私の友人が困っているようです ~ マリアンナ編 ~
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私の名前はマリアンナ・ハイマント!
みんなからは「マリー」と呼ばれています。明るく元気が取り柄で、男爵家の令嬢ですが、それ以上の肩書きなんて特に要らない。好きな人もいますし、家族にも愛されている――それが私の幸せだからです。
……だったのですが。
最近、私の平穏な日々が突然ひっくり返されるような事件が起きたのです!
きっかけは、部屋に届けられた恋文。それも一通ではなく、次々と届くのです。その内容はどれも熱烈で情熱的。差出人がクワトロ王太子殿下だと気づいたときには、もう手足が震えてしまいましたよ。
最初はいたずらかと思ったんです。でも、筆跡は間違いなく本物で、文章の内容もあまりに真剣すぎます!
「お父様! お母様! 大変です!」
すぐに両親に相談しました。手紙を見せると、父も母も驚愕した表情です。
「これは……どういうことだ? クワトロ王太子殿下はエレノア公爵令嬢と婚約しているはずだが」
父は読みながら険しい顔つきになり、母は唇をかみしめて言葉を失っています。
「どうするの……? 王太子殿下からこんなものが来たなんて、私たちに断る権利なんてないわ」
母の声には、明らかに動揺が滲んでいました。男爵家の私たちにとって、王家の意向は絶対です。拒むなど考えるだけで恐ろしい。
でも――
「……お前はどうしたいんだ、マリー?」
父のその問いかけに、私は一瞬息を呑みました。
「私、コンラッドと結婚したいです。王太子殿下のことは、正直迷惑でしかありません。」
その言葉を聞いた父は、静かにため息をつきながら言いました。
「そうか。お前がそう望むなら、たとえどんな結果になろうと、私が守る。母さんもそうだな?」
母は驚いた顔をした後、少しの沈黙を挟んでしっかりとうなずきました。
「もちろんよ。マリー、あなたが幸せじゃない未来なんて、私たちには耐えられないわ。」
涙がこみ上げてきました。
両親が私の気持ちを尊重してくれたことに、感謝と愛しさで胸がいっぱいになったのです。
いえ、駄目です。感動している場合ではありません。家族そろって危険な橋を渡らないといけない状況に追い込まれているのが実態です。
「お父様、この件をリリーに相談してみましょうか? リリーなら何か妙案があるかもしれませんよ」
「ああ、そうだな。リリアン様にお願いして第二王子殿下から、何か聞き出してもらうのも良いかもしれん。ただ、リリアン様のご迷惑にならないように気を付けるんだぞ」
次に向かったのは、私の親友であるリリアン・シュペンクラーのもとでした。彼女は伯爵家の令嬢で、私にとって頼れる存在です。何かあればすぐに相談できる、そんな心強い友人です。
「リリー、私ね。クワトロ王太子殿下から求愛されているの」
私はリリーのお部屋に入れてもらうと、すぐに相談しなきゃって思っていたから、つい核心から話してしまいました。
「……は? マリー、あなたは何を言っているのですか? まさか王太子殿下に横恋慕したとかではないでしょうね。そんな大それたことを口にしては、不敬罪として罰せられますわ」
「違うよー。第一、私はコンラッドがいます。コン以外の方と結婚するつもりはありませんよ」
コンは以前にリリーに紹介したことがあります。我が家に仕えている騎士ですが、出身は他の男爵家の三男なのです。
「マリー、では何故、王太子殿下があなたに求愛していると思ったのですか?」
あぁぁ。そうなりますよね。
「リリー! これを見て!」
手紙を渡すと、彼女は最初は目を丸くし、次に大きく息を吐きました。
「……マリー、これはただ事ではありませんね。」
「私は、学園で何度か殿下から声を掛けられて、お話したことはあるけど、当然二人っきりでお会いしたことも無いし、誤解されるような言動を取ったことは無いつもりだけど。困るよ」
「下手をするとあなたは泥棒猫扱いされて、ハイマント男爵家も要らぬ誹りを受けることになり、シュトラウス公爵家に睨まれでもしたら立ち行かなくなりますわ」
彼女の目が真剣になり、私を落ち着かせるように微笑んで言いました。
「心配しないで。私が動きます。まずはエドワード殿下に相談して、それからエレノア様にもお話を通しますわ。」
頼もしい言葉に、私は思わず泣き出しそうになりました。
「リリー、ありがとう。伯爵令嬢にお願いするのも失礼な話だとは思うけど、私たちには、手に負えなくって」
家に戻ると、両親が迎えてくれました。私はリリーに相談したことを報告し、彼女が動いてくれることを伝えました。
「そうか、彼女なら頼りになる。だが、私たちも覚悟を決めねばならんな」
父はどこか達観したような口調で言いました。
「覚悟?」
「最悪の場合、王家と対立することになるかもしれない。それでも、お前を守る!」
「お父様……!」
母も力強く言いました。
「あなたを幸せにすることが私たちの務めよ。例え相手が王家でも、それだけは譲れないわ」
私はただ涙をこらえることしかできませんでした。
学園でリリーが声をかけてくれた。なんとエレノア様とお話をすることになったのです。
「えぇ。エレノア様とリリーのお家で会うの?」
「ちょっと、マリー。外だからリリーはまずいわよ」
「そ、そうでした。リリアン様、わ、分かりましたわ。」
家にいるときは愛称でいいけど、お外では、ちゃんとしないと「これだから、男爵家は」って侮られるんだって、リリーもエレノア様とは愛称で呼び合っているけど、お外では、ちゃんとエレノア様って呼んでいるの。
……それは、ともかく、すっごい緊張するんですけど! 私はエレノア様とは、ご挨拶程度で、ほとんどお話したことが無いのです。
公爵家のご令嬢なんて、私からしたら雲の上過ぎて、全く見えないのです。本当は伯爵家のリリーと仲良くして貰っていることもすごい事なんだけどね。
緊張と不安のあまり、リリーのお家に着くまで、何度、馬車をお家に戻そうと思ったことか。それでも、実際にエレノア様とお話してみると、意外にもお話しやすくって優しい方でした。エレノア様は普段はスッとされているので、どこか冷たく見えてしまうのです。でも実際にお話しすると、よく笑うし楽しい方でした。
そうですよね。リリーとお友達なのですから、冷たい人のはずが無いです。
あ、いえ。エレノア様の人柄の話ではなく、お互いの認識していること、知っている情報の共有を行いましたが、やはり不可解な内容でした。
私はエレノア様から意地悪されたり、脅されたり、暴力を振るわれたことになっているようですが、ほとんど今日が初めてお話するレベルなのですけど? 公爵家と男爵家なんて、すっごい身分差なのに、そう気軽にお話なんて出来ないですよ。
そのような状態なのに、いつ、どこで、意地悪されるのでしょうか? 脅すって、そんなレベルの話ではなくって指示されたら、素直に従うだけですよ? 暴力って……公爵家のご令嬢が??
そして、私はエレノア様の婚約者、クワトロ王太子殿下と恋仲のようになっているようですが、たしかに恋文は頂きました。しかし、この場にはエレノア様とリリーしかいないので、正直に言ってしまいますが、これは迷惑以外の何物でもないのです。
私は、家で騎士をしてくれているコンラッドと結婚を約束しているのです。たしかに正式な婚約を交わしていなかったのは失敗でした。まさかこのような事態に巻き込まれるとは思いませんでしたよ。
コンが誤解してしまうと困るので今の状況を話していますが、私が二股かけているような噂が流れても、私が殿下と遊んでいるなどと噂が流れてもコンとの結婚が難しくなります。私はともかく、コンのお家に迷惑をかけてしまうのです。
ほんと、クワトロ殿下が何を考えていらっしゃるのか、私にはさっぱり分からないけど、巻き込まないで欲しいです。
それで、結局、お二人とお話した結果、私もエレノア様も全く身に覚えが無い噂が、どこからか流れていると言う事だけが分かりました。
この後は、引き続きリリーの方で調べてくれるというので心強いです。
やがて迎えた卒業式とパーティ。壇上に立ったクワトロ王太子殿下が「エレノアとの婚約破棄」「私を新しい婚約者にする」と宣言した瞬間、頭が真っ白になりました。
――ちょっと待ってください! 私はそんなこと望んでいませんし! とんでもなく嫌です。迷惑です!!
ホールが静まり返り、場内の全員が息を飲む中で、国王陛下やエドワード殿下が次々と事態を収束させてくれました。私の口からは一言も出せず、口だけ開けて圧倒されていましたが、場内の人々はお二人を尊敬の眼差しで見ています。
しかし、私は知っています。この収束を裏で計画し、準備して、国王陛下とエドワード殿下を動かしたのはリリーであると。
最終的にクワトロ殿下の側近たちの策略が暴かれ、殿下自身の行動も問題視される形で騒動は収まりました。
舞踏会の音楽が鳴り始めたとき、私はホールの端から、エドワード殿下とダンスをするリリーに密かに感謝の念を送りました。
リリー、ありがとう。あなたは、本当に素敵な友人です。
その夜、家で両親に報告したとき、父は深い安堵のため息をつきました。
「……よかった。本当によかった。」
母は私をぎゅっと抱きしめ、涙ぐみながら言いました。
「あなたが無事で、本当によかったわ。」
私は両親に心から感謝しました。そして決意を新たにしました。
これからは、私が幸せを掴む番です。
大好きなコンラッドと結婚し、平穏な日々を過ごしながら、家族や友人に恩返ししていく――それが私の目標です。
もうこんな大騒動には二度と巻き込まれたくありませんけどね!
後日、再び大騒動が我が家を襲いました。
クワトロ様の側近をしていた二人のお家が取り潰しとなり、その領地の一部を我がハイマント家が頂くことになりました。えぇ、元の領地よりも5倍以上大きいのですか?? え、男爵から子爵に陞爵するのですか!?
あぁ、お父様とお母様が頭を抱えています。
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