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5:その名は、ヒューズ・アルバート

どうも。アンフィニ祐です。

軽装版にようやく追いつきましたよ。

ちょっぴり追い抜いてるところも。

「ここは……一体……」

 石造りのトンネルの向こう側、淡く差し込む光が、まるで別世界への扉のように僕を誘っていた。

 僕は馬の上に揺られ、手綱を軽く握っていた。

 知らない世界。知っているが知らない。そんな矛盾したような思考が僕をめぐる。

「主様。どうかされたのですか?」

 7歳ほどのメイド姿の少女が僕に話しかけてくる。

「ほらヒューズ。今日はお前頼みごとを聞いてやる日だろう?」

 彼は……父だ。僕の父だ。

 本当に?なぜそうだといえる?

 それにちょっと待ってくれ。ヒューズ?僕が生まれてからずっと慣れ親しんできたこの名前。けど違う。僕は楓雅だ。ヒューズではない。

 頭が混乱してしまう。

 割り切るしかない。あくまで前世は楓雅で今世ではヒューズ。ヒューズ・アルバートなのだ。

 自然とそっちの方がしっくりくる。

「いや、何でもないよ。」

《ようやく起きたか。今まで面倒だったんだぞ。》

《けど楽しかったですよぉ。》

《頑張れよ。》

《あとでこの世界について僕たちが教えてあげる。基礎情報はもう渡してる。あとは自由にしていいよ。》

 ありがとう。本当に助かるよ。

「ごめん。ぼーっとしてて。何をするんだっけ。」

「今日は貴方が初めて外の世界を見ることができる日じゃないですか!」

「ここが……外の世界………!」

 トンネルを抜けると、草の香りが鼻をくすぐった。見渡す限りの大草原が、朝日を浴びてきらめいている。

 これが、”外の世界”。

 外の世界に初めて触れた僕を祝福するかのように爽やかな風が僕たちのもとへ流れ、青々しい葉が風に舞っていた。

 そんな風に手で顔を隠し、小さく微笑む。

「すごいな……」

 ふと後ろを振り向くと石造りの壁が立ちそびえており、周りの服も鎧を着た騎士が殆どであった。

 まるで中世ヨーロッパみたいだ。

 ふと腰を見ると刃渡り50センチほどの剣がある。

 鍔には凝った装飾が施されている。伝統工芸品みたいだ。

 鞘にすら手の込んだ装飾が施されていた。

 触る事すらもったいないと思ってしまう。

 せめて手袋をつけたいものだ。

「少しこの自然を味わいたいな。」

 馬から僕は降りると、その風を体いっぱいに浴びた。

 草原の景色に見惚れていた僕に、メイドの声が弾けた。

「それでは魔物モンスター退治に行きましょう!主様!」

 左手を強くつかまれた。振りほどけないことはないかもしれないが、そういうわけにもいかないだろう。

「カーシャ……まさか、本当に……!?」

 僕の言葉に彼女は無邪気に、笑顔で言った。

「はいっ!今から行きましょうよ、主様っ!きっと楽しいです!」

「えっ、ちょっ──待っ!?」

 すると僕はカーシャに手を引っ張られ、ぽかんとしていた大人たちをあっという間に振り切ってしまった。


 しかしこのメイド。何かとやらかしちゃう危なっかしい性格のようだ。

 以後注意しておこう。

 あっという間に本来の進路を大きく外れ、先ほどの大草原は何処へ行ったのか、森林の中に移り代わってしまっていた。

「ごめんなさい主様……私、調子に乗りすぎました……」

「うん。盛大にやらかしちゃったね。」

「本当にごめんなさい……」

 カーシャは僕に泣きついてきた。

 その目からは大粒の涙が溢れ出ていた。

 無理もない。主人と一緒に居たいという思いが先行しすぎちゃったんだろう。

 何せ僕と同い年なのだ。そうなってもおかしくはない。

 僕はポンとカーシャの頭に手を置き、撫でた。

「失敗は悪いことじゃないよ。」

 僕はカーシャの顔を見て、少し笑って言った。

「もちろん、失敗しないに越したことはないかもしれないけど……」

 少し間を置いて、僕は続ける。

「でも、ちゃんとリカバリーできるなら、それは意味のある失敗だよ。」

「そして、それを次に生かせるなら、もっと価値のあるものになる。」

「そうなんですか?」

「世の中絶対に失敗しない人なんていないよ。大丈夫。」

 そう言って僕はモンスターの方を向く。

 にしても人間ならともかく、相手がモンスターだなんて。僕だって前世では剣道をかじったくらいだからなぁ……

 辺りには僕と同じくらいの緑の人のような化け物。それに丸い水玉のような敵に身長50センチほどある蜘蛛がいる。

《楓雅。一応名前教えておくよ。》

≪楓吾!助かるよ。≫

《緑の奴はゴブリン。水色の奴は食人スライム。蜘蛛はスパイダーだね。

 特徴はゴブリンは一定の知能を持ってるよ。5歳児ほどの知能があったはず。

 食人スライムは弱い人間を体当たりで襲ってくるよ。

 スパイダーは毒を吐いたり、蜘蛛で動きを止めてくるからこの中だと一番厄介かもね。》

 体がまるで芯から冷え切ったように身震いしてしまった。

 そんな僕を見かねて鎌三じいちゃんが口をはさんできた。

《主。体の制御権を儂と菫にくれ。意識はお前のまま儂が補助として戦ってやる。お前の体に武術というものを叩きこんでやろう。》

≪鎌三じいちゃん……!分かった。お願いするね。≫

《気合を入れろ。剣を構えるぞ。》

「カーシャ、離れてて。」

「主様。まさか戦うんですか!?」

「うん。できるだけやってみるよ。」

「無茶ですよ!って言いたいところですけど、頑張ってください…無茶だけはなされないように。」

「ありがとう。」


 ここで絶対に逃げるわけにはいかない。けど、他の人に頼り切るのは嫌だな。なんだか男として情けなくなってしまう。


 そう考えているのも束の間、鎌三じいちゃんはゆっくりとその剣を引き抜いた。

 僕にその感覚がトレースされ、剣の重みが伝わってくる。

 あれ……?重くない。

 僕が目覚める前までみんなが僕の体を鍛えてくれたのだろう。剣をまったく重いと感じなかった。

 鎌三じいちゃんは剣を引き抜くと軽々しく空に高く放り投げると剣は上空でくるくると回転する。

《あの手の相手には素手の方が合う。菫!》

《分かりました。あれが落ちるまでの時間をください。》

《儂がキャッチできるまでに元居た場所に1分と45秒で戻ってくれ。》

《分かりました。》

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