我が家の妹幼女は愛され令嬢で実は私が子供嫌いだと言えない
私には妹がいる。
僅か6歳児ながら利発で真面目で愛らしく甘え上手な女の子だ。
お兄様もお父様もお母様も、皆妹には首ったけ。
元々、我が妹は諸事情あって叔父夫婦のところに預けられていた。
しかしそこでの扱いはドアマットを踏みつけるかのように酷いもので、判明した時には妹は大人を恐れ、極端に良い子でいるような哀れな子に育っていた。
結局色々あって叔父夫婦から親権を取り戻し、我が家で過ごすようになった妹は瞬く間に家族の主役となった。
家族だけでなく使用人も妹にはゾッコンで、最近は王太子まで妹を気に入りうちに来ている。
うち、ただの伯爵家なんだけど。
妹は年齡の割に聡明で、しかも叔父夫婦の家にいた頃は判明していなかったが希少魔法の使い手である事まで分かっている。
これまでの不幸分を神がお詫びするかのように、妹は愛も才能も手に入れた。
この家の主役は妹で、他は引き立て役だ。
少しでも妹に不快感を与える人間は異物として追い出される。
だから……私は、妹が嫌いなんて口が滑っても言えない。
本当は……子供なんて、大嫌いだと、口が裂けても言えない。
理由なんてもっと言えない。
私の前世は成人女性の日本人で、その頃から子供が嫌いだったとか、転生しても子供嫌いだけは治らなかったとか。
嫌いな理由も言葉にするのが難しい。
私自身が未熟なのに子供の前では完璧な大人である事が強制されるとか、期待されるとか、そういうのも嫌な理由。
私は甘えたがりだから、他人に面倒見てもらうのは好きだけど見るのは嫌い。やらなきゃいけないならやるけど嫌い。
こんな事を言い出したらただの自己中屑女なので尚更告白なんて出来ない。
守られる立場から守る立場になるのが嫌だ。
私は自分が可愛い。
他人の為に自分の身を壁になんてしたくない。逃げたい。
自分が助かる為なら私は赤ん坊でも殺せる。
こんな最低ゲスな事、やはり他人には言えない。
まぁ、そういうのを抜いて……子供って、小さくて踏み潰しそうで怖いんだよね。
あんな生物が足元にしがみついてきたら怖い、うっかり踏んだら殺しちゃうし、犯罪者になっちゃうし、怖い。
意思疎通が出来ないのも嫌、こっちが頑張って理解してあげなきないけないのも嫌、下手な事を言って実は自分が大した事ない人間だと子供にバレるのが嫌。
私は子供が思い浮かべる年長者や大人ほど立派じゃなくて、でも子供の前ではその理想図を演じなきゃならなくて、それが嫌だ。
「あっ、こぼしちゃった……ごめんなさい、おにいさま、おねえさま……」
「あぁ、気にしなくて良いんだよ、シャーロット」
「そうだね、ケーキはまた作ってもらえば良いんだから」
私の兄は2人いる。
18歳の兄と12歳の兄だ。
私は9歳だ。
そりゃあ6歳児の妹は可愛いね、9歳の妹なんかよりよっぽど可愛いよね。
まぁ、私は前世の記憶持ちだし、皆に迷惑掛けたいわけでもないから、文句なんて言わないよ?
妹は文字を1個覚える度に褒められるのに、私はテストで80点取っても褒められない、そんなの気にしない。
だって6歳児と9歳児なんだから、6歳児を優先するのは当たり前だ。
寂しいとか、私も構えなんて、子供じみた我儘は言わない。
私は転生者だから、普通の子供よりずっと理性的で大人なんだから。
それでも気分は良くないんだよ?
だから、妹を愛でるのはお兄様達だけでやって、私まで連れ出さないで欲しい。
私は妹が嫌いなんだから。
でもそれを言ったら爪弾き者だから、妹が嫌いなんて言えない。
妹とお茶会するって言われたら、『妹が好きな姉は』喜んで付いていかなきゃいけない。
あぁ、でも嫌だな、楽しくないし。
兄様達は妹と話すのが楽しそうで、私は空気。
私は相槌を打つだけ。
偶に妹に「お姉様、楽しくない?」と聞かれるとビクッとする。
この妹は人の心を読むのが上手い。
私の本心など見抜いているのかもしれない。
でもね、あんたが「私、お姉様に嫌われてるのかな?」って言う度に私は周りから冷たい目を向けられるの。
妹を不安にさせるような真似をするなって叱られるの。
その度に私はあんたを大好きな姉を演じて、プレゼントを考えたり作り笑顔を練習したり面倒臭い事をしなきゃいけないの。
あぁ、正直を言えばこう思う、あんたなんて来なきゃ良かった、いなきゃ良かった、ずっと叔父夫婦のところにいれば良かったのに。
でもそんな事、思う事自体が最低だ。
言葉にする事は大罪だ。
それを口にすれば私は悪者だ。
家族からも弾き出されるだろう。家族として認識すらされなくなってしまうだろう。
妹は……彼女は、愛されなければいけない、愛さなければならない、愛さない事そのものが罪だ。
最悪、気持ち悪い、だから子供って嫌い。
同調圧力で強制された愛はそんなに好き?気持ちいい?
きっと気持ちいいんだろうね、私もそうだったから。
でも、私が6歳の頃は妹みたいに愛されなかった。
だから、あれだけ愛されるのは妹の才覚なのだ。
でも、妹が来る前は私だって愛されていた。
妹が来てから、私はおざなりになった。
私は皆に愛される末娘から、妹を愛する家族の1人でいなければならなくなった。
早く妹が大人になればいいのに。
とっとと王太子でも誰でも良いからどこかへ連れていけば良いのに。
お兄様達は、なるべく嫁に行って欲しくないみたいだけど、私はとっとと行って欲しい。
王太子様、妹への婚約の催促ならいつでもお待ちしてます、何なら今すぐ届けに来てください。
気に入られてからとか、好きになってもらえてからとか、まだるっこしい真似しないで、とっとと職権乱用でも何でもしてうちの妹、王宮で引き取ってください。
私は……この愛され妹が嫌いです。
親から貰った一張羅をケーキで汚してしまった妹に、私は自分のケーキを差し出した。
「ドレスは後で洗って貰えば良いわ。
ほら、ケーキ食べて、元気だして?」
「お姉様は……?」
「私は良いの。
この後、勉強入ってるの忘れてたわ。
後は……お兄様達と楽しんでね?」
作った笑顔を浮かべて庭園を出る。
そう、楽しめば良い。
私は楽しめないから、さっさとお暇するけれど。
さぁ、部屋に戻ったらこっそり買っていたスコーンにクリームでも盛り付けて、本でも読んで楽しもう。
子供……苦手、なんです。
作中の主人公ほど重症ではないですが、近付かれるとうっかり踏みつけそうで怖くなります。
よくなろう物だと愛され幼女とか多いけど、世の中子供嫌いの人間もいるよ、というそれだけの話です。
子供嫌いの人間は自分勝手、心が狭い、そんなマイナスレッテルを貼られる故に、子供嫌いなんて言えずに隠してる人も多いと思います。
主人公もそんな1人です。
特に妹が周りから溺愛されてすぎているせいで、子供嫌いの事実がバレたら死ぬとすら思ってます。
妹はよくいる愛され幼女キャラで、愛らしくて善良で元ドアマットで実は才能にも恵まれているという、愛されて当然と言わんばかりの欲張り特性豪華セットです。
将来は王太子を始めとした数々のイケメンに愛され、お兄様×2もそこに混じりながら逆ハーレム的な展開となるのでしょう。
いつまで経っても中々どの男の下にもいかない妹に業を煮やした主人公は自分がさっさと適当な男と結婚して家を出て行くと思われます。
ついでに、結婚する男は同じ子供嫌いで、跡継ぎはそれなりに育った適当な子供を養子に取って補う事になるかと。