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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第51話

朝起きて、ベッドからずり落ちた。


いつもはうつ伏せになっていることが多い。


 夢の内容が濃かったかもしれない。


 バイト中の自分がいて、紬がいて、洸がいて、美嘉がいて、輝久が出て、頭の中は忙しかった。

 今は、勉強のことなんてこれっぽっちも考えられない。



受験まであと3ヶ月もない。



 ふとんをよけて起き上がった。


 クローゼットからハンガーにかけていたワイシャツと制服を取り出した。


 1週間前から学校に紬とバスで通い始めて、疲れが出始めているのかもしれない。


 

 本当はバス停で待っていたかったが、紬と洸の様子が気になって、紬を送りながら、帰りにお家に寄ることが日課になっていた。



 それでも、紬は前ほど自分の対する熱が冷めている様子が見受けられた。



 体が全体映る鏡の前に立って、自分の立ち姿を見て、ネクタイを締めた。



(俺と洸の違いってなんだ!? 背の高さは少しあいつは高いけど、顔だって少しだけ鼻の高さが違うくらい。ん?髪型かな。ワックスでもつけて逆立てたら、興味出るかな。ピアス穴開けてたけど、透明なものしかつけてないし…学校で校則違反ですぐ外されるしなぁ。洸は左側に穴大きめにリングのピアスつけてたかな。)


 自分の顔や背格好を見て、洸との違いを比べたが、全然見当たらない。


 分かっている。


 見た目のことじゃない。


 一緒にいての心地良さとか,気持ちの問題だって分かっている。


 でもそうじゃない理由探したかった。


 どうして、気持ちは、簡単に変わってしまうんだろう。

 

 一緒にいるだけでもない。


 ああ、あれいいなぁって感じるたった一つの気持ちだけで、行動にうつることもある。


 あんなに大人ぶって紬に好きな人できても待っていると言っていたけど、洸に関しては従兄ということもあり、何故か待ってられない。


 阻止したい。


 近寄ってほしくないという気持ちが芽生えた。


 なんて自分は女々しいんだろう。


 独占欲の塊。


 こんな自分。昔と変わらない。


 あいつと話すな。

 あいつに近づくな。

 

 ただの友達だと一緒にいただけでそう言って前の彼女に指示して、嫌われた。


 一緒にいたいだけなのに。


 他の誰にも渡したくないって思っただけ。


 恋が愛に変わりかけていたはずが、また戻ってしまう。


 胸が痛すぎる。


 こんな想いするならば、もうやめてしまいたいくらいだ。


 好きの気持ちはこんなにも苦しいものなのかとため息が止まらない。





「お兄! ちょっと、いつまでそこにいるのよ。私も顔洗ったりするからよけて!!」


 洗面所に自分の顔と睨めっこして、髪にワックスを思いっきり塗りたくっていつも以上に逆立てた。


「は? なに、今から誰かにメンチきるの?」


「え?」


「何か、不良少年みたいになってるよ。縦にあげないで、横に流しなよ。それか無造作ヘアにするとか。紬さんびっくりするよ?」


「こっちに流すの?」


「だから、トップにボリューム上げて、ひし形にするんだって! あと前髪は流す。お兄の場合はヤンキーと一緒よ。自然にしないと!」


「マジか。悠灯、めっちゃ詳しいね。」


「いや、ネットにかっこいい髪型で検索すればワックスの付け方くらい載ってるわ。調べてからやりなさいよ。雄助と同じだわ。」



「え、雄助って誰?」



「あ、何でもなーーい。そろそろ、行かなくちゃ、行ってきます!」


 悠灯は慌てて、くしでとかして、あっという間にいなくなった。


「彼氏の名前か? 悠灯にもいるんだなぁ。中学生なのに、ませてんなぁ。よし!これでいいだろう。」


「あ、陸斗ー。今日、俺、ちょっと外で飲んでくるから、鍵開いてないから忘れず持っててねー。夕飯は作っておくから。」


 父のさとしが台所から声をかける。


「あー、今日、金曜だから?」


「そうそう。同級生に誘われてるんの。」


「母さんは?」


「帰ってくるのは明日だから。悠灯はデートだから少し遅くなるんだって。いいねぇ。中学生からデートかぁ。」


「悠灯もデートすんのね。」



「陸斗は最近、デートしてないんじゃないの?紬ちゃん悲しむぞ。」


「デートしてるよ。俺のことは、放っておいてー。行ってきます。」


 ヘルメットを持って、出ようとする。


「バイクで行くのいいけど、本当に気をつけるんだぞ。」


「はいはい。2人乗りはしませんよ!!」


 スニーカーの靴紐を結んで、外に出た。フルフェイスヘルメットをかぶって、エンジンをかける。


 バイクにまたがり、紬の家に向かった。


 




***


「おはようございます。」


バイクをお店の駐車場にとめて、玄関掃除をしていた父の遼平に声をかけた。


「あ、おはよう。陸斗くん。いつもありがとうね。紬、陸斗くんが迎えきてくれるようになって毎日早く起きるようになったよ。前までは気まぐれだったんだけど、生活習慣が身について助かるよ。」


「それは何よりです!」


「お父さん! 余計なこと言わないで。」


「別に、早く起きることはいいじゃないか。」


「恥ずかしいから!」


 ドアを開けて、紬は2人の話を聞いてたようだ。


「ごめんね、陸斗。お父さんの話は半分聞いてね。行ってきます!」


 あまり父と会話したくないのか、そそくさと立ち去った。遼平は少し寂しそうにしていた。



「行ってらっしゃい。」


 紬は陸斗の腕をつかんで、進む。


「いいの? お父さん見てるよ。」


「いいよ。別に、もうそれは気にしてないから。」


「ああ、そうなんだ。」


 朝が苦手な紬は少々ごきげんななめのようだ。ため息をつきつつ、バス停のベンチに座る。


「あ、紬、今日、何か用事ある?」


「え、特になかったと思うけど。」


「ウチこない? 前言ってた観たいって言ってたDVD借りられたからどうかなと思って。」


「……髪…。いつもと違う。」


「話聞いてる? あ、これね、ちょっとワックスつけてみてさ。でもさっきヘルメットかぶったから少し崩れたかも。」


「うん、かなりうねってるよ。ちょっとかがんで!」


 紬は波うっている陸斗の髪を整えた。


「ごめん、さんきゅ。うかつだった。ヘルメットかぶること忘れてたわ。」


「なんで、急に?別にワックスつけなくても…。」


「別に、ちょっと試してみたかっただけだよ。」


「ふーん。あれ、何だっけ。」


「ああ、だから,映画見ないかなって思って。何か父さん飲んでくるって言うし、妹は帰ってくるけど、部屋別だしいいかなと思って…どう?」


「…うん。まぁ、考えとく。」


 何となく、素っ気ない感じだ。

 ご無沙汰でもあるし、誘っておこうかなと思っていたが、何だかしっくりこない様子。もしや、機嫌も悪いし、女の子の日かと想像をかきたてる。

 一緒にいる時間が徐々に長くなるとドキッとすることも減ってくる。


「無理にとは言わないけどさ。」


「無理じゃないけど…。」


「何か、最近、やけに冷たいよね。」


「そんなことないよ。気のせいだよ。私はいつも通り。」


「俺のこと見てる?」


 話すときは違うところ見て言うのが気になった。紬が何を考えているのかわからなくなってきてる。


「え、見てるよ! ほら、近いじゃない?」


 目を指を使ってぐわっと開けた。

 白目になっている。


「逆に見えづらくなっているよ。……、ま、今日じゃない方がいいのかな。」


「え!ごめん。行くよ、行く。映画でしょう。見たい見たい。何でも見るよ!」


 急に舵を切ったように返事をした。真意が見えない。


「バイク置いて行くから帰ってきてからになるね。あ、紬の家じゃだめかな。行ったり来たりになるし…。」



「あー、部屋散らかっているけど、それでも良いなら…。そしたら DVD取りに帰らないといけないんじゃない?」


「俺が学校終わりにいったん家帰ってからバスでこっち来るから!」


「うん。分かった。」


 ちょうど話を終えた頃、バスが到着した。後ろから走る足音を聞こえた。


「今、乗りまーす!」


 輝久が珍しく乗ってきた。


「あ、おはよ。」


「よ!」


 紬と陸斗が声をかける。


「あ、どーも。」

 

 何となく気まずそうな顔でこちらを見る。


 バスのドアが閉まった。


「陸斗先輩、引っ越しでもしたんすか?」


「そうそう、紬の家にね。」


「え!? マジっすか。」


(陸斗…。変なこと言わないで。)


 怒った様子で紬は小声でいう。


「んなわけないだろ。バイクでうちからこっちに来て一緒に登校だって!」


「なんだ、びっくりした。ですよね、そんなわけないなって思いましたわ。陸斗先輩も大変っすね。」


「だろぉ~、手のかかるお姫様でなぁ。」


「え、誰のこと言ってる?」


 冗談も言えるような仲になったようだった。



「そういや、輝久~、康範の妹と付き合っているってほんと?」


 紬はその話を聞いて驚いた。寝耳に水だった。


「うそ、そうなの?」


「あー、何かそうらしいですね。知らなかったんですけど…。そうなっちゃってました。」


「え、妹さんって中学生だよね。年下…。」


「どんな繋がりよ。」


「隆介の友達繋がりで何人かのメンバーで遊びに行って、そういう流れになりました。まぁ、まだ始まったばかりなんで…。お二人のお邪魔はしませんよ。」


 陸斗はわざと紬が聞こえる場所でアピールするように聞いた。動揺はしてなさそうな紬。


「へぇ、そうなんだ。輝久に彼女かぁ…。」


まるで保護者目線の紬。もう、吹っ切れてるようだ。


「そしたら、心置きなくってことだね。」

 

 陸斗は嬉しそうだった。

 紬は全然考えてもいなかった。


「そういや、先輩、あと数ヶ月で卒業じゃないですか。進学先決めたんですか?」


「…ん?まぁ1月2月に受験あるけどな。県内のT大学にするんだけど、洸と一緒なのがちょっと不満なんだわ。」


「え?! T大学? めっちゃ難易度高い大学じゃないですか。え、こんなこと言うのも変ですけど、勉強大丈夫ですか?」


「あ、ああ。まぁ、過去問解きまくってはいるけどね。ま、大丈夫じゃない?」


 学年首席は聞いていた輝久は顎が外れそうになるくらい驚いていた。


「軽いノリですね。言ってみたいわ。俺には絶対無理だけど。」


「え、そんなに偏差値高いの?」


「偏差値どころか倍率も高いよ。もう、上の成績でいないと落ちるの確実よ。」


「そうなんだ。めざせ現役合格だね。…やっぱり、遊ぶの減らした方がいいんじゃないのかな。」


「やだ。」


「え…。」


 陸斗は子どものような態度で対応する。


「遊ぶ。」


「でも…大学いけなくなったら困るよ。」


「落ちたら、浪人でもなんでもするよ。学生にしかできない遊びっていっぱいあるし、紬といる時間は今だけじゃん。卒業したら学校バラバラになるでしょう。」



「そ、そうだけど。」


「確かに今しかできないことってありますもんね。俺も、今のこと大事にしようかなぁ。」


 輝久は変に納得している。


 紬は何となく、複雑な気持ちになった。

 勉強する時間を惜しんで、会う時間を作るのが申し訳なく思う。


 

 こと尚更、前よりもドキドキ感が減っている。


 倦怠感が倍増してきている。


 好きって気持ちが薄れて来ている。


 存在が当たり前過ぎてきてるようだ。


 付き合い始めて3の倍数で嫌になる時期がくるらしい。


 まさに紬は6ヶ月経ち始めていた。


 誰かに邪魔されても、それでも一緒にいるとか言われたら、刺激的で燃え上がる。



 一定の平凡な期間が長すぎるとなんで付き合っているだろうと疑問が芽生え始めることもある。個人差があるはず。





ーーー


夕日が照らされる放課後、

紬は陸斗よりも先に自宅へ着いていた。



 今日一日、学校での出来事は何事もなく、あっさりとした平和時間が訪れていた。


 家に着いたらまずやらなくてはと思ったのは部屋の掃除。


 陸斗が家で映画を見ると言っていたためだ。



いつもは念入りにしない掃除を、細かいテーブルに乱雑に置かれた文具や化粧品、ヘアケアの道具を所定の位置に片付け始めた。



ガタガタと音を立てて、布団をバサバサと払っている様子がお店の準備をしているスタッフにまで、聞こえるくらいだった。



「今日は一段と暴れていますね、紬ちゃん。」



 洸はほうきを持ちながら、レジの両替準備をする遼平に話しかける。



「あ、ああ。何か帰って来てからすぐに部屋の掃除するんだって騒いでたよ。いつもはあんなにしないのに…。」



「へぇ~…誰か来るんですかね。」



「さあ? 陸斗くんでも来るのかな。聞いてないけど…ほらほら、洸くんもお店の掃除しなよー。開店時間までもうすぐだよ。」



「ほーい。ほら、拓人~、ちりとり手伝って~。」



 洸はテーブルの下を掃除していた、紬の弟の拓人に声をかけた。



「えー、ちりとりくらい1人でできるじゃないですか! 俺、こっちやってて忙しいっすよ。」



「そう言うこと言わないでさぁ、手伝って~。」


 やけに甘えたがりな洸だった。


 相変わらず、一生懸命に掃除している紬だった。


 部屋の掃除も何かのきっかけがないとスイッチが入らないものだ。


誰かがやってくるというトリガーがないとほぼ、足の踏み場のない散らかったままなものだ。


 そうこうしているうちに陸斗がお店の開店と同時にやってきた。


「こんばんは。お邪魔します。」


 お店の邪魔しちゃいけないと裏口からそっと入るとキッチン近くで紬の母のくるみが声をかけた。


「あら、いらっしゃい。陸斗くん、珍しいね。紬なら、部屋にいたわよ。ごめんね、お店の準備で忙しいから何もお構いはできないけど、ゆっくりして行ってね。勝手に入っていいから。」


 食材の在庫チェック中だったくるみは慌ただしくあっちに行ったりこっちに行ったりいていた。


 陸斗は申し訳なさそうにぺこりと会釈して、2階にある紬の部屋に入って行った。


 ノックをする。


「はーい。」


 ガチャと開けて、すぐに閉じた。


「って、なんで閉めるの!?」


「あ、ごめん、陸斗だと思わなくて…。」


 顔だけドアの横から覗いてみる。


「入っていいの?」


「う、うん。今部屋の片付け終わったところで…。どうぞ。」


 ドアを大きく開けた。

 部屋が小綺麗になっていた。

 掃除したばかりで少し埃が舞っていた。


「ご、ごめん、窓開けた?少し埃舞っているよ。」


 少し咳き込む陸斗。


「あ、開けてない。今開けるね。」


ベッド近くにあった窓をカラカラと開けた。日が沈むのが早く、もうすでに外は真っ暗だった。風がびゅーっと吹き荒ぶ。


「さむ。」


 紬は両肩を抱いて震える。

 長そでの薄いシャツに着替えていたため、尚更だった。


 陸斗はブレザーの制服のままのため、寒くはなかった。


「寒いなら、すぐ閉めていいよ。」


 隣に行き、紬の代わりに膝立ちで窓を閉めた。


「だって、埃っぽいっていうから。」


「掃除したばかりは埃舞いやすいから、窓開けながらやった方がいいよ。俺、アレルギー持ってるから反応しやすいんだ。ごめん。そういう自分の部屋もそんなに掃除してないけど…。」


「ごめん。陸斗が来ると思って張り切って掃除した…。」


「綺麗になったんなら、それで良いよ。ありがとう。」


 紬の頭を撫でた。


「うん。そういや、映画見るって、何みるの?私の部屋にテレビないから、小さい画面だけど、 DVDプレーヤーでも良い?」


 引き出しに入れていた小さな白いDVDプレーヤーを取り出した。


 小さな茶色いテーブルに置いた。


「見られるなら何でも良いよ。」


 陸斗はバックからお店から借りてきた2枚のDVDを取り出して渡す。


「これは…宇宙の話だよね。観たことあるけど観たい。ブルースウルスン出てるよね。こっちは、新小岩監督のタイムスリップするアニメか…。」


「どっちがいい? 古いけど、たまには良いよねそういうのも。映画館では見られないもんね、昔のものは。」


「確かに…。こっちが良いかな。現実逃避できる。」


 紬は宇宙がテーマの壮大な映画を選んだ。

 エイリアンが出てきたり、空飛ぶ車があったりするものだ。

 

 ハリウッド女優が白い包帯のような服を着て飛ぶシーンが有名だった。


 紬はケースからDVDを取り出して、本体にセットした。字幕か吹き替えかで悩んだ。


「あれ、どっちで見ようかな。」



「どっちでも良いよ。俺も見たことあるから…まぁ、勉強のこと考えるなら字幕が良いか。リスニングになる?」



「あー、勉強に全く関係ないわけじゃないね。字幕で見よう!」


「まぁ、英語…話せるけど。」


「嫌味だなぁ。」


「#dicich liebeh__ イヒ リーベ ディッヒ__#」


「え?何か言った?英語?」


「分からないなら、何でもなーい。ほら、字幕ボタン押して。」


 陸斗はそう言いながら、自分でボタンを押した。


「あ、ちょっと待って、飲み物持ってくる。予告映像あるよね。その間に間に合うように行ってくるから。」


 紬は1階の冷蔵庫に飲み物を取りに行った。気をきかせて、母のくるみがお菓子を準備してくれていたらしく、手渡しされた。キッチンから近いせいか、紬を見かけた洸が駆け寄ってくる。


「えー、陸斗来てるの?」


「来てますよー。」


 声をかけられたことが少し嬉しかったのか裏声が出た。


「良いなぁ。俺もお菓子食べたいなぁ。」


「洸くん、お客様、見えてるわよ?対応してちょうだい。帰りにお菓子渡すから、今は我慢!!」


 ちょうど良く、お店のドアのベルがガラガラと鳴る。


「本当ですか。ラッキー。よし、がんばろう。」


 お菓子が貰えると張り切って、お客様のところに向かい、外向きの笑顔で対応した。


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか。」


 お客様を案内する横目で紬が2階に上がる様子を見逃さなかった。



美嘉という彼女がいても、やはり紬の行動が気になるようだ。



 視線を感じた紬はあっかんべーと舌を出して、トレイに乗せたお菓子と飲み物を持って2階へと逃げ出した。


「陸斗ー、ドア開けてー。」


 部屋のドアの前に着いた紬は陸斗に声をかけた。


「はい。どうぞ。何か、お店の商品っぽいね。」


 トレイに乗った飲み物はお店に出すのと一緒のさくらんぼを乗せたクリームソーダと、お菓子はチーズスティックケーキだった。


「もちろん。さっきお母さん用意してくれたみたい。このケーキのお菓子は頂き物だけどね。」


「何も用意できないって言ってたのに逆に申し訳ない。」


「良いんだよ。食べてって。…ってこれは飲み物だけど。ごめん、始まっちゃった?」


「紬来るの待ってようと思って、一時停止してたよ。再生したらすぐ本編始まるから。」


「そっか。良かった。洸さんに話しかけられたからさ。バイト中なのにお母さんに注意されてた。」


「洸が邪魔しに来たのね。まだ紬のこと気になるんかな。森本さんいるのにな。」



紬はその言葉にドキッとした。何だか胸の奥がザワザワする。


「そ、そうだよね。美嘉ちゃん、学校でも、洸さんのこと友達にめっちゃ自慢してたよ。幸せそうで…。隆介くんはすっごい落ち込んでたけど。」


「…紬?聞いていい?」


 真顔で陸斗は向かい合う。


「ん?何。」


 紬はクリームソーダの上に乗ったさくらんぼを食べようとした。


「洸のことどう思う?」


「え?なんでそんなこと聞くの?」


「んー、何となく。」


「こ、洸さんは、陸斗の従兄でしょう。あと、ウチの店にバイトしに来てる。つながりはそんなとこ?あと、美嘉ちゃんの彼氏…だよね。」


「俺はそんなこと聞いてないよ?紬はどうかってこと聞きたい。」


「え? 私…。」


 つまんださくらんぼを食べた。陸斗はぴょんと紬の口から飛び出たさくらんぼ柄の部分を自分の口で咥えた。

 

 そのまま、キスしようとしたら、避けられた。


「ちょっ…やだ。」


「なんで?ダメなの?」


「だってさくらんぼ食べてたから!」


「そのさくらんぼの柄で結ぼうと思ったの。」


「ほら、今、やってみせるから。」


 陸斗のクリームソーダの上に乗ったさくらんぼの実をプチッととって食べてすぐに柄をくわえて、結んで出して見せた。


「へぇ、器用だねぇ。…って、そうやればいいじゃない。私の奪わないでよ。」


「チューしてもいいじゃん。別に。」


「しかも話の途中だし。」


「そんなん関係ないよ。したくなったんだもん。」


「だって…私も結ぶのやってみたくなったんだもん。」


「んじゃ、やってみなよ。これ出来る人は、キスが上手い人なんだってよ。」



 紬は食べたさくらんぼの種をティッシュに出して柄を口の中に入れて結びに挑戦したが、何度やってもできなかった。



「無理だ…。」


「紬が下手でも,俺がカバーするから平気だもんね。」


 と言いながら、顔を近づけるが、紬は陸斗の顔に左手を出した。


「な、何をしているのかな。紬くん。」


 キスをしようとした陸斗は止められて、イライラする。


「妨害。」


 両手を出して顔をおさえる。


「なんでよ!」


「だって、映画見れないじゃん。」


「キスくらいしたっていいでしょう!」


「……本当は映画なんて見る気じゃなかった?」


 陸斗はドキッとした。下心丸見えのようだった。冷や汗が止まらない。


 紬は少し不機嫌そうにDVDプレーヤーの再生ボタンを押した。


(絶対舌入れる気だったな…。歯磨いてないっての。)


(ち、ちくしょー…。)


 涙を流しながら、とりあえず、紬の横で肩を寄せ合いながら、映画に集中した。


 スッと、トイレ行くふりして、紬は洗面所で思いっきり歯磨きした。


(ったく、歯磨きしないとできるわけ無いって…急過ぎる。)


 ブツブツ文句を言いながら、部屋に戻った。結構神経質だった。



「あ、戻ってきた。紬、そういや、さっきの話の続き、聞いてない。」


「え、何だっけ。」


「洸のこと。」


「うん。洸さん?」


「俺とどっち好き?」


「えー、どっちも?」


「え!?そうなの?」


「冗談だよ。陸斗でしょう。」


「うわ、心臓に悪い。」


「洸さんも陸斗も少し似てるからね。性格とか、背格好とか。年齢違うけど。陸斗よりは多少大人だし、経験豊富だもんね。確かに… 魅力的なところあるけど、女の人を好きすぎるのが欠点かな。誰にでも優しいし、彼女たくさんいるイメージ。」


 言葉に出すと、そこまで洸のことは好きではないことに気づくが、実際会うと意識が向くときがある。美嘉と洸が付き合っていることでつながりがあるためか緊張しているのかもしれない。



「俺は?」


「一途になってきたよね。周りを見なくなって来たけど、でもそれが…。」


「もしかして、窮屈?」


「重く感じるときもある。」


「……。」


「私、倦怠期なのかも。お互いに慣れてきて見てる方向が変わって来たのかも。」



「え、俺は全然そんなことないよ。今まで通りだし。」



「陸斗と手を繋いでもドキドキしなくなった。なんでかな。」

 

 陸斗はつばをごくんと飲み込んだ。

ショックが大きかった。


 紬はそのまま、流しぱなしの映画をぼんやりと見続けた。


 頭に全然入ってこない。


 陸斗も同様黙って見続ける。


 


 その日を境に2人は数日間も連絡取ることを控えた。もちろん、一緒に登校することもやめた。


 一定の距離をとって、気持ちを落ち着かせた。


 クリスマスまであと数週間。

 何にも計画を立てていない。



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