくる。
保存魔法をかけて送ってくれるならまだ良い。しかし義母は倹約家だ。
高価な魔石はもったいないと、使ってくれたことがない。
荷馬車いっぱいの生ゴミ。
それが、義母からのギフトの真実だ。
「お義母様ったら 『木枯らしの季節に腐るわけない』 とおっしゃるの。実際に傷んでいるのに…… 豚の餌に回すにも、限界がありますわ」
「そう怒るなよ。僕だって板挟みでツラいんだ」
夫は欠伸まじりにコーヒーを飲む。
シアはイラッとした。
―― お義母様は私から何度お願いしても聞き入れて下さらなかったわ。なのに貴方はいつも、私に我慢させて済ますのね。
シアは、決意した。
これまで、夫の前には出せない、と使用人に頼み飼料や肥料にしてもらっていた義母のギフト。
義母の望みを汲むならば、夫にこそ食べてもらうべきなのだ。
義母からギフトがまた届いた日。
「いつもどおりに処理を?」
文句ひとつ言わず穏やかに問うてくれる使用人頭に、シアは首を横に振ってみせた。
「今までごめんなさい。これからは氷室に入れてちょうだい、全部」
それから、夫の食卓は一変した。
「スープでございます」
「なんだこの生臭いポトフは」
「お義母様の手料理よ、貴方」
「メインディッシュでございます」
「なんだこの衣がでろでろで中が固い、最低のカツレツは」
「お義母様の手料理よ、貴方」
「デザートでございます」
「なんだこのケーキ、クリームが酸っぱいぞ」
「お義母様の手料理よ、貴方。まだまだ沢山ありますわ」
「君は食べてないじゃないか」
「あら、お義母様は貴方にこそ手料理を食べてほしいのよ。そう怒らないで、お気持ちを汲んで差し上げて?」
夫が絶望的な眼差しをシアに向けても、もう遅い。なにせギフトは半月に1度は届くのだから。
夫の食卓には義母の手料理が並び続けた。
しばらくして夫の騎士団で食中毒が発生した。
しかし夫はピンピンしていた。ここのところ胃腸を鍛え続けていた成果だ。
「まあ、本当にギフトだったのね」
シアはにっこりした。
★ 細菌は10℃以上で活動範囲になるそう。シアの住む地域では冬でも食べ物が傷むことがしばしばです。やがて耐えきれなくなった夫がやっと伝えたことで、義母ギフトは保存のきくものだけになりました。
なろうラジオ大賞応募用、千文字短編。お題は 『ギフト』 です




