6:初陣
僕の体を操る菫は軽く屈むと50メートル以上あった距離を10秒ほどで詰めた。
《眠りなさい。》
そのまま勢いを殺すことなく流れるようにゴブリンを殴りつけ、10メートルを優に超えるほど殴り飛ばし、吹き飛ばされたゴブリンは他のゴブリンを巻き込んで遠くに飛ばされていく。
「次!」
《今ので20秒。まだまだ猶予はある。》
レンがストップウォッチを構えているのを感じる。
《分かりました。それでは次へ行きます。》
次は粘魔の元へ走り、1匹を蹴り上げる。
分かった。菫は……
「逃がさない!」
《分かったようですね。》
僕の予想通り、菫は空高く飛んだ。
スライムを右手で掴む。
ぞわり。
手の中で蠢く。
「うわっ。」
思わず手を放してしまいたくなる。
《駄目です。このまま群れに投げます。》
そのスライムをスライムの群れに思い切り投げつける。
すると衝撃波と共に地面から大きな土煙が上がった。もはや現場は分からなかった。
《あれほどのダメージ、まずスライムは耐えられません。》
ヒュンヒュン!
甲高い空気を切り裂くような音が真隣からしていた。
そう、僕の隣には回転する剣があったのだ。
《鎌三さん。ずいぶん早いですが移行です。》
《およそ52秒か……了解した。残りの蜘蛛は儂に任せておけ。》
鎌三じいちゃんは回転している剣を掴むと大の字で降下し始めた。
蜘蛛めがけて落ちて行く最中に剣を逆手に持ち替え、スパイダーの中でも特段大きいものの腹部に背中から剣を突き刺す。
蜘蛛がもがき、振り降ろそうと体をゆする。
《まだだ。これで終わらん。》
一体、何を……
《歯を食いしばれ主!》
一度1メートルほど飛び上がり、体をくるりと180°回転させると剣を横に大きく振りかざし、頭部と腹部を分断させた。
僕はそのグロテスクな状況で冷静に叫んだ。
「……まだ、やる者は!」
残ったモンスター達はぞろぞろと帰っていった。
鎌三じいちゃんは剣を振り払って血を振り払い、ゆっくりと剣を鞘に戻した。
《これで戦い方はなんとなく分かったな?》
≪……無理じゃない?≫
《できる。お前の体でやったんだ。可能だ。》
≪ご教授お願い。≫
《夢の中でだぞ。》
≪助かるよ。≫
「主様……すごいです!どうやったんですか?」
「がむしゃらにやっただけだよ。どうやったのかって言われても分からないな。」
「それでも私を助けてくれた時のあなたはすごくかっこよかったです!」
「それは嬉しいかな。」
するとタカタカと馬の走ってくる音が聞こえて来た。
「大丈夫か!?」
父がその現場を見た。
「これは……!」
1匹のゴブリンが殴られ、10匹近くを巻き込んで死んでおり、スライムも小さなクレーターの周りで衝撃だろうか、大量に死骸があった。その上通常のスパイダーより二回り以上大きいスパイダーが倒れていたのだ。
「これは……スパイダー・チーフか!」
「スパイダーチーフ?」
「何なんですかそれ。」
「小さなスパイダーの集団をまとめるスパイダーの長だよ。となると他にもスパイダーが居たということになる。」
「居ました居ました!主様がこれを倒したら生き残った魔物はみんな逃げたんです!」
カーシャは興奮気味に父に対して説明していた。
腕をぶんぶん降って。
「だろうな。スパイダー・チーフはかなり強い。それを討ったのだから自分たちでは手も足も出ないと考えたのだろう。魔物は種をまとめる長が討たれたら逃げる習性がある。他の魔物もこれを見て逃げたんだろうな。」
父はカーシャの頭をやさしく撫でつつ、魔物の死骸たちを見つめていた。
「そうなんですか。」
「それじゃあヒューズ。一旦帰ろうか。」
「分かりました。父上。」
「カーシャも。」
「ありがとうございます。旦那様。」
僕たちは父の乗る馬に乗せられ、城下町へ帰っていくことになった。
ゆらりゆらりと体が揺れている僕は、帰りの最中、父に頭をなでられた。
「強くなったな。ヒューズ。」
「ありがとう。父さん。」