3:本音と本心
結論を先に言えば裁判の結果。僕は養子に入ることが決まった。
ただ、母は僕と和解することができた。
しかし、母の精神状態は良くないらしく、精神病院で入院することが決まった。
「・・・これでよかったんだ。」
裁判の最後で僕たちは本音で語った。
「………楓雅。」
「うん。」
「いままでごめんね。」
「!」
「私の苦しみを貴方に一方的に押し付けてごめんね。ああなってしまったのは貴方のせいではないのに。」
「いいんだよ。僕の不注意のせいでああなっちゃったんだ。悪いのは僕。それは変わらないよ。」
「それでも。私はそれを受け入れて前に進まなければならなかった………!」
「それがわかったならあとは前に進むだけだよ。僕はやさしい母さんに戻るのを待つよ。」
「ええ……ええ!またあなたの隣で笑顔で歩ける母になって見せるわ。待っていて。」
「うん。待ってる。」
二人は最後はハグをし、母は静かにそこから立ち去って行った。
そして、時は流れてゆく。
時は高校生時代。
虐待は過去のものとなり、他の多重人格もあれからまるっきりでなくなった………
なんてことはなかった。
「ねぇねぇ楓雅くん!」
「なに?」
「ここ分からないんだけど……」
「ちょっと待って。玲児さん呼んでくる。」
≪玲児さーん。ちょっと勉強見てくれません?≫
《構わない。》
「よし。この因数分解は……」
「なぁなぁ楓雅。」
「ん?」
「多重人格に目が行きがちだけどお前が一番すごい目立ってる気がするんだよな。」
「そう?」
「そうそう。」
「けど健汰だって十分個性があるじゃないか。」
「そりゃそうだけどな。本当のお前は他の人格と違って流されやすいけどしっかりとした根があるんだよな。」
「ありがとな。」
楓雅の内側ではある会議が開かれていた。
《皆さん。お久しぶりですね。》
《菫か。どうした。毎日会っている仲だと思うが。》
《こう面と向かって話すことは少なかったですから。》
《なるほどな。》
《話はそこまでだ。レン、鎌三さん。例の調査結果がついに出たのだろう?》
《ああ。ようやく……な。》
《儂も最初の見当とは結構外れちまっていたが、こりゃあこうもなりかねんと思っちまったな。》
《何のことなんですかぁ?》
《ニコも気になる!》
《……楓雅の母親が狂った原因だよ。僕もなんで狂ったのかを知らないんだ。何せ僕ができたのはその後だから。》
《Ich dachte, du hättest es vergessen.》
《ティップ……せめて日本語でしゃべってくれないかい?》
《Warum sollte ich mich euch anpassen? Außerdem weiß ich es bereits.》
《知っていたのなら教えてくれてもいいんじゃないのかい?》
《Ich gebe nur einen Hinweis. Wie ihr ihn nutzt, liegt ganz bei euch. Daher werde ich nichts über das Ergebnis eurer Handlungen sagen.》
《結論は先に言わないと言われてもな。それでは迅速に行動できない。》
《Wenn es nötig ist, werde ich euch sofort einen Hinweis geben. Doch im Moment ist ein schnelles Handeln nicht erforderlich. Im Gegenteil …》
《むしろ?》
その疑問にティップは答えなかった。いや、そこからすでに去っていたのだ。
《帰っちゃいましたねぇ。》
《仕方ない。現状あなたたち以外に情報は伝達してあります。リーダーにこれを伝えるべきかは少々考えかねますが……》
《なぜだい?玲児。教えてくれ。》
《リーダーと主は一心同体といっても過言ではありません。リーダーは大丈夫でも一心同体に近い主も知る可能性は十二分にあります。それによって心が壊れる可能性を示唆しているのです。》
《いつかは彼も知らないといけない事実。彼には、その事実を知ってほしいんだ。思い出してほしいんだ。教えてくれ。玲児。》