4:真実と崩壊
《教えてくれ。玲児。》
《………いいだろう。リーダーは知っておかなければならない。これがどんな結果になったとしても受け入れることができるか?》
《僕は受け入れる。彼のためなら全てを捨てて見せる。》
《Ich bezweifle, dass es damit getan ist.》
ティップが小さく吐き捨てた。
《どうやらあやつはどうやら原因になった記憶を無意識に封印していたようだ。》
《無意識に封印?》
《私が詳しく説明しましょう。》
《頼む。》
《これは、彼が齢5歳の頃の話です。まず、皆さんは不思議には思いませんでしたか?》
《何がなんだ?》
《普通はレンさんのように感じてしまうでしょう。何せその人物がいなかった期間はあまりにも長かったですから。》
玲児は一度深呼吸をした。息が詰まるかのような緊張が張り詰める。
《彼の……父親の存在です。》
《儂は始めはシングルマザーという奴かと思って納得していた。》
《考えたこともなかったですねぇ。》
《まったくだ。》
《・・・。》
楓吾は少しばかりの頭痛を感じていた。
《大丈夫ですか?》
《ちょっと頭痛がね……。》
《無理もないでしょう。端的に言います。彼の父は生きている。そして、別に離婚したわけでもない。》
《じゃあなんで今ま来なかったんだ!》
レンが声を荒げた。仕方もない。もし父が居たのであれば楓雅が苦しむこともなかったかもしれないからである。
《主の父親と主は非常に仲が良かった。しかし、不運が全てを壊した。》
《不運?何なんだい?それは。》
《主の父親は暴走し、交差点に突っ込んできた車から主を守るために主を抱きかかえ、主を守りました。》
《うっ……!》
《リーダー。耐えてください。……その結果。主の父親はそれから意識を取り戻すことはありませんでした。所謂、脳死という奴です。》
《脳……死。そうか、そうだったんだね。》
《主はその事実に耐えられなかった。自分のせいで父に会えない。自分のせいで父はこんなことになってしまった。自責の念に囚われました。》
《そして、楓雅の心は耐えきれず、その記憶を封印。母も壊れ、虐待し始め、僕ができたってことか。》
《その通りです。リーダー。》
その時、楓雅の脳裏にある記憶がフラッシュバックした。
「あ……!ぐっ……!」
頭を抱え、席から崩れ落ちる。
「大丈夫か!?楓雅!」
クラスメイト達が次々に駆け寄った。
「ねえねえお父さん!」
「どうしたんだい?」
「こっちに向かってすっごく速い車が来てるよ!」
無邪気に父に向って僕は言っていた。
「なんだって?」
父もその車のもとへ振り向く。
「楓雅ッ!」
父は僕を抱きかかえ、車に向かって背を向ける。
「間に合わないッ!」
衝撃が僕たちに襲い掛かった。
僕の意識は薄れ、消えていった。
次に目覚めたときは病室。
「楓雅!」
母は僕を抱いた。
幸い僕は軽傷だった。
しかし父は。
「最善を尽くしましたが、長塚壮悟さんは脳の機能が停止状態だと考えられます。」
「意識は戻るんですか!?」
母が医師に藁にも縋る勢いで聞いた。
「回復は絶望的かと……。」
「うそ………」
「そんな………」
ここで僕と母の心はぽっきりと折れた。
母と僕の違うところがあるとすれば、母はそれにより完全に狂ってしまい、僕はその記憶を一切封印し、忘れたということだ。
「あ……あ………」
僕は、完全に意識を失い、頭の何かが砕けるような音を最後に意識を完全に落としてしまったのだった。