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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第61話

「お疲れ様でした。」


 

 お店の出入り口付近でスタッフ全員集められた。帰りの挨拶だった。



「今日もみんなクリスマスに仕事してくれてありがとうね。これ、お土産。たくさん作っておいたものだから家で食べて。メリークリスマス!」


 遼平は仕事終わりにバイトのみんなに作っておいたローストチキンを渡した。お持ち帰り用に小さなボックスにおしゃれに入れてあった。



「ありがとうございます。」



「頑張った甲斐がありました。彼女と食べます!!」



「嬉しいです。お腹も空いていたので、これを夕飯にします!」



アルバイトに来ている大学生と専門学生の3人は、喜んで受け取っていた。



 お店の片付けも終え、それぞれに帰宅となった。


 洸もしっかりとローストチキンの袋を持って、バイクにエンジンをつけようとした。


 裏口から出た紬は洸に話しかける。




「さっきは…ありがとうございました。」



「あ、ああ。別に。大したことしてないよ。」


 ヘルメットを頭にかぶせて、バイクに跨った。



 紬は、黙って頷いて、手を振った。



「んじゃ。」




 バイクの音が響き渡る。想像していたより普通に会話できていたことに紬は安心した。


 洸は、心中おだやかではなかったことを紬は知らない。






****





 お風呂に入って、パジャマに着替え終わった後、部屋でくつろいでいると、紬のスマホに着信が入った。


 美嘉からの電話だった。



「美嘉、どうしたの?」



『紬? あのね。ちょっと聞きたいことがあったんだけど、今、電話で話してもいい?』



「うん。良いよ。大丈夫。」



『今日、クリスマスディナーでラグドールのお店行ったじゃない?突然だったから洸も驚いてたんだ。サプライズな感じでね。』




「あぁ、それはびっくりしたよ。私も美嘉が来てると思わなくて…。ありがとうね。来てくれて嬉しかった。」




 紬は嬉しそうに話を聞いていた。




『うん。それは良かったよ。…あのね、紬、聞いちゃうんだけど、洸のこと、もしかして、好きじゃないのかなって今日一緒に仕事してるの見てて思ってしまったんだけど、どう?』




 テンションを少し低めに問いかける。紬は生唾を飲み込んだ。



少し間ができたあと。



「…美嘉、推測しすぎ~。私、陸斗先輩と付き合ってるじゃない。なんで,洸さんのこと…。」





何かを読まれている気がした。




『付き合っている人がいるからって好きな人は別でしょう。』




「そういうのはドラマとか芸能人とかじゃなくて?私は、全然そんなこと…。」




 嘘をつくのが下手だったのかもしれない。美嘉は声のトーンで何となく察しした感じはある。



『本当のこと言ってくれないと私、紬と友達関係続けていく自信ないよ…。疑ったまま過ごすって辛い。だって、洸は陸斗先輩と従兄弟同士だし、似てるところあるもの。もちろん、違うところもあるけど、同じような人好きになってもおかしくはないよ。現に私は陸斗先輩を先に好きになったわけだし…。』



「…うん。わかった。」

 


 フーッと深呼吸をした。



『紬の本当の気持ち教えて。』



「私、美嘉のこと凄い大事な友達だって思ってる。思っているからこそ、傷つけたくないし、友達関係を終わらせたくないっていうのも思ってるよ。本当のこと言って、傷つけてしまったらごめんなさい。先に謝っておくね。」



『うん。』



「私、今は、陸斗先輩のことが好きだよ。それは本当。でも、ちょっと前まで、陸斗先輩と別れちゃうかくらいまで、洸さんのことを好きになったこともある。でも、自分の中ではそれは間違っていたことに気づいたの。きっとそれは、美嘉と洸さんが付き合うって言われたからそういう気持ちが生まれたのかもしれない。」




『私と洸が付き合ってから?なんで?』



「だって、美嘉が洸さんの話しかしなくなったし、お互いに話す回数減っちゃったから……本当は私は美嘉に振り向いて欲しかったのかもしれなくて、私はここにいるよって。」



『そ、それは……ごめんなさい。』


 自分自身を振り返る美嘉。確かに学校にいても洸の話しかしていない。お互いの共通する話題がそれしか無かったというのもある。


 美嘉にも問題はあったのかもしれない。


 あれいいよ、これいいよと自慢されると自然と買いにいきたくなるのと同じで、美嘉の言葉に自然と誘導されていたのかもしれないと紬は感じた。




「でも、違うってことに気づいて、陸斗先輩に謝って、より戻したから、今は全然、洸さんはバイト仲間というか、友達に戻ったよ。多少、お互いやりにくいところはあるかもしれないけどね。洸さんはどう思っているかは分からないけどさ。美嘉のこと真剣に向き合うって言ってたよ。良かったね。」



『本当? 自信持って良いのかな。』



「うん。」




 美嘉は胸を撫で下ろした。紬の本心が聞けて良かったと思った。




『洸のもう1人の彼女って思っていたけど、私、逆に紬で良かったかも。全然どこの馬の骨が分からない人が相手だとどう対応して良いか分からないし、紬は勘違いってことも分かったし。』



「あ、がっかりさせちゃうかもだけど、洸さんの元彼女って結婚まで考えた人だったって陸斗先輩言ってたよ。」



『えー。そうなの? 今度会った時聞いてみようかな。なんで別れたか気になるもんね。』


「…あ、ごめん。着信入った。んじゃ、また。」



『うん。こっちこそ、ごめんね。話、聞いてくれてありがとう。また連絡するね。』



 美嘉は通話終了ボタンを押す。

 

 紬はスマホの着信応答ボタンをスワイプした。


「はい。もしもし。ごめんなさい、今電話中だった。」



『いや、ごめん。逆に電話中に、もう大丈夫なの?』



「うん、何か用事あった?」


 電話の相手は陸斗だった。


『あー。いやぁ、その気になって…洸とのことどうだったかなと。』



 何事かと思っていた紬ははにかんだ。



「なんだ。そんなに心配だった?」



『うん。結構。』



「大丈夫だったよ。まぁ,アクシデントはあったけど…。」



『え?何それ。アクシデントって何かさ

れたの?』



「あ、全然、包帯巻かれて…。ってあ、まずけがして…。」



『え?何?包帯?なんで?そんなプレイ?どういうこと?けが?ムチ?』


 陸斗の脳内は変な方向へと想像を張り巡らせる。


「違うってば!バイト中に洗い物してたら、私が指切って、消毒とか包帯巻いてくれたの!なんてSMプレイみたいなことしなきゃいけないのよ!想像しすぎだわ。」



『え、紬、SMプレイって知ってるの?』



「ちょっと、フォーカスしすぎでしょう。なんでその話に持っていくのよ!」



『冗談、冗談。なんだ、けがしたの?大丈夫?』



「うん。割れたコップに触っちゃって、切れたから結構出血しちゃって、洗い物は避けないとって感じになってるの。でも大丈夫、処置してもらったから。」



『あー、洸も結構けがしやすいやつだから、慣れてると思うよ。ほんとう、小学生のころしょっちゅうけがしてさ、口の下のところ、側転とかして6針くらいぬったりしてるから。やらかすのよね。』



「私はそこまでじゃないよ!!」



『分かってるよ。洸はけがを何回もしてるから処置の仕方も慣れてるってこと。俺も洸にやってもらったことあるからね。側溝に足入れてけがしてさ。すぐ、救急箱でさっさとやってくれたことあったな。ああいうの得意なら医者とか看護師でもいいのにね。頭脳明細で何でもできるから、むかつくくらい、うらやましいよ。俺はそこまでじゃないからさ。』


 紬は陸斗の話を聞いて寂しくなった。



「そんなことはないよ。陸斗は陸斗なりによくやってるから自信持って!」


 励ますつもりだった。


『うん。励まして欲しくて言ったわけじゃないけど、ありがとう。まあ、何とかなってたみたいで良かった。』


「陸斗、何とかなってたわけじゃなくて、美嘉にバレてたみたい。」



『え? そうなの?森本さんなんて?』




「本当のこと言ってくれないと友達続けられないって言われたから、正直に言ったら納得してくれたかな。」


 

『ふーん。逆に言って友達やめてほしいっていう話にはならなかったの?』



「美嘉も陸斗のこと好きになったことあったから、おあいこみたいな雰囲気のこと言ってたよ。」



『あー、そんな時もあったね。そういや…。まぁ、結果オーライってこと?』



「うん。良かった。ダメになるかと思って、すごいドキドキした。せっかく仲良くなれた女子なのに…また1人になると思った。」



 鼻をすすって涙を拭った。



『泣いてるの?』



「泣いてないもん。」



『んじゃ、鼻風邪?』



「うん、そんなとこ。」



『急に出てくる鼻水なんだね。』



「そういうときもあるでしょう。」



『無くもないかな。……良い友達を持ったね、紬。そして、良い彼氏?』



「はいはい。そうかもしれない。」




『何か、冷たいね…。』




「そんなことないよ。しっかり聞いてるし、話しているでしょう。」




『そうだけど…。』





「んじゃ、そろそろ寝るね。おやすみなさい。」



紬はさっぱりと電話を終わらせようとした。



『#我爱你__ウォアイニー__#』




「え、何か言った?」




『中国語で言ってみた。あとで調べてみて。んじゃ、おやすみ~。』



 紬は何を言っていたか聞き取れず、さらりと交わしてそのまま眠りについた。




 言ってやったぞと思った陸斗だが、全然思いは伝わっていなかった。


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