1話 与えられなかった者
人間の何があろうともかならず100%である。
例え腕を欠損しようともその割合は他の部位に分散される。
両足、もう片腕、頭、そして魔力。
人間は何を失おうと平等である。
魔神が提唱した教えである。
しかしこれは割合の話だ。
同じ100%でもその上限は人によって違う。
努力や才能で上限は変えられる。
***
ここはストルズ王国の辺境、トヨ村。
「ねぇねぇお父さん。またこのお話読んで!」
「おぉ、お前はそれが好きなのか」
「うん!」
少年が父親の膝の上に乗る。
「じゃあ読むぞ」
昔々魔物は人を滅ぼそうとしていました。
人は魔物と戦いましたが魔物はとても強かったのです。
あっという間にたくさんの国がやられてしまいました。
そんな時一人の少年が生まれました。
名前はリーベ。
リーベは生まれながらに体が強くたくましい戦士になりました。
しかし彼の力でも魔物を止めることはできずにいました。
彼が魔物に倒されそうになった時魔神様より魔法を与えられました。
彼は魔物たちを一掃し、その数はみるみるうちに減っていきました。
そして魔物たちを魔大陸に追いやり世界は平和になりました。
その英雄は討魔の英雄と呼ばれたくさんの人から慕われるようになりました。
「めでたしめでたし」
パタンと本を閉じた。
「僕もこの英雄さんみたいになれるかな」
「お前ならきっと――」
「――トさん。―ルトさん。アルトさん!」
俺は夢から覚める。
どうやら寝落ちしてしまったようだ。
「やっと起きましたね」
目を覚ますと幼馴染のネイドが立っていた。
彼女は貴族であり王国騎士団、団長である。
彼女の家族は孤児だった俺を養子にしてくれた。
幼馴染というより家族に近い。
「国会での会議資料できましたか」
「敬語なんて。二人っきりなんだしタメ語でも――」
「できてるんですか」
俺の言葉を遮って聞いてくる。
彼女は10歳を過ぎたあたりから急に冷たくなった。
俺が話しかけると大げさに驚いていた。
更に俺が財政大臣になると口をきいてくれなくなった
話すときと言えば勤務中の必要最低限の会話のみだ。
それでも彼女と話せるのは嬉しいことだ。
「もうできてるよ。回収だろ」
資料を渡すときうっかり手を切ってしまった。
ネイドは資料を受け取ると早々に立ち去った。
「昔みたいにもっと仲良くしたい」
誰もいない部屋でぼそりと呟いた。
***
2週間後会議が行われた。
議題は防衛費の増額についてだ。
魔物の数が増えているのだ。
おそらく大量発生が近いのだろう。
この世界には魔力と魔術が存在する。
魔力は世界中を包むように広がっており誰もがその影響を受けられる。
今だ未知なところはあるが特に大きな影響は寿命だ。
今の人類の平均寿命は200年だ。
それも190歳まで25歳程度の体を保ったままだ。
そのおかげで人類は早く文明発展させることができた。
その魔力をエネルギーにして使うのが魔術だ。
魔術は体内から魔力を生み出したり、
外の魔力を吸収したりして使えるそうだ。
そして努力や才能で100%になったものが魔術師になり国に仕えている。
これら二つを魔法と呼ぶ。
一見人間には害のないように見える魔法だが、
1つだけ大きな問題がある。
それは魔物を生んでしまうことだ。
魔物の種類は三つに分類される。
1つ目は魔獣。
魔力の濃いところで湧くこともあれば野生の動物が魔獣化することもある。
理性がなく、会話が不可能。
本能的に人間を襲う。
2つ目は魔族。
これは魔神が最初に魔法を与えた者の子孫だ。
他の血と混ざることなく受け継がれてきた純粋な血。
そのせいか体が少し変形している種族もいる。
が、基本的には人間と友好的である。
3つ目は魔人。
これは人とは言うが魔獣に近い。
ただし言葉が通じる。
通じるだけで人間性はないが。
そして彼らの発生源は人間だ。
人の死に際の後悔や屈辱が世界の魔力と共鳴して魔人が生まれる。
もとは人なのだ。
しかし人のころの記憶はい。
狡猾で卑怯、おまけに強い。
人間の魔術師10人が長時間魔力を込め続けた魔術をぶつけてやっと倒せるレベルだ。
今回の議題の魔物とは魔獣と魔人のことである。
50年前ここストルズ王国とギア大帝国との戦争で大勢が死んだ。
その時の怨念が今になって魔人化し始めた。
それに対してストルズ王国は武器や魔装具の整備のため防衛費を上げる必要がある。
あるのだが国会の頑固ジジイ共(見た目は25歳中身170歳)ははそうはいかない。
上げれば我々への給金はどうなるのか。
このままで充分である。
ギア大帝国に押し付ければいい。
など上げることに断固反対のようだ。
***
結局決まらず無駄な時間を過ごした。
俺は家に帰りベッドに横たわる。
会議のせいでどっと疲れがたまった。
俺は夕食を食べず寝てしまった。
***
目が覚めるとそこは俺の部屋。
ではなかった。
俺の腕は鎖につながれ俺は牢屋の中にいた。
俺何かやったっけ。
思い当たることを探すが特にはない。
強いて言うならよくネイドの勤務室に遊びに行った。
でもすぐに追い出された。
セクハラだっただろうか。
そんなことを考えていると奥から大男が現れた。
「時間だ付いてこい」
俺は言われるがままそいつについていく。
すると明かりのある場所に出た。
何度か仕事できたこのがある。
裁判所だ。
左にネイドがいる。
関係者席にはネイドの両親が。
マジでセクハラかな。
ドン、ドン。
裁判官がガベルを打つ。
「この度財政大臣アルト・へアズが不適合者であることが判明した」
不適合者。
それは魔法の影響が受けられない者。
つまり魔術も使えず寿命も短く年老いてしまう。
これらの特性は子孫にも受け継がれる。
この連鎖を断ち切るために不適合者は殺さなくてはならない。
俺自身うすうす気が付いていた。
でも何でバレた。
俺はまだぴちぴちの27歳だ。
しわもない。
それなのに何で。
「証人のネイド・へアズ」
は?
俺の思考が停止する。
何でネイドが。
ネイドは俺が混乱しているのを待ってはくれない。
「2週間前、防衛費の増額に対する資料を回収しに行きました。そこでアルトさんは手を切ったのですが1週間経ってなお傷が癒えていませんでした。魔力の影響を受けているなら3日もかかりません」
それには自覚がある。
最近太りやすくなったし、傷の治りも遅くなった。
でもそれは個人差があるだろう。
証拠としてはまだ弱い。
「それをきっかけに調査を依頼しました。その過程でアルトさんの回復魔術の使用履歴を見ました。
アルトさんは今までで一度も回復魔術を受けたことがありませんでした。たとえ骨が折れるような重傷を負っても」
俺は負けじと
「それはいかなくてもいいと判断したからだ」
そう答えた。
するとネイドは不敵な笑みをこぼすとある人を呼び出した。
回復魔術師である。
いやな予感がした。
「彼の頬を治癒してください」
回復魔術をかけられた。
俺の体は回復しない。
俺は負けが確定した。
「不適合者だから何なのだ。アルトはこれまでミス一つなく国の財政を行ってきたではないか」
「そうよ彼にもチャンスを与えてあげてちょうだい」
ネイドの両親が俺を庇ってくれた。
でも
「不適合者を庇うということは世界への裏切りだ。貴様らも一死の森へ行くか」
裁判官が容赦なく脅す。
遠目からでも彼らが震えているのが分かる。
それでも引かなかった。
彼らはこんな時でさえ優しい。
だからこそ巻き込みたくない。
「二人とももういいんです。身を引いてください」
俺だって死にたくはない。
でも俺のせいで大切な人が死ぬのはもっといやだ。
これでいい。これでいいんだ。
「不適合者アルト・へアズを死の森への追放の刑に処す」
そう裁判官が言い放った。
***
2日後俺は王城の地下にある転移魔方陣の上にいた。
「最後に言い残すことは」
執行人、俺の元部下ロイエが言った。
「お父さんお母さん今まで育ててくださってありがとうございました」
俺はネイドの両親にお礼を伝えた。
「来世は不適合者にならないといいですね」
ロイエはそう言うと転移魔方陣を発動させた。