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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第32話

 辺り一面に白い靄がかかる。

 交差点では、クラクションや乗用車やトラックのエンジン音が鳴り響く。


 信号機の歩行者信号のチャイムが鳴る。

 横断歩道を渡りきった高齢者や、仕事帰りの成人男性が点字ブロックの上で呆然としている。


 まもなく、信号機が赤になろうとするとき、車のブレーキの煩わしい音が大きく響き渡った。


 自分は、今どこにいるんだろう。


 つい数分前、スローモーションのごとく地面に体を叩きつけられて、意識を失った。


 乗っていたバイクが歩道側にスライド移動して破損している。





 バイクについてる2つの小さなカーブミラーは割れて悲惨な状況に。






国道の大きな交差点で右折しようとしたら、白いワゴン車にバイクの後ろ側をぶつけられて、車体が滑って移動し、体は投げ出されていた。全身を強く打ち、奇跡的に助かって全治1ヶ月と診断となったあの数ヶ月の事故。






 病室のベッドで見た上の白い天井を思い出す。






 家族の前はすぐに出てきたのに、あの子の名前だけが分からない。





 初対面だと思って、誰なのと聞いたあの瞬間。






***






 ベッドで寝ていた陸斗は大量の汗をかいて目を覚ました。呼吸が荒かった。






 夢を見ていた。交通事故を起こした思い出したくないあの日。





 陸斗は紬を思い出せなかった。






そして、今も頭痛がして、一瞬ここがどこかも忘れている。





 頭をおさえて記憶をたどる。






 体を起こすと、隣に横になってすやすやと腕に顔を乗せている女の子がいる。





 目から涙が出始める。





 無意識に滴り落ちた。





 体を起こした陸斗に気づいた紬が声をかける。




「ん、起きた?」


 声を聞いて、掃除機の吸い込むような勢いで思い出した。




 ふたたび、体を横にして,紬と目線を合わせた。




 紬は陸斗の両頬を手でおさえて、目の下に涙がこぼれるのを拭ってあげた。





「泣いているの?」




「ううん。あくびした。」




「嘘が下手だね。」




「…バイクの事故が夢に出てきて、また紬を忘れそうになった…。」





「そっか。でも思い出せたんだよね。」





 静かに頷く。





 紬はおねえさんになった気分で陸斗の頭をぎゅうと寄せて抱きしめた。




「朝起きて、陸斗いて凄く嬉しかった。今、すごく幸せ!」





「俺も幸せ…もう忘れたくない。離さない!!」





 陸斗も紬を抱きしめ返した。




 もう、あんな思いはしたくない。



 大好きな人を忘れるということ。





 学校が終わって、夕方から朝までずっと一緒の時間を過ごした。




 ラインをつなぎぱなしではなく、真横で同じベッドでぴったり体温を,お互いに感じながら寝ていた。




 寝息も聞こえる。


 まったりとした時間が過ぎた。




「あ…今日、バイトあったんだった。今、何時?」





「えっと、7時かな。」





「まだ間に合う。9時からだから。帰りは送るよ、バス停まで。朝ごはん食べよ!確かサンドイッチあったはず。」




 予定があることを思い出し、慌てて、服に着替える。紬は布団に潜って着替えの様子を見ないようにした。





「今更だけどね…。」



  

 パジャマから黒のジーンズとグレーの長袖シャツに茶色のジャケットを羽織った。





「私は布団の中で着替える!」



 手を伸ばして、ハンガーにかけていた制服をとってすぐにベッドの布団に潜る。



 ふざけて陸斗は布団を剥がして、ぎゅーと体を寄せて、頬にチューした。




「着替えさせない!」




「やだー。着替える。寒い。」




「もう少しー。」




 着ようとしていたが、その前にインナー肩紐がはだける。




 すると、陸斗のスマホが鳴った。

 父のさとしからの着信だった。




「はい。陸斗。え、車で迎え?鍵無いよ。どこにあるの? …あぁ、台所の引き出し?ちょ、待って。」


 電話に出ると陸斗は、台所に行った。


 紬は今がチャンスと服に急いで着替えた。


 昨日のままのため、学校の制服だった。


 ワイシャツだけはハンガーにかけさせてもらっていたため、しわにはなってなかった。


「父さん、車の鍵あっちこっちに置かないでよ。キースタンドあるでしょう!ったくもう、車使えなかったじゃん。」




『ごめんごめん。午後の15時には着くから、駅に迎え来て。母さんも一緒だから。陸斗今日バイトは午前だけだよな?』

 


「あ、あぁ。そうだよ。」



『よろしく。あとさ、紬ちゃんに冷蔵庫にお土産あるから渡しといてね。んじゃ。』



「は?なんで紬が出てくるのよ!?」




『ーーーピロン』



 さとしは陸斗の声も聞かずにラインの通話終了ボタンを押した。




「私がどうかした?」




「父さんが紬に渡しておいてって。冷蔵庫にあるらしく…。」




 陸斗は冷蔵庫を確認してみた。

 缶に入っているショートケーキだった。



 スポンジとイチゴ、生クリームが入ったスイーツだった。



 付箋に『つむぎちゃんへ♡』とちゃっかり書いてる。


 恥ずかしい大人だと陸斗は感じた。




「父さん、まじか。策士やな。」



「わぁ。可愛い。いいね。ありがとうって言っておいてね。」




 何だか胸のあたりがザワザワした陸斗。紬は純粋に喜んだ。





 昨日とは打って変わって、外は、雲ひとつない快晴だった。




 陸斗は冷蔵庫に入っていたたまごサラダを取り出して、焼いた食パン4枚に塗りまくった。



 ボリュームたっぷりのたまごサンドが完成した。



「はい。完成! 食べよ,食べよ。あ、あと洗濯物干しておかなきゃないんだった。食べてからにしようっと。」



「へぇー。陸斗、洗濯物も干すの?偉いね。いただきまーす。」


「ウチでは母さんが家にいること少ないからさ、家事は当番制なんだ。洗濯、掃除、買い物を順番に3人で交代してやってる。でも、今日は…2人とも外泊だから俺がやるよね。」


「そうなんだ。私、全部親に任せっきりだよ。家事のお手伝いしないと…。」



 パクパクとお皿に乗ったサンドイッチを食べた。

 オレンジジュースを2人分、コップに注いだ。


「ちょっと洗濯、干してくるから食べてて。」


「うん。」



先に食べ終わった陸斗は洗濯機の中から服を取り出し,干すものと乾燥機で乾かすものと分けた。



 タオルはふわふわにしたいから乾燥機に入れておいた。自分のシャツや下着、靴下などはハンガーやピンチにつけた。



 手慣れた作業をする陸斗を見て、働き者だなぁと感じた。


 洗濯物は窓際に部屋干ししてるようだ。



「外に干さないの?」



「花粉症とか、黄砂とか?気になるからね。窓際でお日様あたるから、部屋干しで大丈夫。」



「そうなんだ。」



「あ、車の鍵、見つかったから、車で送るから。ごめん、バイト行かないといけないからそのまま送ってても良い?」



「車乗って良いの?初めてだね。初心者マーク?」



「え、何か心配してる?大丈夫だって。1発で免許取ったんだから!」




「自宅までよろしくお願いします。」




「お任せあれ、紬姫。」



 執事のようにお辞儀した。


 食器を片付けて、それぞれバックを肩にかけた。



「忘れ物ないよね。」




「うん、大丈夫。」



 玄関のドアを施錠していると、エレベーターの方から声がした。




「あーー、鍵、閉めないでー!」




「悠灯、今帰ってきたの? ゆっくりで良かったよ。」



「陸兄の,イジワル! 開けたままでいいよ、鍵。あ…お隣さんは、紬さん? お兄、私のパジャマ貸してあげたの??」



「あ…谷口 紬です。パジャマ、借りました。ありがとうございます。」



 頬にツヤ玉ができるくらい肌が輝いていた。髪もサラサラになびいていた。


 3歳しか違わないのに大人っぽく見えた。



「深月と同い年には見えないねぇ。…いや、紬さんの方が年上なんで敬語は使わなくていいですよ。陸兄がお世話になってます! いじめてないですか? 大丈夫ですか?」



「え、ええ、まあ。今のところは大丈夫。」



「いじめてないし!ほら、良いから行くよ。悠灯は話が長いから。バイト遅刻するし。」


 陸斗は間に割って入った。悠灯の手に家の鍵を置いた。


 悠灯は不機嫌そうな顔をする。


「んじゃな。留守番よろしく。」


「はいはい。」


 紬はぺこりとお辞儀して、立ち去った。




2人が立ち去った後に悠灯はボソッと言う。


「あ、2人が最後までやったか聞くの忘れた。まあ、いいや。帰ってきたら、陸兄にしっかり問い詰めてあげよう。」




ーーー




 駐車場に停めていたセダンの青い車に2人は乗った。父さとしの車だった。


 後ろに初心者マークをしっかり貼った。



「ごめんね。親父臭するかも。芳香剤入れてはいたけど。」




「全然臭くないよ。」




「そう? んじゃ、出発するね。」




 陸斗はスマホとカーオーディオをBluetoothで接続し、音楽を流した。



いつも聴くものが自動で流れている。



初心者の割に慣れている。機械を扱うのは得意だった。



 助手席に座る紬は何だか新鮮で嬉しかった。


 初めてバイクじゃなく、運転席の隣に座らせてもらってることがありがたく感じた。



 二車線の道路に左折で入り込んだ。ちょうど近くの信号が赤だったため、入り込むことができた。



 土曜日で、国道の車通りは激しかった。



 商店街通りでは歩行者が横断歩道の手前で青信号になるのを待っている。




 親じゃない人の運転で乗るのは初めてで、何だかドキドキした。





 紬の自宅前の駐車場に着くと、朝帰りすることは紬は悪いことしてるみたいで両親に申し訳なく思えた。



 ちょうど今日はお店の営業だったため、裏口が入ろうと決めた。



 陸斗に手を振って別れを告げるとバンッと車のドアを閉める。



 陸斗は車をハンドルを切って来た道を戻って行った。



 その様子を、中でホールの仕事をしていた洸が見逃さなかった。



 お客さんで座席は埋まっていたが、ちょうどモーニングセットを食べ終えて帰って行ったお客さんの食器を片付けようとしたとき、紬が車から出てくるのが見えた。



 大越家の青い車だとすぐにわかった。



 運転席には陸斗が乗っているのも見える。



(紬ちゃん、学校の制服で朝帰り?嘘でしょう。もしかしてのもしかして…そう言うこと?)



ホールからキッチンの方へ食器を運んで、洸はドキドキしながら妄想を膨らませた。


 自分のことのように嬉しそうだった。





 紬は裏口からそっと見つからないように2階にある自分の部屋へ駆け上がった。


 慌ててクローゼットを開いて制服から私服へと着替えた。


 一晩部屋にいなかったからか、なんとなく寒さがあった。



「紬~、いるんでしょう? お店手伝ってくれないかな?」



 裏口の靴を見たのか,母のくるみは猫の手を借りたいほどに忙しくしていた。



「はーい、今行くー。」


今日のお店も大繁盛していた。







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