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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち
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第70話

いつの間にか、病室のベッドの中で紬の足元のふとんの上を枕にして、寝てしまっていた。


 ハッと目が覚めると、紬はベッドにはいなかった。


腕時計を見ると、23時を過ぎていた。どっぷりと辺りは真っ暗になっていて、病院内は消灯時間になっていた。


 自動販売機のヴォンを言う音が聞こえてくる。病室の近くには、ラウンジがあった。3つのテーブルと10脚の椅子が置いてある。自動販売機は飲み物とお菓子、アイスクリームが売っていた。



 陸斗は紬がいないことに焦った。



 立ち上がると足元には紙袋が置いてあった。


 紬の着替えとありがたいことに遼平が着ていた服なのか、陸斗の分のシャツとズボンまで入っていた。

 

 さすがにインナーやパンツは新品のものが入っていた。

 ちょうどサイズも同じだった。


 紬の分だけじゃなくて、入院説明に記載がない、陸斗の分を考えてくれていた。


 袋の奥の方にはご祝儀袋にお見舞いと谷口 遼平と書かれたものまで入っていた。


 防犯的に見つからないようにと思ったのか、紙袋の奥の奥に入っている。



 ほろっと涙が出そうになった。



2人が寝ていたからか、それ以外に何も、メモや手紙もなく、必要なもの全てが入っていることに心が熱くなるものがあった。



 あんなに結婚は認めないと言っていたのに、入院して大変なことを理解してくれていることに感謝しかなかった。



 ベッドの上が紙袋の中身で乱雑してしまった。



 紬がカラカラと点滴を持ちながら歩いてきた。



「ちょっと、ベッドに荷物置いたら、私眠れないよぉ。」




「…あぁ。ごめん。今、よけるから。」




 慌てて、袋にまとめてガサガサと下に置いた。



紬は、ベッドに腰掛ける。



「…って、紬、立って歩けるの?どこ行ってたん?」




「うん。これ点滴2本目だから。トイレに行って来たんだよ。でも、まだフラフラはするから、また寝るよ。自販機で喉乾いたから、アロエジュース買ってきた。」



 テーブルに缶タイプのアロエジュースを置いて、またふとんの中に足を入れた。パチンと缶タブを開けた。


 顔色がだいぶ良くなってるようだ。


 陸斗は調子が良くなって安心した。


 遼平のありがたさと安堵感で頬が涙を伝う。



「あ、ごめんね。陸斗の分の飲み物買ってなかった。何、飲みたい? ……陸斗、何、泣いているの?」


「……コーラ……。」


 精神的と肉体的な疲れが出たんだろう。浄化された気がする。手で涙を拭う。



「は?! コーラを買ってこないから泣いているの? わかった、今買ってくるから。」

 


 立ち上がって歩こうとする腕をパシッと掴んで、紬の進路を止めた。



「違うよ。俺、自分で買ってこれるから、座ってて…。」


 ぺたんとまた、ベッドに座る。カツカツを靴を鳴らしてラウンジに飲み物を買いに行く陸斗。


 ワイシャツとリクルートズボンを履いてる格好を見て、何となく、申し訳ないなっと瞬時に思った。


 仕事じゃないのに、正装で実家に帰ってきて、結局、結婚を反対されたまま、何も解決してないのに自分が具合悪くしている。情けないと感じてしまう。



 行くのを拒まれたが、点滴スタンドを静かに押しながら、後ろから着いて行った。



ペットボトルのコーラのボタンを押して、ガコンと地味に音が響いた。近くにあった椅子に座って、ポケットから電子タバコを無意識に取ろうしたが、紬に目撃された。



「あ。」


後ろから、着いてきていることに気づかずに、さっと後ろに隠した。


「え?! 今、何隠したの?」



「え、なんでもないよ。」


 さっさと、陸斗の後ろに近づいた。


 見たことがある手のひらサイズの黒く四角いものと、白い細長いものがささっている。


 父の遼平も同じもの持っていた気がすると思い出す。


「それ、知ってる。お父さんも使ってた気がする…。陸斗も同じ?」



「な、何のこと?」



「電子タバコでしょう。」



後ろを向いて、ペットボトルのキャップを開けた。吸おうとしたタバコはポケットにしまう。冷や汗が止まらない。



「……。」



 黙って切り抜けようとした。



「私、陸斗がそれ吸っているの知っていたよ。」



「嘘。」



「本当…。」



「ふーん。」


 

 何もなかったように病室にもどる。

 紬は話が終わってないのに行く姿にイラっとした。


 カラカラと点滴スタンドを持っていく。

 ベッドに腰掛けた。

 陸斗はベッドの隣にある椅子に座った。



「これ、紬のお父さん置いてったのね。着替え、入っているから。あと、お見舞いもらってたみたいだから、入院費用払うときに使ってね。紬のバックの中入れておくよ。俺、明日の夕方東京戻らないと、大学の講義受けられなくなるし、夜のバイト休めないからさ。えっと…あとは。」



「お父さんたち来てたの?陸斗は会って話したの?何か言われた?」



紬は、紙袋の中身を確認した。



「あー・・・。俺も寝てたから気づかなくて足元に置いてあったのよ。」



「あれ、なんかお父さんの服も入ってるんだけど…。」


「あ、多分、それは俺にってことかも。」


「あ、そう言うことか。え、陸斗、このサイズ大丈夫?確かMサイズだと思うけど、ピッチリしない?」


 シャツを広げてみせた。案外ちょうどいい感じであった。


「なんだ。大丈夫そうだね。」



「うん。何か、頼んでないのに入ってたからちょっとありがたいかなって思って…。」



「お父さん、そんな気がつく人じゃないと思うけど、陸斗には優しいんだね。まぁ、お母さんのアドバイスかなぁ。というか、さっきのタバコの話スルーしたでしょう。病院内は禁煙だよ。まぁ、電子タバコはニコチン少ないとは言うけど…。」



「吸ってないし、勘違いでしょう。ほら、飴だから。」



 反対側に入ってたポケットにいつ買ったかわからない棒付き飴をマジックのように取り出した。



「う、嘘だ。さっき黒いのと白いスティックの見えたもん。しかも、何それ。絶対ごまかすために持っているんでしょう。」


 袋に巻かれた飴を早速舐め始めた。

 舐めながら…。


「…な、ん…のこと?」


 棒付き飴の棒さえもタバコに見えてくるのは視力が落ちたのか。吸っているようにスパースパーと2本指で入れたり出したりして、口を尖らせている。


「明らかに常習犯だよね…。」



「その通りです。博士、ご立派ですね。大正解。」



「えー。ここで暴露?」



「禁煙するよ。明日から。」



「それ、絶対しないやつ…。」



「目の前で吸わないから良いでしょう。紬の前で吸ったことないじゃん。」



「まぁ、確かに…。うわ、調子よかったのに急に出てくる。」


 しばらく、何ともなかった体が口の中からよだれが出てくると思ったら、ムカムカが出て、気持ち悪くなってきた。

 

 ティッシュで口を押さえた。


陸斗は、ぐたーと両腕をベットに伸ばして、顔を横にした。


体を起こしてティッシュを何度も口に当てた。

その様子を顔の下のほうから、のぞいていた。


口には飴の棒をくわえたまま、


「やきもちかなぁ。まめっこめ。俺と紬が話すのがそんなにうらやましいのか。そうかそうか。」



「は?何言ってるの?」



「だから、今、俺と紬話してたでしょう。お腹の子が存在をアピールして、つわり症状出てるんじゃないかと思って。僕はここだよーって。」



「それは違うんじゃないの? ホルモンが影響するって言うけど…。」



「まぁ、そんな想像しても面白いじゃん。足で蹴ったりしてたら尚更わかるよね。男の子かなぁ…。」


 ベッドの上で仰向けになって想像する。紬は足の上に乗られて重かった。


「ちょっとぉー、乗らないでー。」


「あぁ、ごめんごめん。」


「そろそろ、服着替えてきたら?ワイシャツ後ろがしわしわだよ。」


「あ、そっか。」


 立ち上がって服を脱ごうとする。


「目の前で脱がないでー、トイレで着替えてきてよ。」


「そんな俺と紬の仲でしょう。今更、知ってるくせに~こっち見ないでよ。」


「良いから!」



 バシッと紙袋に入っていたシャツを陸斗の体に投げた。



「もう、乱暴だなぁ。」


 ブツブツと言いながら、陸斗は半分脱いだワイシャツのまま、病室外のトイレに行こうとしたら、夜勤で回っていた看護師に見つかり、悲鳴をあげた。懐中電灯を照らされた。


「何しているんですか!?」



「あ、すいません!見ないでください。今、着替えます~。」


 スタスタとトイレに駆け込んだ。


 その様子を病室から聞いていた紬はため息をついた。



「ばか……。」



 どさっとベッドの横になってふとんをかぶった。そう呟きつつも、1人じゃないことにほんのちょっとうれしかった。気持ち悪さも少し半減した。





 

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