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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第22話

 交通事故で入院して1か月。

 雲隠れしていると噂されていたが、実際は怪我が治らず、学校に通えなかっただけ。


理学療法士の指導を受け、リハビリにも専念して、どうにか松葉杖をついて歩けるようになった。


完治まであとひと息というところか。


 陸斗は久しぶりに松葉杖をついての登校になった。


行き交う生徒には変な目で見られているが、気にせずに教室に向かう。


「おー陸斗! 大丈夫か?!」


「これが大丈夫な体に見える?」


「いや…見えないけど、事故ってたんだな。お前。なんで連絡してくれないわけ。」


「病院はスマホ禁止だからな。」


「嘘だー。病室では使えるよ。俺のこと忘れてたっしょ。」


「あれ、誰だっけ?」


「そんな、頭打って忘れたってこと?」


「知っているよ。康範だろ?」


「冗談きついわ。てか、学校来て大丈夫だったの?」

 

 とぼけてみせた。


「先生に授業を受けに来いって言われたから。来たまでよ。悪い、この荷物持ってくんない?」


 陸斗は康範に荷物を預けた。素直に持ってくれた。すごく助かった。


「おー、陸斗。久しぶりだな。妹と付き合っているって本当かよ?」


 クラスメイトのカースト上位の村上 純(むらかみじゅん)が教室の後ろの出入り口付近で言う。


「は?何の話?」


 気まずい空気が教室内に流れる。そこでチャイムが鳴った。担任の五十嵐先生が教壇に立つ。


「おーー、陸斗。やっと来たなぁ。まだ松葉杖なのか。たくさん、宿題ためといたからなぁ。楽しみにしとけ。」


「マジっすか。最悪だ。」


 陸斗は、机にうなだれた。


「はい、授業始めるぞー。」

 

 クラスメイト達は、噂の真相を気にしながら、いつも通りの授業が始まった。



ーーー


 その頃、紬は自宅のベッドの上でずっと寝ていた。


「紬~、起きなさい。」


母のくるみはここ連日、ずっと寝ている紬を毎朝起こすようにしていた。だが、うんともすんとも言わず、部屋から出ようともしてなかった。

 何度か揺するが、諦めて、リビングの方へ戻っていく。



 ふとんの中でスマホをいじり、見てもつまらないと思いながら、ぼんやりとずっとYouTubeや、 Instagram電子書籍の恋愛漫画を見まくって、やり過ごしていた。



 学校に行かなきゃならないとはわかっていても体が動かない。



 両親は未だ、お店を休業中で、リニューアルオープンのための準備に追われていた。部屋の壁紙の張り替えや、ペンキでテーブルの塗り替え、インテリアの新調をしていた。


 親が仕事していないと思うと、自分も何だかやる気もなくし、陸斗との関わりで自信を無くして、他者との会話ができなくなっていた。


 

 家族との会話もスマホで一言メモにタップするようになっていた。



 紬が学校を休んで、1か月。


 陸斗が学校復帰するという連絡を遠回って、知った。


 陸斗のお見舞いに行った時に従兄である宮島洸から連絡先を聞いていた。


バイトにはもう来ていなかったが、時々、お店リニューアルの手伝いに訪れていて、陸斗の体調を教えてくれていた。


その時も紬は会話はできず、頷くことしかできなかった。


 遼平とくるみはそのことでとても心配して、病院に連れて行こうとしたが、拒否されたため、様子を見ることにした。

 


 ふとんの中は温かく包み込んでくれた。


 きっと学校では嫌なことが起きるだろうと言う予想していた。



 陸斗が事故を起こしてからと言うもの、自分自身を忘れられてしまってることがとてもショックで、たまらなかった。


 別れを切り出されていて、忘れなきゃいけないと思ってたのに、あの仕草。

 

 あの行動はまだ望みはあるのかなと期待していた。


 家族や他の友人は覚えているのに自分だけがぽっかりと穴が開いたように忘れている。



 直前までそばにいたのに、お互いに大切にしていたはずなのに、それなのに。


学校に行ってない理由はそれだけじゃなく、陸斗と紬は、腹違いの兄妹という噂も拡散されていることにも不安を覚えた。


 真実は事実無根のはずで、出回った噂を火消しに回るのも困難な状態。


 裁判で決着つけるかの話も出たが、いくらお金をかけて勝ったとしても代償は大きい。デジタルタトゥーを消すのは無理難題だった。


 輝久からの、ラインが紬のスマホに届いた。


『よっ! 学校、まだ来れない?』


しばらく前から何度も届いていた輝久のラインはいつも既読スルーしていた。



今日は何となく、返事を返そうかなと言う気持ちになった。


『雨降ってないから。』


『梅雨明けは終わったよ?これから晴れが多くなるでしょう。』


『んじゃあ、行けない。』


『どんな理由だよ。』


『周りの目線が気になる。』


『もしかして、例の噂のことかな。陸斗先輩は、もう登校してるよ。取り巻き女子はいるみたいだけど…大丈夫そう。』


『知ってるよ。先輩は、退院したんだよね。』


『紬もおいでよ。』


『無理だよ。行けない…。』


『…そっか。行きたい気持ちになったら連絡して。迎え行くから。』


『うん。分かった。』


 その一言でラインの流れは途切れた。


 前よりも増して、ラインでは会話出来ても言葉を発することが難しくなったら紬は余計に学校に行きづらい状態だった。


 いつまでこのまま続くんだろうと、不安が残る。



ーーー


陸斗は前と同じ様子で授業を受けていた。


 こちらを見てくる同級生すべてに無言の圧を与えて何も言わせなかった。


 近づこうと思っても松葉杖があって、そばに寄ることもできなかった。


 話しかけてくるのは、康範くらいだった。それでも陸斗にとっては好都合だった。


「陸斗、お昼は弁当持ってきたん?」


「ああ。バックに入ってる。」


 松葉杖を避けて、机にかかっているバックを取ろうとすると、康範が取ってくれた。


「あ、ごめん。ありがとう。」


「お安い御用。」


 陸斗はお弁当袋と水筒を取り出した。


「中庭でも行って食べようぜ。ここ、何となく…ね。」


 クラスの中にいても、何となく重い雰囲気。

 みんな聞きたいけど、聞けないと言うような視線を感じて何だか違和感を覚える。


「あー。そっか。気分転換にもなるしな。」


 康範は陸斗の代わりに自分の荷物の他に陸斗の荷物を持ってくれていた。陸斗は松葉杖を必死に使って、手すりを、借りながら器用に階段を降りていく。



「これさー、普通に歩くより疲れるよな…。しばらく、病室に篭りっきりだったから運動不足解消になっていいんだけどさー。」


 移動する度に周りの視線が痛い。



「ねえねえ。あの人って例の人の息子だったんだよね。公表されてなかったけど、確かに似てるところあるよね。」


「うん。親子ってことなんだよね。まさか、この学校にいるとは思わなかった。」


 女子2人が階段の踊り場でボソボソ聞こえた。話の内容は丸聞こえだったが、陸斗は聞こえてないふりをして通り抜ける。


 些細なことですぐ反応するのも疲れるだろうと考えていた。



 この、学校にはエレベーターというものは無かった。


 怪我してる人にとっては辛いものがあったが、意外と平気だと思っていた。



 中庭に着いて、


「あー、陸斗先輩! お久しぶりです。事故あったそうで、大丈夫ですか?」


 美嘉が陸斗に気づいて声をかけた。横には隆介と輝久もいた。3人はいつものようにお昼を一緒に食べていた。康範はそれを目論んでここに陸斗を呼んだ。


「あ~…。ごめん、誰だっけ。怪我してから結構忘れてること多くて、隣にいるそこの子は名前は忘れてるけど何か見覚えはある気がする。」


 陸斗はベンチに座って、輝久を指差して言う。名前は忘れているけど、顔は覚えていたようだ。


「あ…庄司輝久です。1年で、谷口紬の幼馴染です。」


「…ふーん。そーなんだ。君たちは?」


 特に反応することなく、対応した。

 本当は非常に敏感に気にしているのを隠した。


「俺は1年の里中隆介です。美嘉の彼氏です!!」

 

 強気発言だった。



「私は1年の森本美嘉です。元陸斗先輩に片思いしてました!今は…隣の人の彼女です。」


 静かな小競り合いが繰り広げられている。


「みんな1年か。んで、なんでここに誘ったの?康範。」


 何か企んでいるんだろうと、察知した。


「……谷口紬ちゃんの同級生だから。ちょっと連れてきてみた。」


「……。俺、頼んでないけど。」


「そんな冷たいこと言うなって…。記憶が戻ってないこと分かるけど、後輩だけど、紬ちゃんのメンバーに会えば思い出すと思ってな。」


「今、別に良いし。」


 不機嫌そうに、陸斗は持ってきたバックを背負って、松葉杖をついて、来た道を戻ろうとした。



「陸斗先輩。足、大丈夫ですか?」


 中庭から校舎に入る出入り口で、いたのは磯村幸子だった。幸子のことも忘れていた。


「ごめん、誰だっけ。悪いけど、避けてくんない?」


 何だか腑に落ちない態度でその場から逃げ出したくなった陸斗はさらりと交わそうとした。


「谷口さん。しばらく、学校来てないそうですよ。大変ですね、《《お兄さん》》も。」



 幸子を顔ギリギリにマジマジと睨みつけた。


「2度とその言葉、発するな!」


 ダンッと引き戸窓のふちをたたいた。陸斗の手から血が滴り落ちている。


 陸斗の逆鱗に触れたらしい。


 重苦しい空気が流れ始めた。輝久たちもその様子を目撃していた。


 紬のことも思い出してもいなければ、週刊誌沙汰になったことも解決できていないし、事実ではない。


尚更、松葉杖で動きが自由に出来ないストレスも重なってイライラが募っているのもある。


「ちょっと、幸子。さっきのどういうこと? なんで、陸斗先輩がお兄ちゃんって言っちゃうの?」


 美嘉が幸子に歩み寄って言う。


「…だって、私が情報流したんだもん。」


「は?!」


そこにいた3人は思わず大声で叫ぶ。


「なんでそんなことするんだよ!?紬の家族とか、陸斗先輩の家族とか、学校だって、大変なことになってんだぞ! それ分かっててやってんの?」


 輝久は形相を変えて、幸子を問い詰める。


「…ムカついたから。幸せそうな2人を見てると腹立つから週刊誌に情報売ったの。相当喜んでたわ。」



 殴りかかりそうになる輝久を両腕で必死で止める隆介。力が強すぎる。


「ちょっ、輝久。相手は女子だから! しかも格闘苦手なんだから、やめておけって。怪我するぞ!」



 6秒経って、怒りが多少和らいだのか、深呼吸して、体をストレッチさせた。


 輝久は、黙ってその場を立ち去った。


 殴る価値もない人だと気持ちが消えた。


 ちょうどそこでチャイムが鳴った。


 ろくにお弁当も食べる暇がなかった。


 「ちょっと幸子のやり方にはかなり引くわ…。」


 美嘉はボソッとつぶやいた。

 隆介もふーとため息をついてことなきを得てよかったと安心した。



 陸斗は保健室で包帯を巻いていた。ドアに殴ってできた血が止まってなかった。


「大越くん。気性が荒くなってるわね。退院したばかりなんだから、大人しくしてなさいよ!傷口開くわよ!」


 ペシっと事故で怪我をしたところを軽く叩く。


「いったー!保健の先生がそう言うことする?! 優しくしてよー。」


 半べそをかいた。

 康範は椅子に座って、クルクル回った。


「陸斗ー、ほんと、やりすぎだわー。」


「そうよ。友達から制御してちょーだい!」


「は?俺も関係してんの?」


「うん。もちろん。」


「友達のお世話も大変っす。」


 保健室では笑い声が響き渡る。

 この空間は居心地が良かった。


 束の間の休息だった。


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