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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち


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第21話

学校の教室内はざわついていた。

陸斗のクラスメイトたちはネットニュースの隠し子騒動で盛り上がっている。




「ねぇ、昨日のニュース見た? 大越陸斗、SATOSHIの息子だったんだね。知らなかった。あんなに有名だったのにいつの間にかいなくなって、突然ニュース出てきたよね。確か、奥さんはコメンテーターだったかな?」



「うん。見たよ。すごいテレビとか雑誌とかインスタとかでたくさん出てたかと思ったら、突然、出なくなったよね。週刊誌では不倫とか言っていたかな。そして、今になって隠し子でしょう。芸能人ってやること違うよね。飛び抜けてるって感じするわ。」




「てかさ、隠し子ってことはさ、あの2人付き合ってたじゃん? あの1年の谷口紬だっけ?あの2人付き合ったらやばくない? 腹違いの兄妹でしょう。禁断な恋ってことになるんじゃないの?」


「うわぁ、やばいじゃん。」




 近くにいた康範があることないこと言う女子グループの中に入って睨みつけた。何も言えずに通り過ぎる。



「え、何、あいつ。何も言わないで立ち去ったよ。」


 女子達は、康範を見て不機嫌になった。



(…ったく、もう。こう言う時にビビって欠席するんだから、陸斗は。事実はどうなってるんだよ。)




 腕を組んで廊下にある窓をのぞいた。

 事故のことを知らされてない康範はズル休みだと思っていた。




昼休み、中庭に目をやると見慣れた1年のグループがお弁当を広げて食べていた。




「なぁ、輝久。紬ちゃん、今日休んでるけど、例の噂のことで雲隠れしてるのかな。陸斗先輩も休んでるらしいんだよね。腹違いの兄妹って本当なのかな。血がつながってたかもしれないからってことだったのかな。」

 

 隆介はお弁当のウィンナーをつまみながら、話す。


「…俺は、今朝、紬と会ってないし、連絡も取れない。わからない。」

 

 うつむくように輝久は言う。

 美嘉は心配そうにため息をつく。


「せっかく仲良くなれたかと思ったら、紬ちゃん、初めの頃と変わりない感じになっちゃったからがっかり。しかも、きっと紬ちゃんも知らなかった情報だったんじゃないの?あれって。ショックだったんじゃないかな。」



「うん、だよね。俺らどうすることもできないよね。」



 お通夜みたいに3人はお弁当を黙々と食べていた。静かな紬がいた時はいろんな話で盛り上がってたのになと寂しさを覚えた。


一方、数時間前の紬宅では。


「あのネットニュースのことって嘘だよね?」


 冷蔵庫の整理をする母のくるみ。沈黙が続く。質問するのは紬ではなく、拓人だった。

 紬も階段から降りてきて、様子を伺った。


「ねえ、母さん。本当のこと教えてよ!」


「紬は私とお父さんの子だよ。大越さん家とは全然関係ないよ。確かに少し前に不倫のニュースであったけど、あれは遼平と結婚する前の話だから。」


「そうなんだね。でも、なんで、疑われるようなニュースが流れるの?!このままだと、そのニュースが本当だと思われちゃうよ? 俺も学校で聞かれるし、行きたくないよ。」


「しばらくお休みしてていいよ。たぶん、この騒ぎが落ち着くまでは疑われるから。」


 遼平が寝室から降りてきた。朝早く起きるはずの遼平でさえも、寝坊した。夜中に良からぬことを考えすぎて眠れなかった。


「おはよ。紬と拓人…しばらく学校はお休みしときな。お店もしばらく休業するから、ゆっくり休もう。」


 ため息をついて、椅子に座る。


「母さん。疑うわけじゃないんだけど、あれは事実じゃないよね。」


「う、うん。当たり前じゃん。紬は結婚してからの子だよ。この間のたまたま来てた大越さん家族が来てたから目つけられたんじゃないの。でも、なんであのタイミングで…。」


 心の中で安心した遼平はコーヒーを飲みながら考える。

 本当のこと言っているのに取り調べされている気分で落ち着かないくるみ。

 紬と拓人も椅子に座った。


「誰かに何か恨まれているのかな…。だって、そんなリークする人いないと分からないんじゃないの?昔の話持ち出すのも変だし。このネタで困るってお店もそうだけど、紬と大越さん家族だよね。」


 ため息をつく。


「お店、大丈夫なの?お父さん。」


「あ、あぁ。まぁ、2ヶ月くらいならどうにか休んでも、対処できるよ。お店の名前変えたり、メニュー変えて心機一転してもいいし、それはどうにかなるけど、紬と陸斗くんの関係がネットニュースであることないこと書かれているんだよね。」


 遼平はスマホを確認し、ニュースを大体のニュースサイトアプリで読み漁ってみた。


 似たような記事が出回っている。事実ではないはずの腹違いの兄妹だとか書かれている。


 そして、高校に取材を受けた生徒のコメントであの2人は交際してるとかの情報も書かれていた。


今、学校に来ていないのは隠れるためだとか言っている。


芸能人でもなんでもない2人はクローズアップされている。


 元モデルという代償は大きかったのかもしれない。


 ふと遼平も過去を振り返り、まさか陸斗が自分の息子なのかもしれないのかなと想像を掻き立ててみたが、首を振ってあり得ないと、気持ちをきりかえた。



紬はバスケットの中に入っているパンをつまむと、部屋に戻った。



  荷物を取りに行ったらしく、すぐに出かける準備をしていた。


「紬? どこか出かけるの?」


 くるみが聞いた。


「えっと…。買い物行こうかなと思って。」


「大丈夫?外出かけて。声かけられるよ?」


「う、うん。変装していくし、メガネとかつけたりするから。」


「ふーん。気をつけてね。」


 どこに行くかは告げずに紬は外に出た。

 

 メガネとマスク、帽子をかぶってなるべく素顔がわからないようにした。

 

 バス停に行って、時間を確認した。


 本来ならば学校に行って授業に出ている時間だったが、気にせずに目的地を目指した。




ーーー

病室で暇を持て余していた陸斗は、スマホを眺め、ラインのメッセージを見返していた。


 記憶が所々曖昧で、顔と名前が一致していない。

 文面を読んでも、違和感でしかない。


 ずっと画面を見すぎて、疲れてきた。


 テーブルにスマホを置いて、起こした体をまた横に寝た。


 足につけたギプスが硬かった。


 ノックの音が聞こえる。


「はい。どうぞ。」


「お邪魔~。」


 従兄の宮島洸がやってきた。両手には果物を持ってきていた。


「洸? 何してんだよ。」


「お。俺の顔は覚えてんのね。」


「そりゃ、知ってるわ。今日、大学は?」


「午後からの授業だったの。学校の都合でね。見舞いに来たって訳。ほら、漫画でも読むかなと思って持ってきたよ。」


「さんきゅー。助かるわ。暇で仕方なくてさ。スマホも長時間は目が疲れるしさ。お、これ、好きなやつ。やっぱ、バスケ漫画だよな!あ、最近映画にもなってたよな。」


「ああ。確かに。見に行きたいよな。でも、この足では当分無理だな。」


 ベッド横のパイプ椅子に洸は座って、陸斗のギプスを撫でた。


「悲しいな…。」


「そういや、ネットニュース見たよ。おじさん達大丈夫だった?」


「大丈夫も何も、自宅前にマスコミ張り込んでるってよ。嫌だねぇ。俺自宅にいなくてラッキー。てか、洸もバイト先…。」


「そ、そうだね。しばらく休業って言われたから稼げないかな。よく、覚えてたな?」


「あ、それは、父さんから聞いてて、洸のこと心配してたから。覚えてないけど…。」


「忘れているのは、紬ちゃんでしょう。店長の娘さん。」


「…うん。覚えてない。」


「なんでだろうね。あんなに自慢してたのに。」


「俺、自慢してたの?」


「取るなよって、言うから。」


「…ふーん。そうなんだ。でも、今どうすりゃ良いかわからない。感覚が前と違うから、初対面って思うし。」


「んじゃ、俺取っちゃおーかな。」


「…?! って別に俺、関係ねえし。」


 動揺した陸斗。肩を軽く叩く洸。


「嘘だよ。思い出すって、すぐに。動揺しまくりじゃん。あ、飲み物買ってくるわ、待ってて。」


 病室を出て、近くのラウンジに行こうとした。陸斗の病室を出ると、予想外の人が廊下手すりのところで待っていた。


「あ……。どうも。」


 洸は話を聞かれていたかなと思って、緊張した。


 廊下で待っていたのは紬だった。


 心配で様子を見に来ていた。

 静かに会釈する。


「飲み物買いに行くんで、よかったら一緒にどうですか?」


 紬はこくんと頷いた。


 きっと1人で病室に入ると会話が成り立たないだろうと予測した。紬は仲介に洸がいてもらえたら良いと考えた。


「何か飲みます?遠慮せずに好きなもの良いですよ。断られると店長に怒られそうだから。」


 申し訳なさそうに小さなペットボトル

のミルクティーを指差した。ボタンを押して手渡す洸。


 何度もお辞儀した。


洸は、続けて陸斗用と自分用のコーラのペットボトルのボタンを押した。


「あの…ニュースの件って、あれ、本当のことじゃないですよね。俺、両親が芸能関係で働いてたんで知ってるんですけど、きっと誰かのリークで作られたと思いますよ。」


「……。」


 紬は瞬きして頷いた。


「やっぱり。嘘が本当になることもよくありますから。裁判でも起こさないと取り消せないですし…。」


 スマホを取り出し、メモに入力した。


『アドバイスありがとうございます。』


洸は、ハッと気がついて、紬は話せないんだと言うことがわかった。


「あ、ああ。マスコミには、気をつけて。んじゃ、病室入ってみる?」


 陸斗の病室を指差した。

 そのまま後ろをついていく。


「りーくと。お客さんだよ。」

 洸がコーラをテーブルに置いて、体を横に逸らした。後ろには紬がいた。


「…どうも。」


 知らない人かのような挨拶だった。

 黙って洸が準備したコーラをグビグビ飲んだ。


「ちょっとつれないんじゃない?せっかく、お見舞いに来てくれたのに。」


「だって…どう接したら良いかわかんねえもん。俺って事故起きる前どんな感じだったかな…?」


「……。」


 何となく洸もいたこともあり、陸斗のこの調子のため、初対面みたいに紬は話せなくなった。


「あ、紬ちゃん、多分話しにくいんじゃない?さっきみたいにスマホで会話してみればいいんじゃないのかな。」


 洸がアドバイスした。紬はスマホを取って、メモに言葉を連ねた。


『今、痛いところはないですか?』


 スマホの読み上げ機能で読んでもらった。AIと話している気分になった。


「えっと、今は落ち着いてるから、動かさなければ大丈夫。」


『それならよかったです。』


「会話できてるじゃん。大丈夫そうだね。俺、午後の講義あるからそろそろ行くね。紬ちゃんは来たばかりだからもう少しいてあげて。んじゃ、お大事に。」

 

 洸は有無を言わせずに邪魔しちゃいかんと早々に病室を立ち去った。


 紬は2人を何度も見て、不安になった。



『私は帰った方がいいかな。』



「いや、別にいてもいいよ。気にしないで。でも、大した話もできないけど…。」


 恥ずかしそうに陸斗は両手指を重ね合わせた。


 さっき貰ったミルクティーを飲もうとベッド隣の椅子に座った。


「…なんか、ごめんね。全然、覚えてないみたいで、俺らどういう関係かもわかってないんだよね。ラインメッセージも見返すんだけど、自分が送った感覚が覚えてなくて、この写真知ってる?」


 陸斗はスマホの写真アプリの中にプラネタリウムで買った惑星のキャンディが映っていた。


 紬は大事に写真をとっておいたことに嬉しく思った。


『前にプラネタリウム見に行った時のお土産で買ったキャンディです。』


「あー、そうなんだ。教えてくれてありがとう。」


 それでも、どこか壁のある接し方だった。まだ慣れていない模様。


 紬はどこか寂しい想いを感じて、席を外そうとした。



『そろそろ帰りますね。』



「あ、うん。それじゃぁ、また。」


 また会うことはあるのか心配だったけども、念のため言っておいた。まだ他人行儀な関わり方だった。


 胸が締め付けられような想いを感じた紬は病室から廊下に出た。



 陸斗は未だ今の紬と付き合っていたかどうか信じられなかった。


 本当の自分はきっとそうじゃなかったんじゃないかと深層心理で感じていて、それでも関わるのにどうしたらよいか混乱している状態でもあった。


洸が持ってきてくれた漫画本をペラペラとめくり、漫画の中でやっているかのようにバスケに浸った。



 病室内は平和そのものだった。


 個人情報の関係でマスコミが入ってくることはなかった。


 惑星キャンディの写真を待ち受け画面に変更した。


 紬と一緒に行ったことは覚えていないけれど、色合いがとても綺麗だった。


 時々、胸の奥が、ざわざわとくすぶった。


 紬は声で会話できなかったことに寂しさが込み上がった。


前のような関係に戻れるのかなと心配になった。


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