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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち
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第40話

お化け屋敷を一通りこなした紬はクタクタに疲れていた。


 メイク落としのシートで厚めの化粧を落とし、ワンピースから制服に着替えた。着ていたものが軽いものだったため、制服の方が重く感じた。



カーテンを隔てた隣でゾンビ役の田中も制服に着替えていた。




「谷口さん、お疲れさま。結構お客さん着てて、大変だったね。」



「うん。田中くんも、お疲れ様。後ろから覗いてたけど、ゾンビ役、うまかったよ。」




「ありがとう。谷口さんほどじゃないよ。みんな怖がってたから。」



「…ちょっと楽しかった。」


 田中はニコッと笑った。



「紬ちゃん、そろそろ体育館に行かないと…。ごめん、先に行くから、ほら、輝久くん待ってるから。」



 出店の片付けを終えた輝久が、廊下の窓際でポケットに手を入れて待っていた。


 紬はクラスメイトたちに片付けをお願いすると、慌てて輝久の近くに寄った。



「ごめん。待たせたね…。」




「別に…全然待ってないよ。ほら、行くんでしょ。」




 何だか白々しく、少し離れて歩いた。2人は、沈黙のまま体育館に向かった。

輝久は出入り口付近に着くと、不意に自分の先に行く紬の左手を握って、行く進路を変えた。


体育館までの屋根がある通路をはみ出して、別な方向へと誘導した。



「え…。どこ行くの? 会場はそっちじゃないの?」




「いいから。こっち。」




全然、ライブ会場には関係ない体育館裏の木々が生えた誰もいない場所に連れて行かれた。



「ねえ、なんでここ? 陸斗先輩は、体育館の中にいるんじゃないの?」




 パシッと輝久の手を離した。




「…行かせない。」


 

「え?何て言ったの?」


 


 ざわざわした人の声と体育館から聞こえる音楽で輝久の声をかき消した。





 後ろを振り返って、輝久は壁ドンをするかのごとく、木の幹を壁代わりに紬を木へと誘った。


 

 何をされているんだとばかりに輝久を見て目を丸くすると、ドラムのバチの音とギターの演奏が始まると同時に唇を奪われた。



 今、何が起こったんだと、目を見開いたまま、輝久の肩ごしに校舎側を見る。



「俺、今まで言えなかったけど、紬が好きだから。」



「……?!」



 両手で口をおさえる。


 すでに会場では盛り上がっていた。


 歌声が外にまで響いている。


 


 紬は今までのことをフラッシュバックして思い出す。全然、輝久の気持ちに気づかなかったことに申し訳なさを感じた。その気持ちを尻目に、陸斗のことばかり話していた。



 でも、前に輝久を好きだった気持ちがあったことうっすら頭の片隅にあり、今は頭をどう処理していいか分からずにいた。




「ごめんなさい。今は、どう答えたらいいか分からない。」



 目から涙がこぼれ落ちる。


 

 好きだったはずの人から告白されたはずなのに、両思いだったはずなのに、いつから気持ちがすれ違っていたのだろう。



「返事は今すぐじゃ無くてもいいから…。先輩を好きなままでもいいから、俺がいること、忘れないで。」




 どんな顔をして見ればいい。

 今まで幼馴染として、仲良く兄妹のような接してきた。


 

 紬はいたたまれなくなって、輝久を残して、体育館の後ろ側から会場へ入った。




 舞台には、楽器演奏をしている2人の生徒とギターを持ってスタンドマイクで気持ちよく歌を歌っている陸斗がいた。ボーカルだなんて、聞いてない。


 背景のカーテンにはプロジェクターから映し出されたたくさんの星の数々が映し出されていた。


 

 とても綺麗だった。



 歌っていたのは紬と一緒にカラオケで練習していたBUMP OF CHICKENの天体観測だった。


 カラオケの採点では98点の高得点を出していたものだった。



 紬も好きな曲だった。



 客席は超満員で、ところ狭しと人がごった返していた。



 人と人をかき分けて、チケット番号に書かれた座席を目指す。



驚くことにその番号は会場の真ん中の1番前で、こんなに混み合ってる中、そこに入ることに抵抗を感じた紬は、プロジェクターを操作していた康範のそばに近寄ってみた。



「あれ、紬ちゃん? 座席、1番前でしょ? 行かなくていいの?」



「私はここから見たいです。こんな混んでる中を1番前に行くには抵抗を感じます。」



 康範は気持ちを汲み取って、自分の使っていたパイプ椅子を譲ってあけた。

 



 遠慮した紬は、それでもいいからと強引に勧められて、その椅子に座った。




 歌ってる最中だったが、陸斗はハッと気づいて、康範のそばに紬がいると安心して、笑みがこぼれた。




歌い終えて、演奏を終えた。

拍手喝采となった。



マイクに向かって、陸斗は話し始める。




「もう1曲、聴いてください。『優里のペテルギウス』」



 ギターでリズムを取り、アカペラで歌い始めた。



 お客さんはみな、静かに歌声に酔いしれていた。



 こんなにも、素人で初めてなのに人々に感動を与えられるなんて凄いとお客さんにまで嫉妬するくらいだった。




 そんな陸斗を見て、紬は不安になった。



 自分じゃなくてもいいんじゃないかなと感じてきた。



 自分以外の女子はたくさんいる。



 声をかけてもらえる人はこの会場には何人もいる。



 それを目の当たりにして、自信が無くなった。




 歌声は綺麗で、心に染みる曲だったが演奏の途中で体育館から外に出た。


  

 最後まで聴く元気がなかった。



 元々たくさんの人がいる中で過ごすのは苦手な紬は、息がしにくくなった。




いろんな人の気持ちが心のアンテナを通して、バチバチ入ってくる。



 神経をものすごく使う。




 誰もいない学校のラウンジのベンチに座って、気持ちを落ち着かせた。





 1人になりたくなった。


 自販機で炭酸水を買って、ゆっくりと飲んだ。




 窓から見える外を眺めていると、午前中の疲れからか眠くなって、ベンチを横にしてうとうとと目を閉じた。







 演奏を終えた陸斗が会場のみんなにお知らせした。





「本日はありがとうございました。みなさまにお知らせがあります。ただいま、歌った星に関する歌がありましたが、現在、我が高校の地学部が廃部の危機になっております。プラネタリウムに星観察の部活動がありますので、ぜひ興味のある方は入部をお願いします!」



「お願いします!」



 ただ唯一の地学部員が画用紙に惑星をイラストと地学部部員募集中とか書いてある紙を見せた。



「はーーーい。」



 元気な女子たちが返事をしていた。

 


 返事をするが、地学部に入るかどうかは謎だった。



 お祭りの後というのは物凄く寂しさを感じる。


それぞれのクラスで片付け方が始まった。



学校内は生徒たちでざわついていた。




体育館の片付けがクラスのおかげもあって手早く終わらせることができた。



 陸斗はご機嫌にして、ラウンジの横の昇降口に歩いていると、そのラウンジの方から声がした。



「おい、見ろよ。こいつ、あの3年の陸斗ってやつの彼女だっけ? 1人で寝ちゃってるし、スカートからパンツ丸見えですよー…なんつって。」


「やめとけって。ほら行くぞ。」


 おそらく、2年の男子生徒であろう2人がラウンジのベンチで横になっている紬を見て話してたのだろう。



 陸斗は姿を隠して2人がいなくなるのを待った。



近くで見るとよほど疲れたのか、体をベンチに預けて、本当にパンツが見えそうになっていた。



屈んで、頭を撫でた。



「紬…、おーい。」


 小声で耳元に話す。

 紬は蚊が出たように手で跳ね除ける。



 肩をポンと軽く叩いた。



「…ん? うーん。あれ…まぁ。」



 目をこすりながら体を起こした。

 ボトンと飲んでいたペットボトル転がり落ちた。


 屈んでいた陸斗は拾いあげた。


「あれまぁっておばちゃんかい?」



「陸斗…。歌、かっこよかったね。カラオケで歌ってたのと一緒だった。あれ、ライブの練習だったの?」




「うん。そう。その通り。紬は、途中から見てたでしょう?せっかく特等席用意してたのにいなかったから。」



「う、うん。だって、あんなに1番前は恥ずかしくて行けなかったよ。途中から入ったら目立つもの。康範先輩に座っていいよって言われたから少し後ろのところにいた。でも、しっかり見えたから、大丈夫。ちょっと、疲れちゃって途中抜け出しちゃったけど…ごめんなさい。」



「うん。いいよ。少しでもいてくれたから…それくらい全然平気。まだ調子悪い?」



 額に手をつけて熱があるかと確認した。


 平熱の体温だった。


 額を触られてドキッとした。


 前髪をワシャワシャと撫でられた。



「良くなるおまじない。」



「前髪乱れちゃうよ。」




乱れた前髪でも全然気にしてなかった。



「大丈夫だって。…今日このあと、バイトからそのままバイト先に行くね。紬はどうする?」




「人混みに寄っちゃったから。先に帰ってていいよ。もう少し休んでから帰る。」




「そっか。んじゃ、気をつけて。家着いたらラインするから。」



「うん。」



 陸斗は寂しさを残してその場を立ち去った。



紬は、今日一日の出来事に疲れもあったが、どこか自分は陸斗の彼女にはふさわしくないんじゃないと,ネガティヴな発想が生まれていた。




自信がついていたはずなのに、どこか心ここに在らずな状態だった。


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