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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第27話

 芝生が敷き詰められた小さな公園には、ブランコとすべり台の遊具があった。


「てるちゃーん、ブランコ乗ろうー。」


 5歳の谷口紬。母と一緒に近所の公園に来ていた。公園の出入り口では母と一緒に手を繋いだ庄司輝久がいた。


 その手を離して、ブランコまで走った。まだ紬と出会って1週間だった。


 隣同士、ブランコで乗ってキャッキャ遊んだ。あの頃からずっと遊んでた。紬の母も喜んでいた。


 幼稚園では絶対お友達や先生とお話していなかったのに、輝久とは会ったばかりでもお話できていた。


 紬の母も不思議でならなかった。


 

 小さい頃からずっと隣で、いろんな紬を見てきた。幼稚園、小学校、高校とずっと同じ。


 友達と喧嘩して泣いて帰ってきたこと。


 小学生の時、好きな子から誕生日プレゼントもらって嬉しかったこと。


 理不尽なことでいじめられて怒っていたこと。


全部輝久に律儀に報告していた。



 保護者のような目線で見守ってきて、高校になった今、自分がいなくても平気な紬になっていることに、心が痛んだ。

 

これが自分が親で子が旅立つなら割り切れるのだろう。



 でも、輝久の場合は保護者のような感情ではない違う感情が大きく芽生えてきて、もどかしさでいっぱいだった。


あの人より長い間、紬のそばにいたのに、あの人は平気な顔して紬のそばにいる。


 会ってる時間、話してる時間よりも

 勝るものってなんだろう。


 輝久には到底考えられなかった。

 謎は解けない。



 授業中、輝久は片手で頬杖をついて窓の外を見た。紬と美嘉のクラスが体育でハードルをやっていた。

 遠くから目を追うことは滅多にないのに、目が追いかける。

 

 片思いは、話さなくても見ているだけで満足することもある。


 手を振って振り返してくれるだけで嬉しいと感じることもある。


 でも、こちらからは遠くてきっと見えない。切ない気持ちが溢れ出る。


 なびく髪や、白く細い足、笑顔で美嘉や他の友達とも話せるようになっている姿が見える。自分以外もあんなに話せる紬を見て、ひどく嫉妬した。


 いつから、自分じゃない人を見たり、話したり、好きになったりしているんだろう。

 

 どうして近くにそばにいるのに自分ではないのだろう。


 あの時、あの瞬間は、きっと自分を好きでいてくれていたはずと確信持って言える時があった。

 

 自信を無くて、他に好きな人がいるというそぶりを見せて気を引かせようとしたが、失敗に終わった。


 輝久は、自分の行動を責めた。

 もしかしたら、判断を間違えなければ、まっすぐに想いを伝えたら、紬のそばにずっといるのは自分だったかもしれないと…。


 机の左側に腕を伸ばし、頭を横にさせた。

 黒板では日本史の将軍徳川家康についての説明が書き出されていた。

 三国志や漫画などで歴史のことは熟知していたため、今更勉強するのもと思い、ノートに書き写すことも億劫になった輝久はシャープペンをノートの中央において、また外が見える窓を見た。



 青空にはふわふわの雲が浮いていた。



 紬たちのクラスは、まだハードルを飛んでいた。時々鳴るホイッスルが響いている。


 見えるところにいるのに、なぜか存在が遠く感じた。


 気持ちもきっと離れているんだろうなっとため息をこぼす。


 今朝、バスで誘われていた紬の店のイベントは、あえて行くのはやめようかと心が変化した。


いつでも、都合の良く行動しないんだぞと強気なところを見せようかと思った。


ーーー



 学校での授業を終えて、陸斗は久しぶりに父の稽古を受けるため、武道館に行った。


紬は美嘉と隆介を誘って、ラグドールのお店に案内した。


輝久は用事があると、行くと言ってたはずが断られた。


まさかの返答に紬は少し寂しかった。


こういう誘いを断ることがなかった輝久で、紬は何かあったのかと心配になった。



 3人は一緒にバスで移動した。美嘉と隆介はバスに乗るのは初めてだった。紬は優しく乗り方を教えてあげた。


「この乗車券取ってね。私は定期券あるから。」


「うん。ほら、隆介も。」


「あ、ああ。」


「私、1番奥のところに座りたい。」


 美嘉が率先して動く。お客さんは3人だけだった。


横並びで紬、美嘉、隆介で座った。


「なんで、輝久来ないんだよ。」


「何か用事あるんだって。いいじゃん、別に。楽しめるでしょう。」


「だって、俺1人だけ男子…。」


「帰りは私と2人になるんだから。平気じゃん。子どもみたいなこと言わないの!」


 寂しがり屋の隆介は、ブツブツ文句を言う。最近、紬とばかり話す美嘉にイライラしていた。自分のことを忘れてないよねと確かめる。


 薄暗くなってきた外には、ライトアップされていた。高いところからつられている三角旗のカラフルなガーランドをバスの窓から見えた。


「何あれ、オシャレで、綺麗だね。」


 美嘉は興奮気味にスマホのカメラを起動して写真を撮った。


「でしょう!」


 2人は楽しそうに到着したバスから降りていく。隆介も後からついていった。


 ブルーのキッチンカーではドイツ風ソーセージやボリュームたっぷりのハンバーガー、スペアリブが売っていた。


 隣でハンドマッサージコーナーでは、小さな透明な小瓶のアロマがプレゼントされるらしい。


 その隣の露店では、りんご飴屋さんもあった。


 女子2人は楽しそうにお店を見て回った。

 隆介は頭に腕を組んでつまらなそうについていく。


 主役であるラグドールでは、ウエハースが乗ったずんだソフトクリームを小窓から売っていた。


「いらっしゃいませ。」


 宮島 洸は、小窓販売担当でスイーツを主に売っていた。


「ずんだソフトクリーム3つください!」


「あれ、紬ちゃん。聞いたよ、今日から学校復活だって? 元気そうでよかった。お隣はお友達?」


「森本美嘉です。紬ちゃんの同じクラスで1年です。」


「里中隆介です。1年っす。」


「可愛い子が友達なんだね。俺、紬ちゃんの元彼氏~。」


「え!?」


 美嘉と隆介は目を見開いて驚く。


「洸さん!! 嘘は言わないでください。」


「ごめんごめん。谷口陸斗の従兄の宮島洸です。大学3年生でーす。」


「え? 陸斗先輩の従兄なんですか。はぁ、かっこいいわけですね。」


「ちょ、美嘉!」


 慌てて、自分の顔を見せる隆介。


「何、2人とも付き合ってんの?」


「えー違いますよ~。」


「可愛いもの、彼氏くらいいるよね。」


「そんなことないですよ~。でも、ありがとうございます。」


「おい!美嘉。すいません、陸斗先輩の従兄さんの洸さん。誘惑しないでもらっていいですか? 美嘉は俺の彼女なんで!」


「誘惑だなんて、してないよ。可愛いって言っただけじゃない。隆介くんだっけ? 頑張って!敵は多いぞ~。はい、ソフトクリーム3つ。900円ね。」



「はい!1000円。」


「100円のおつりー。何、紬ちゃんが奢っちゃうの?ここは、隆介くん、君じゃないの?別に誰でもいいんだけどさ。」


「今日は、いいの。誘ったの私だから。隆介くんも気にしないで!」


「…あ、ああ。さんきゅー。」


「ありがとう。いただきまーす。んー、甘くて美味しい。」


「あっちに座るところあるから、行こう。んじゃね、洸さん。」


 特別に設置されたベンチに3人は向かった。パタパタと手を振る洸。


 高校生は楽しそうでいいなと羨ましがる。


「紬ちゃん、洸さん、かっこいいね。彼女いるのかな?」


「話聞いたことないよ。でも今日からここでしばらくバイトするって言ってたよ。」



「そうなんだ。時々、来ようかな。」


「それって俺も一緒に来ていいの?」


「別にぃ。彼氏なら来るでしょう普通。」


「ねぇ、何、その態度。俺のことなんだと思ってるの?」


「え、里中隆介でしょう?」


「名前のことじゃなくて…ねぇ、紬ちゃん。最近っていうか前から美嘉が冷たいんだけど、どうすればいい?」


「ねぇ、なんで、紬ちゃんに聞いてるの?」


「……それはお二人の問題なので、私には…。」


「ほら、困っているじゃん。やめなよ。」


「マジか…。最近、ラインの返事も素っ気ないし、会ってもこの調子だし、3ヶ月前はしょっちゅう家とか行き来してたっしょ?なんで?」


「…そういう気分じゃないって言うか。私は、やりたいわけじゃないの。隆介は空気読めなさすぎなんだよね。ごめんね、紬ちゃんハードル高い話して…耳塞いでてね。」


「うん…大丈夫。」


「えー、だって、俺は美嘉だからそうするのに何がいけないのよ。他にいないよ?前みたいに浮気すんなって言ったじゃん。もう美嘉一筋だけど…。何がいけないのよ。」


「…不安になるの。毎回そうやって、するじゃん。それだけしか考えないときとかあるし…私は一緒に映画みたいのに内容入ってこないし、デートとかもまったりしたいのにさ、すぐそっちの話ばかりだから嫌なの。」


「男だもん。仕方ねぇじゃん。したいんだもん。確かにわかるけど…映画もね、みたいよね。デートも……よし、わかった。次から真面目にするから、気をつけるから優しくしてよ、ね?」


「約束してくれるなら、いいよ!絶対だからね。」


「うん。わかった。了解。そうする。気をつける。」


 握手をして、仲直りしたようで、横で見ていた紬も安心した。


「…それでさ~。紬ちゃんは先輩とどこまでいったの??すっごい気になる!!」


 美嘉はズイズイそばによって聞きに行くが、紬は食べていたソフトクリームに顔をつっこんでしまった。まさかそんな話されると思っていなくて、はずかしくなった。顔がソフトクリームだらけになった。


「あ。ごめん。びっくりしたよね。」


 遠くで、見えていた洸が慌てて、タオルを持ってきてくれた。


「おいおい。何してんだよ。美嘉ちゃん、あまり紬ちゃんをいじめないでよ?」


「えーー、洸さん、私いじめてないですよ! 陸斗先輩とどこまでいったかきいただけです!!」


「美嘉、聞きすぎじゃない?」


「何!? それはめっちゃ気になる話だな。」



顔をタオルで拭いてあげた洸も乗っかって聞こうとするが、あまりにも恥ずかしくなった紬は両耳や顔をお猿のように真っ赤になって、顔についた白いソフトクリームが溶けるくらいだった。


「………。」


 何も言えなくなって、下を向いた。


「これはイエスなのかな…。」


「うーむ。わからない。」


「やめておけってかわいそうだろ?」



 遠くの方から、誰かの声がした。


「おーい!やっほー。」


 噂をすれば何とやら、やっぱりお店の様子が気になって、さとしの車で駆けつけたのは、陸斗だった。


「ご本人ご登場だね。」


 突然、陸斗も来たこともあり、紬は恥ずかしくなって、家の中に走って入って行ってしまった。


「え? なんで、紬、中入ってしまうの?せっかくきたのに。お前ら何かした?」


「何もしてないっす。」

 隆介は素直に答える。


 美嘉は洸に小声で聞いてもらうように促した。


「え?俺が聞くの?」


 美嘉が何度も頷く。


 洸は、陸斗に耳うちで何を話してたか言った。だんだん耳が真っ赤になるのが見える。


「え? 何、そんな話してたの?マジで、紬、それはいなくなるよね。はずかしいでしょう。」


「んで?どうなんよ?」


「は?」


「だから!紬ちゃんとの話よ。」


「教えるわけないだろ。」


 洸は、陸斗の肩に手を回して、かがませた。小さな声で言う。


「陸斗、え、まさか誰ともやってないとかないよね。」


「えーーーー。そういうこときく?」


「は?嘘だろ?お前、彼女いっぱいいただろ?」


「彼女いたことあるよ?何人か、それはね。さてどうでしょうね。教えたくないなぁ。」


「じれったいな…。教えなさい。分かった、俺の話するから。俺は高校の時にある!さてどうだ!」


「マジで!? 洸、あのガリ勉の時の彼女?はぁ、そうだったのか。」


「ガリ勉とかいうな。ただメガネかけて勉強してただけだろ。陰キャラではない!塾通ってーって俺の話はいいんだよ。」


 お店の中に行き、遼平に挨拶を済ませていたさとしは、スマホに母の紗栄から着信があったようで、帰宅するようだった。


「陸斗ー、母さん帰ってくるから帰るぞ。」


「…呼ばれているから、帰るわ!んじゃ。」


 さとしから呼ばれると、早々と帰ろうとする陸斗。


「あ、逃げられた。」


 洸はボソッという。


「あの様子だと、もしかしたら、陸斗先輩は…。」


 隆介はニュアンス的に読み取った。


「だな。童貞かもしれん。」


 洸は的射たことを言う。


「え!?イメージと違う!嘘でしょう!!」


 美嘉は驚きを隠せない。



「ほら、美嘉もバスの時間なくなるから、帰ろう?」


「うん。そうだね。」


 驚いた顔が元に戻らない美嘉。


 隆介はしっかりと美嘉の手を握って連れて行った。分かり合えたようで嬉しかったようだ。



その頃、部屋の中に制服のまま、どさっとベッドに寝転んだ紬は、ドキドキした状態だった。


(あんな話されると思わなかった。会話するのもやっと慣れてきたところだけど、踏み込んだ話はまだできない…。)



 せっかく陸斗が来てくれたのに話もせずに帰ってしまったことに後悔した。


 ラインを開いてメッセージを送る。


『さっきはごめんなさい。ちょっと緊張しちゃって話せなくなった。』


 ごめんなさいスタンプを加えて送った。


 陸斗はさとしが運転する車の中でラインに気づく。


『大丈夫。俺も約束してたわけじゃないから、突然行ってごめん。変なこと聞かれなかった?平気?』


 割と早く返信を返せるようになった陸斗は心配だった。洸や美嘉に例の話を聞かれていたんだろうと予想した。


『美嘉ちゃんと隆介くんが2人で話してたから、私たちはどうなのとか言われて…って言われてもなんて答えればいいかわからなかった。』


『うん。そうだよね。良いよ。無理しないで。紬も友達と話す慣れてないし、徐々にでいいんだよ。でも、なるべくなら秘密にしてくれるとありがたいかな…。恥ずかしいからさ。話したいならそれでもいいけど…。』


『…うん。ありがとう。』


 成績は抜群でいいが、そういう恋愛に関しては人より進んでないことに劣等感を感じていて表立って言いたくなかった。事が済んだら、もしかしたら、自信もって話せるのかもしれない。


 陸斗は、自分で心から気を許せる人と決めていた。


 それはいつなのかは、まだわからない。


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