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バイト帰りに同じ大学の家出美少女を拾ったら、秘密の同居生活が始まった  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中


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第25話 私利私欲じゃないですよね?

 やっと始まった莉世の撮影は恙なく進んでいるように思えた。


 カメラマンが指示を飛ばし、莉世が従ってポーズを取り、何度かシャッターを切る音がスタジオに響く。

 莉世の表情からも一生懸命やっているのが伝わってくる。


 けれどやっぱり、どことなく硬く感じられた。

 俺でさえそう感じるのだから、他の人も同じ。


「うーん……莉世ちゃん、やっぱり厳しそうかしら」


 水無瀬さんの呟きが耳に入る。


「……そんなにダメですか?」

「ダメとまでは言わないわ。初めてだから緊張するのもわかってる。でもね、それは莉世ちゃんの事情で、極論他の人には関係ないの。良くも悪くも平等だから」

「なんとなく、言いたいことはわかります」

「アタシだって莉世ちゃんを責めたいわけじゃないの。やってみない? って聞いたのはこっちだから。だから、可能な限りいい方向に進むよう手は尽くす。……ときに、幸村くん。どうしてアタシが莉世ちゃんをモデルに誘ったかわかる?」


 絶えずに進む撮影を眺めながら、考える。


「……莉世が可愛いからですか?」

「大正解。もっと言えば顔がいいからよ。この世界、美男美女が大正義なの。他を疎かにしていい理由にはならないけど、顔がいいことが前提。その点、莉世ちゃんは申し分ない。加えて衣装に対しての理解がある。デザイナー兼モデルって売り出し方も出来るしね」

「でも、向き不向きは誰にでもあります」

「初めてで向き不向きがわかるなら苦労しないわ。アタシの見込みだと、ああいう子はアドバイス一つで化けるの。ああ、こういう感じになるかもって話は全体で共有してあるから、莉世ちゃんが非難されることはないわ」


 ……それは本当に良かったと思う。


 俺が一番心配していたのは莉世のメンタルだ。


 初めてのモデルの仕事で思うように結果が出ないのは仕方ない。

 でも、莉世は撮影に関わってくれた人に迷惑をかけたと自己嫌悪に陥ると思う。

 それで昔のことを思い出して……という悪循環が出来かねなかった。


 折角トラウマを克服しつつある莉世を、そんな目には合わせたくない。


「……アタシ、幸村くんに会って安心したわ。二年くらい前から莉世ちゃんのマネージャーをしてるけど、友達とかの話を聞いたことがなかったから」

「そんなに前からの付き合いだったんですか」

「うちのデザインコンテストに応募してくれたのがきっかけね。会ってみてびっくり。当時は現役JKよ? 制服姿の莉世ちゃん、めちゃくちゃ可愛かったんだから……!」


 水無瀬さんの熱の入りようから、かなり可愛かったんだろうと推察は出来る。

 俺が目にする機会はないと思うけど。


「でもね、その頃の莉世ちゃんは端的に言って顔が死んでいたの。デザインの話をするときはちょっと生気が戻るけど、青春を謳歌するJKとは似ても似つかなかったわ」

「俺は大学からの莉世しか知らないですけど、つい最近までは誰とも関わらずに一人でいるのが多かったですね」

「そうやって他人事みたいに話すの、もしかしなくてもキミの悪い癖?」

「……莉世と仲良くなったのはたまたまですよ。それを自慢げにひけらかそうとは思えません」

「たまたまであんなに懐いてるなら幸村くんは相当なじごろ(・・・)よ」


 今日会ったばかりの水無瀬さんも莉世が俺に懐いてると感じるのか。

 否定する材料が少ないのは認めよう。


「それはそれとして、テコ入れが必要なのも事実。何通りかは事前に考えていたけど……もっといい案が浮かんじゃったのよね」


 水無瀬さんがにんまりと、明らかに何かを企んでいるとわかる笑みを浮かべながら俺を見る。

 この流れで提案される内容には嫌な予感しかない。


 だとしても、水無瀬さんなりに莉世のことを考えての提案だとは思う。


「なんとなく嫌な予感がしますけど、聞きましょう」

「幸村くんもメイクアップして一緒に撮ってみない?」

「……そんなことだろうと思いました」

「妙案だと思わない? 莉世ちゃんは幸村くんにすごく懐いてるから、並べたら自然な表情が撮れそうだなあって。それにほら、幸村くんも色々整えたら映えそうだし」

「仮にそうだとしても莉世の隣は荷が重すぎません?」

「お似合いだと思うけど?」


 その「お似合い」は別の意味だと思うけど、あえて突っ込まない。


 それはそれとして、水無瀬さんの提案を真剣に考え――


「素人がいきなりモデルは無理があります」

「それを言ったら莉世ちゃんも素人よ」

「衣装とかもないですし」

「あるわよ。もちろん男性用ね」

「……俺がいる状態で撮影するのがデフォルトになったら後々困りません?」

「雰囲気を掴むために二人で撮ってもらって、それから莉世ちゃん単体で撮ろうかしら。それならいけそうな気がしてこない?」


 水無瀬さんは完全に俺を丸め込む気らしい。

 しかも多分、俺が押しに弱いのを直感的に悟って、莉世を引き合いに出してくるから質が悪い。


「あ、当然だけど莉世ちゃんとは別に幸村くんへお給金も出すわよ。無理を言って参加してもらうんだもの」


 貧乏学生の悲しい性が反応してしまう。

 それを見逃さなかった水無瀬さんがスマホを操作し、画面を俺に見せてくる。


「え」


 額はひと月分のバイト代と同程度。

 思わず声が漏れてしまい、口を押えるも聞かれてしまった後だった。


「これはあくまで先行投資。莉世ちゃんがモデルとして花開けば、このくらいを取り返すのは造作もない。でも、その前に潰れちゃったら意味ないでしょ? そのための投資と思ったら安いわ」

「…………」

「で、どうする? メイクの時間もあるから、あまり悠長に考える時間はないけど」


 にやり、としながら訊いてくる水無瀬さん。


 俺は頭の中で金額と対価を天秤にかける。


 ここでやることは撮影の手伝い。

 莉世の表情を引き出すことが俺の仕事。


 その代金は申し分ない。

 むしろ貰い過ぎなくらいだと思うけど、それだけ責任があると思えば納得できる。


 そして、俺は貧乏大学生である。

 莉世と同居してからは生活費が半分の負担になったため、多少の余裕が出てきているけど……お金はあればあるだけいい。

 いざという時の備えにもなるし、莉世がいつまでも家にいるわけじゃない。


 ……今のままだといつまでも居座りそうな気配がしているのは置いといて、だ。


「…………莉世が撮影の雰囲気を掴むまでなら、いいです」

「やった! そうと決まれば早速メイクよ! 楽しみね……!」

「念のため聞きますけど私利私欲じゃないですよね??」

「当たり前じゃない。莉世ちゃんが今後もモデルとして成功するためよ」

「ならいいんですけど、今回だけですからね?」

「わかってるわ。期待してるわよ、幸村くん。セットでも莉世ちゃんとイチャイチャしてきなさい」


 人聞きが悪い言い方だけは何とかならない?

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