契約
世界は、暗闇に呑み込まれようとしている。
暗闇に落とされた人間が一人、立ち上がる。
暗闇の力を手に入れ、暗闇に戦いを挑む。
神など、とうに忘れられた世界で
暗闇に落とされた
しかし、そこで暗闇の力を得て
暗闇たちを倒し、地上を救った
自分のみが暗闇となり
地上の連中からは感謝される
それでも、今さら地上に戻れない
最後の暗闇は、暗闇以外にはなれない
平和な世の中で一人、暗闇に潜む
たまに、暗闇に落ちる人間もいる
味方なら仲間へ、敵なら倒すのみ
地上に暗闇がある限り、暗闇は消えない
年月は記憶を風化させる
古文書は埃にまみれ、伝承は途絶えた
暗闇は、そのままで歳を取らない
ある日、衝突が起こる
地上は暗闇たちを拒絶した
暗闇は戸惑う、主張する
正義のヒーローは私だ
昔、地上を助けたではないか
地上の人々はいう
どうやら古文書にある暗闇らしい
昔の話だし、暗闇は仲間もいる
滅ぼしてしまえ
科学文明の進歩は、暗闇を軽く上回る
仲間は殺され
捕らわれた暗闇は裁判へかけられる
被告、暗闇
汝を死刑とする
死刑場へ移され、銃殺台に立たされる暗闇
言い残すことはないか
ある
暗闇は語り始めた
そうして、夕方になっても話している
刑は、翌日へと延ばされた
翌朝、早朝
言い残すことはないか
ある
暗闇は、再び語り始めた
一度も死んでない
かつて世界を救った英雄
そして全て忘れられた
気付けば、夕暮れ
刑は、翌日へと延ばされた
翌日も翌週も、翌月も
延々と死刑場で話し続ける暗闇
二ヶ月目を越えたころ
その場の全員が
暗闇を囲んで話しを聴いている
涙を流し、笑い、怒り、共感を示す
六ヶ月目を越えたころ
数万人が周囲に座り
巨大ディスプレーに映された暗闇を囲む
全世界に放送され
もはや神の降臨であると、世界中は信じた
そして七ヶ月目を越えたころ
暗闇は、ようやく話しを終えた
重厚な音楽が演奏され、世界の高官が並ぶ
銃殺台に立つ暗闇
感動が世界中を覆う、神は旅立たれるのだ
銃声
崩れ、落ちない暗闇
当たり前である
人間に暗闇がある限り、暗闇は死なない
顔を見合わせ、小声で相談する高官たち
代表の一人が暗闇の側により、耳元で囁く
会話は、小一時間ほど続き
ようやく首を縦に振る暗闇
再び、刑は執行される
厳かな音楽が演奏され、静粛
銃声
暗闇は、地面へと倒れた
すぐに、暗闇は何処へ運ばれてしまった
高官はマイクを取り
神の終わりを告げる
音楽が再び演奏され、数万人の嘆声
この場所は聖地となった
暗闇は、豪華なホテルの一室にいる
余生をここで暮らすことになる
贅沢な料理、自家用プール、各国の美女たち
高級なガウンを羽織り、口には葉巻
朝、太陽に乾杯しつつ美酒の杯を飲み干す
ジムで汗を流し、温泉につかる
そういう契約を結んだのだ
神など、いないほうが良い
今さら出てこられても、双方困ってしまう




