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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第26話

雲ひとつない青空で鳶が優雅に

飛んでいた。



元シュナイザーだったカフェは

名称を変えて『ラグドール』と

名付けた。



猫のイラストを施された看板に名前が刻まれていた。




紬が学校に行けるようになった日に合わせてリニューアルオープンすることになった。


内装は壁紙を変えたくらいであまり変更する部分はないが、メニューは新たに作り直して、食事はパスタをメインに日替わりでいろんな変わり種の味を入れるようにした。


 卸市場から仕入れた採れたての魚や、市内で有名な精肉店の美味しいお肉とコラボしたメニューを取り入れた。


デザートは仙台有名のずんだを使ったソフトクリームやケーキをメニューに加えた。


ご近所の商店などに宣伝をお願いして、オープン記念のイベントを開くことができた。キッチンカーや、ハンドマッサージコーナーを作るなど、ちょっとしたお祭りになっていた。



 紬はお店を準備する人々の中をすり抜けて、バス停に向かった。


 

遼平が慌てて、紬に声をかける。



「今日から1日授業受けてくるんでしょう。ほら、お弁当、俺が作ったからしっかり食べておいで。」


 紬の手を握って、お弁当をしっかり手渡した。



「ありがとう。いってきます。」


 バックにしっかりと入れて、バス停まで歩いた。遼平は、最後まで紬を見送った。



「よし、頑張るか!」


 気合いを入れてお店の準備に取り掛かった。


 娘が元気になり、親としても嬉しくなった。仕事にも力が入る。



 既にバスは到着しており、輝久がこちらに手招きしている。


 小走りでバスに乗った。



「危ない、危ない。間に合った~。」


「おはよう。何、ずいぶん、お店の前が賑やかだね。」


「おはよー。そう、今日リニューアルオープンだからってお父さん張り切ってたよ。」


 話しながら奥の座席へと移動して座った。


「良かったな。お店、復活して。」


「うん。本当に。」


 バスの窓から見ると、お店に張り巡らされた三角旗のガーランドがカラフルに風で揺れていた。


 盛大なお祭りになりそうだった。


「何時までやってるの? 俺も行こうかな。」


「えっと…夜6時までかな。隆介くんとかも誘ったら?いっぱい来てくれるとお店としても嬉しいし。」


「お?何。営業ですか?」


「まぁ…そんなところですね。」


「紬、今日は大丈夫そうだね。」


 輝久は足の震えや声の調子を聞いて、ほっと一安心した。普通の会話ができている。いつも通りの紬だった。



「…うん。ありがとう。心配かけてごめん。」


「髪も普通だね。触りがいがない。」


寝癖が無いことに残念がる輝久。頭をサラッと撫でた。


「ちょっと、やめてよ!髪が乱れるから。」


「はいはい。ごめんなさいー。」


 謝る気のない謝罪をした。気持ちのない謝罪をされても嬉しくない。


「なぁー、紬。俺ってどうすればいいの?」


 バックについていたキーホルダーをいじり始めた紬。あまり本筋を聞きたくなかった。素知らぬ顔をしようかと俯いた。どう答えればいいかわからなかった。


「……今日って体育あったかなぁ。」


「話逸らすなよ!」


 制服の裾を引っ張った。


「え? 何の話?」


 振り向いて、輝久を見たが、ちょうど学校前のバス停を通り過ぎた。


降りますボタンを押し損ねた。


「あ! ねぇ、バス停、すぎてるよ!!」


慌てて降りますボタンを押したが、次のバス停は1キロ先の病院前だった。


「輝久、なんで、押さないの!」


「紬だって、押してないじゃん。」


「これは、歩くしかないよな。時間、間に合うかな。」


 2人はバス降り口でため息をつく。輝久はある意味ラッキーと感じていた。紬は予想外なことに苛立ちを覚える。


学校のバス停前に陸斗が待っていたのに、スマホをいじっていてこちらに気づいてなかった。


『バス乗り過ごした。次のバス停で降りるから。』


 念のため、ラインを送っておいた。そのことに気づいたのは、学校の生徒たちがまばらになってきた時間になってからだった。


「え、うそだろ。バス、もう行ったのか?」


 陸斗は駐輪場に停めた自転車に乗って次のバス停まで追いかけた。


「おーい。陸斗、どこ行くの?」


ちょうど登校してきた康範が声をかける。


「紬、バス乗り過ごしたって言うから迎え行こうと思って…。」


「輝久くん、いるっしょ。まかしといたら?」


「俺が行きたいから、行くの!」


「あ、はいはい。行ってらっしゃい。」


 呆れた康範は、説得するのを諦めた。

 陸斗は紬が輝久といる時間が長くなることにものすごく嫉妬した。


 自転車に立ち漕ぎして、紬がおりたであろうバス停に向かう。

 その頃の2人は。


「降りたの良いけど、どっちにいけばいいのかな。」


 スマホのマップを開いて位置を確認する前に輝久が紬の左手を握って引っ張った。


「ほら、こっちだから着いてきて。」


 輝久が先にマップでナビを表示させていた。

 行き交う人の中にどんどん進んでいく。


 せまってくる人をかき分けて進んだ。

 茶色の石畳の歩道を花壇に沿って歩いた。

 カラフルなパンジーが植えてあった。


 遠くの方から反対側の歩道で自転車に乗る陸斗が見えた。輝久は気づいていたが、紬は後ろにいて見えなかった。

すれ違いだった。


 学校まではこの歩道をまっすぐ歩いていくと着くはずだった。


 あえて、道を外して、学校に向かった。もちろん、時間は遅刻になる。輝久はどうせ間に合わないだろうと思っていた。紬はそんなことつゆ知らず、なんで手を繋いでいるんだろうと手を見ながら、周りは眼中になかった。


 陸斗は目的地である到着するはずのバス停に着いたが、紬たちが見当たらなかった。


「どこ行ったんだ?」


 輝久はふと足を止める。


「ねぇ、学校行くの、やめちゃう?」


「え、なんで!? 私、今日停学明けなんだよ! 行かないと成績に響くし…。」


 紬はパッと輝久の手を離した。

 輝久はまだ紬のことを諦めてなかった。

 バスの通学時間だけじゃないずっと2人っきりになるのを見計らっていた。


 降りるボタンを押さなかったのもわざとだった。


「いいじゃん。紬、ずっと不登校だったんだもん。今日くらいサボっても同じでしょう。」


「違うよ!あの時は調子悪かっただけで、今は平気だもん。学校は本当は行きたかったんだから。」


 紬の想いを初めて聞いて、ハッと息を呑んだ。自分には解決できなかった何かがあったんだと確信した。


「…俺にもチャンスくれよ。」


「何の?」


 そう言っている間に紬の後ろに自転車の陸斗が止まった。


「ねぇ、2人して何してんの?サボり?」


「陸斗先輩…来たんすか。」


「遅刻しちゃうよね?」


「同時に喋られても困るわ。確かにもう時間は過ぎてるから完全遅刻だけど…。学校の道こっちじゃないよ!紬、停学明けなのにいいの?」


「行くよ、学校。でも降りるボタンを押し忘れたから!」


「そうやって、人を頼りにするからだろ。きちんとボタンを押しなさいよ、毎回。」


 陸斗に紬の行動を把握されていた。

いつもボタンを押すのは輝久の方だった。それに気づいていない紬。


「ご、ごめんなさい。」


 しゅんとなって反省する紬。機嫌悪そうにそっぽを向く輝久。


「んで?行くんでしょ、学校。」


「もちろん行くよ。」


「2人乗りするとまた注意されそうだからな…歩いて行くか。」


 陸斗と紬は隣同士で歩き、後ろから輝久が着いていく。とても気まずい雰囲気になった。


 前の2人はさほど気にしてないが、輝久は不機嫌そうになるべく遠くを見て歩いた。複雑な気持ちだった。


「お店、リニューアルオープンするって?洸から聞いてた。バイトやっと復活するって喜んでたよ。」


「うん、そう。お父さんもすごく張り切って準備してたよ。キッチンカーのお店とか、ハンドマッサージのお店とか呼んだんだって。お祭りみたいに楽しそうだよ。」


「あ、そうなんだ。行ってみたいね。でも、今日部活あるからなぁ…父さんも来るし。」


(絶対来るんじゃねぇ。)


 後ろから念を送るように陸斗の背中に手をかざす輝久。


 少し離れて歩いてたため、2人とも全然気づいていなかった。



「陸斗のお父さん、楽しみにしてたんでしょう。そっちを大事にした方いいよ。ウチのは、またイベントやると思うし、陸斗の部活はあと2ヶ月くらいで終わっちゃうよ。引退するんだよね、3年生は。」


「まぁ、確かに。んじゃ、やめておこうかな。後ろの人も睨んでくるから…。」


輝久の視線を感じてた陸斗が言った。


「何のことですか!?」


 言い訳するように叫ぶ輝久。


「ちょっと、先輩に何かしたの?」


「別にぃ~。」


 頭に両手を組んで口を尖らせた。


「後で、お店の写真とか送ってよ。それで楽しんだつもりにするから。」


「うん。わかった。」




「はいはい。お熱いですね!」

 

 輝久は2人の間を割くように走り抜けて、校門を通り過ぎた。


 学校のチャイムがちょうど鳴った。



 陸斗は駐輪場に自転車を停めた。

 紬は近くにより、昇降口まで一緒に向かった。


「今日、調子良さそうだね。先週と全然違う。」


「うん。大丈夫そう。あ、聞きたいことあって、みんなから言われたんだけど、この間の集会のあれってプロポーズだったのかな?」


「…え? 違うよ。そんな訳ないじゃん。俺たちまだ高校生だよ。結婚できる年だけど、早過ぎない?」


 耳まで赤くして答える。


「…そ、そうだよね。急に話進んでたから、びっくりして…でも、嬉しかった。ありがとう。」


 紬の顔を見て、ドキッとした陸斗は昇降口の靴箱の端っこに手招きして近くに寄せた。

 

 周りに誰もいないことを確かめると、軽く額に唇を押しつけた。


 嬉しかった紬は陸斗のネクタイを引っ張って、大胆にも自分からキスをした。


 横を五十嵐先生が通り過ぎる。


 ギリギリの姿を見られた。

 明らかに密着していたため、既にバレていた。


「おーーーい。停学明けたからって調子乗るんじゃないぞ?」


 出席簿をメガホンのように声をかけた。


「ごめんなさーい!」


「すいませんでした。」


 恥ずかしくなって、 慌てて、2人はそれぞれの教室に走っていく。


「マジか。谷口、喋れんじゃん。話した声、初めて聞いたかも。」


 口に手を当てて、喋ってしまったとさらに恥ずかしくなってしまった紬。


 五十嵐先生よりも先に教室に向かう。


 既にクラスメイトたちは席に着いていた。


 ギリギリに着く紬を見て、皆が驚いている。

 

「おはようさーん。今日のホームルームは抜き打ちテストな。」


 テストの紙をヒラヒラしながら、五十嵐先生は配り始めた。


「えーーーマジか。勉強してないつうの。」


「ここは学校だ。勉強するところだぞ~。」


 生徒たちは爆笑していた。


 平穏な日常が戻りつつあった。



 紬の両耳がまだ赤いことを五十嵐先生は気づいていた。


 若いなっとため息をつく。


 45歳になっても独身の五十嵐先生は羨ましかったようだ。


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