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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第63話

ーーー陸斗が高校を卒業してから大学に通い、3年の月日が過ぎ去っていった。




 紬は、陸斗と同じ東京の大学に入ろうに必死に受験勉強をして、どうにか、現役合格にたどり着いた。




 ヤキモキしながらの遠距離恋愛を続けて、お互いに毎日気にしながら、やり過ごしてきた。




 近くにいるより、メッセージを交換するのがまめになった。



 

 気になったらすぐに電話した。

 それが、嫌にはならなかった。




 離れている時ほど、近くにいるような感覚になった。



 

 



 紬の卒業式当日、


『おはよう。今日、卒業式だよね。いってらっしゃい。』


 午前6時、おはようスタンプとともに陸斗はメッセージを送った。



 紬はちょうど制服に袖を通してたところだった。


「あ。来てた。珍しいな。朝早い。」


 朝寝坊をすることが少なくなった紬。最近は毎日同じ時間に起きていた。


 紬は、がんばりますスタンプを一つ送った。




「そ、それだけ?」


 ラインを受け取った陸斗は、がっかりしつつも苦笑した。

 久しぶりに寝た実家のベッドはふかふかしていた。引っ越す前より綺麗になっている。


 頭をかいて、リビングに向かう。




「おはよう。」



「おはよう。あれ、陸斗、今日、何かあるの?朝早いね。」


「え、えっと、紬の卒業式だから…。」


「あーーー。そういうこと。急に仙台帰ってくる言うから、何事かと思ったら、紬ちゃんのためなのね。ほーへー。大学休んでまで来ちゃうんだ?」



「いいだろ、別に。」


冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、グビグビ飲み始めた。


「そういや、父さんこそ、いつなったら、こっち来るのよ。東京で働きたい言ってたじゃん。」



「あー、だってさ。悠灯がまだ中学生じゃない。まぁ、卒業するけど、高校生で1人暮らしはまだ早いし、地元にいたいって言うだろうし、悠灯が大学入る時にでも引っ越すかなとは思ってたけど。むしろ、母さんがこっち来てくれるといいんだけどなぁ。無理でしょう?」



「なんか、仕事が立て込んでて、悠灯の卒業式だけしか帰って来れない言ってたよ。」



「だよなぁ。忙しいっては聞いてたのよ。そういやさ、陸斗も今のルームシェアしている人、この3月に大学卒業するって言ってたよね。1人になるから家賃払うの大変になるだろう?どうするのよ?」


「あー、そうそう。ルームシェアしてる大谷先輩が来週から引っ越すって言っててさ。部屋が空くから、紬に隣に空くこと教えようかなと思ってて…まだ住むとこ決まってないって言ってたから。今日、話そうと思ってて…別にいいよね?一緒に住むの。部屋別々だし。」



軽々しくさらりと話す陸斗。



「あ、え?そうなの?陸斗、それって、ルームシェアって言うより同棲になるんじゃないの?大丈夫?紬ちゃんのご両親に許可得ないとダメじゃないの?」


「へ!?同棲になるの? 家賃安くなるとか部屋別々だから全然気にしてなかった。そっか、同棲…。」

 


 いろんな想像を掻き立てる。



「変な想像してる・・・?まぁ、紬ちゃんの家のご両親がいいなら、俺らは別に断る理由もないけど。それでいいならね。」





ーーー卒業式を終えて、陸斗は車で学校の駐車場に向かった。



 紬には仙台に帰ってきてることは内緒にしていた。




スマホに学校の写真とともに卒業おめでとうのメッセージを送った。


教室からそれぞれに帰宅するとなった時、昇降口は卒業生でいっぱいになった。


 保護者や先生方も帰るのが惜しいくらいのようだった。



 混雑している中、1人親の保護者のようにカジュアルジャケットのポケットに手を入れて、昇降口前で待っていた。


 陸斗に気づいた紬のスーツを着た両親が近寄った。



「あれ、陸斗くん。帰ってきてたのかい?」



「あ、どうも、お久しぶりです。昨日から実家の方に帰ってました。」



「そうだったんだね。何だか、見ない間に大人っぽくなったね。学校の制服じゃないからかな?大学はどう?」



「そうですか? ありがとうございます。まあ、ぼちぼちみたいなところですかね。あ、この後、紬をお借りしてもいいですか? 夕方までには送りますので。」



「それは構わないよ。紬も喜ぶだろうから。」



「遼平…このあと…。」


 遼平はくるみの口を塞いだ。


 本当は家族で一緒にお昼ご飯を食べようと思っていたが、わざわざ東京から帰ってきたのだから、断るのは申し訳ないと思った遼平は、陸斗に紬を譲った。




「いいんだ。それで大丈夫。夕飯は、一緒になるだろうから。」


 小声で話す。




 高校3年生になり、もうすぐ大学生。だんだんと親元から気持ちが離れてきて寂しくなってくる両親だった。



混雑している昇降口から美嘉と紬が出てきた。




「あれ、ねえ、紬。あれって陸斗先輩じゃない?来てるの知ってたの?」



「え、嘘。知らなかった。ラインの写真って今撮影されたものだったんだ。」




 スマホを再確認する。写真は学校の校舎を撮っていた。



 陸斗は2人に手を振った。




「陸斗先輩!一瞬、誰かと思いましたよ。誰かのお父さん?みたいな雰囲気で。」



「え、老けたってこと?ひどいな。」



「そう言うわけじゃないですけど、その私服が大人っぽいってことですよ、ねぇ、紬!」




「うん。誰かと思った。洸さんにそっくり。」




「あ、確かに。服のセンスも一緒かも。さすがは従兄弟同士。」



「なるほど。そう言われてみれば、洸くんに似てるなぁ。」




 横にいた遼平も腕を組んで、納得した。




「お父さん、そこにいたの?」



「いや、さっきからずっとここにいたよ。陸斗くんのことしか見えてないのか。」



 顔を赤める紬。陸斗は嬉しそうに笑っていた。




「そうですね!」



 他人行儀に答えた。




「んじゃ私たちは先に帰っているわよ。先に持って帰る荷物はある?」



「え?そうなの?」

 



「俺の車、乗って。お父さんとお母さんには言ってたから、せっかくだからどこか行こう?送っていくから。」




「えー、紬、いいなぁ。陸斗先輩の迎えで、私も来ないかなぁ。」



 美嘉はスマホをポチポチといじり始めた。


「あ、洸くんなら、今日バイトお休みだからフリーだと思うよ。」



 遼平が思わず声をかける。美嘉と洸が付き合っていることはだいぶ前から知っていた。


 バイトの休憩中に、いろいろ洸が美嘉のことを話してくるのを知っていた。



「本当ですか?!電話してみようっと。ありがとうございます。」



「美嘉!帰るわよ~。」


 美嘉の両親が電話をしようとする美嘉に近づいた。美嘉は紬が羨ましくなって、洸にすぐに来てもらうように頼んだ。


 両親もそんな美嘉を見て呆れていた。




 紬は父に荷物を預けると陸斗の車に乗った。



「陸斗の隣に乗るのは久しぶりだね。」



「あー、確かに。俺も車、運転するのは年末年始以来かな。ほぼ、向こうでは電車や地下鉄で済ますから。さてさて。卒業したばかりの、お嬢様はどこにお連れしましょうかね。」



 車のエンジンをかけた。



「うーんと、とりあえず、お腹空きました!」


「なんでもいいの?」


「洋食のパスタかな?」


「はい、はい。」



 何気ない会話も遠距離だと伝わらない呼吸や視線、温かさ。


それだけで気持ちが穏やかになった。



 サプライズで来てくれていたこともすごく嬉しかった。


電話やラインではそんな話を、一言も話してなかった。



「なんで、来るっていうこと教えてくれなかったの?」



「びっくりさせたかったから!」



「うん。そしたら、大成功だね。びっくりしたよ!」



「うん。なら良かった。そういや、来月から東京の大学通うんだよね。住むところってまだ決まってない?」




交差点で赤信号になった。

目の前で歩行者が行き交った。



「うん、そうだね。まだ決まってないんだけど、お父さんとお母さんが大学の学生寮がいいんじゃないかって勧められてるの。ただ、大学まで少し距離があって…。」



「紬が行く大学は、K大学でしょう。俺はW大学でだから、さほど、場所は遠くないと思うんだけど、もし良ければ、俺の住んでるところに来ないかなぁと思って…来週、シェアハウスしてる先輩が引っ越すからちょうど一部屋空くのよ。1人で家賃払うよりは安くなるから…。」



「……え、それって、同棲するってこと?」



 顔を真っ赤にして、話す。

 陸斗のハンドルを握る手が震えた。


「あー。うん?そんな感じなんだけど、無理なら別に良いよ…。ただ、部屋が空くからと思って聞いただけだから。」



「同棲…楽しそうだなあとは思うけど、お父さんとお母さんに相談しないといけないから、ハッキリとは今決められないかな。」



「だよね。そうだとは思った。昨日、寝る前にスマホで調べてたんだけど、大学生同士の同棲ってしてる人、実際にいるみたいだけど、やっぱりどちらの両親にもきちんと挨拶してからとか結婚を前提にしないと厳しいとか書いてあったんだよね。軽いノリで一緒に住もうよって言う感じではいかないと思うのは重々承知の上なんだけどさぁ…。」



 後ろ頭をぽりぽりとかいた。

 車は仙台郊外へと走り出す。


 東北最大級のショッピングモールへと車を進めた。仙台市内からだと車で大体30分前後で到着する。



「ハードル高いかなぁ? 俺は結構本気なんだけどさ。紬はどう思う?」


 車を走らせていると窓の外を眺めながら恥ずかしくなった。一緒に暮らすことを想像するとたまらなくなった。




「え……だって、一緒に住むんでしょう? 願ったり叶ったりだよぉ。」



 両手の指先を合わせて、顔を赤くした。凄く嬉しそうだった。



 運転中だったが、今すぐにでもハグしたい気持ちを抑えた。


 ふわっと額から頬に流れる数本の髪の毛が口もとに入るのを見えた。

 その髪を駐車場に着くまで覚えていた。

 自分が整えるんだと念じた。


 1分、1秒、過ごす時を大事にしたい。一緒に住むとわかっていても、一緒にいる空間は片時も離したくない。

 

 本当は、間接的に紬と洸がいる空間なんて考えたくなかった。


 

 車をドアを開けながら、白い線に沿って丁寧に停めた。



「紬、髪、食べそうになっている。」


 頬に手を添えて、ふわっと流れた髪を流した。


「あ、ありがとう。」


 何かされるんではないかと目をぎゅっとつぶった。ドキッとした。



「お腹空いてるから、食べに行こう?」



 陸斗は、手をつけたら、歯止めがきかなくなりそうな自分を必死でおさえた。

 


 ちょっとくらいの味見が全部食べてしまいそうな勢いになりそうで、これは無理と判断して、気持ちをきりかえた。



 紬はなんだ、違うのかと残念な感じになったが、首を振って落ち着かせて、車から出た。



 仙台に帰ってきてたかが3時間、されど3時間の2人で過ごす貴重な時間を大事に過ごしたい。



 これからの嫌というくらいたくさんの2人で過ごす時間を噛み締める前の幸せな序章に過ぎなかった。


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