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シリウスをさがして…  作者: もちっぱち
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第18話

 星がキラキラと輝く夜空の下に、閉店間際のカフェ「シュナイザー」にさとしは車をとめて、運転席を出た。


陸斗と紬は後部座席からそれぞれおりて、さとしの前に行き、深々とお辞儀した。


「父さん、紬、恥ずかしくてあまり喋れないから、ありがとうだって!」


「あ、そうなの。人見知り? どういたしまして…。俺も一緒に挨拶行くから。陸斗、お前も一緒に来て。」


「え? 俺も?何か、 ハズイし、待ってちゃダメ?」


「なんで一緒に来たか疑われるから。来いって。」


「えー、分かったよ。」


 そう言いながら、紬を先頭にカフェのドアを開けた。


「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、本日、閉店になりま…。あれ?おじさん!?」


お店を開けて、すぐに出てきたのは、宮島洸だった。大越さとしの甥っ子である。紬のことはお客さんだと思い、すり抜けて、さとしの方に目が入った。


「え、は? 洸、なんでお前、ここにいるんだよ。大学は? あぁ、バイトしてんの?」


 さとしは久しぶりに見る洸に目を見開いた。


「そうだよ。なんで、おじさんここに来てるのよ。もしかして、食べに来たの?」


「違うよ。ほら、これ。陸斗の彼女なんだって…。」


「え、陸斗じゃん。何してんのよ。え?彼女? ん?一緒にご飯ってこと?」


 洸は紬を見ても分からない。


「姉ちゃん!? 何してんの? え!?彼氏?初めて聞くけど、嘘。すいません、何かの間違いじゃないんですか?」


拓人が前の方に出てきて、紬の顔を見て、横にいた陸斗を頭の先から足の先まで見て再確認した。


「こんな、かっこいい人が彼氏なんてあり得ない…。」


 拓人はコツンと紬に軽く叩かれた。

 小声で。


「どういう意味?!」


「え!? 拓人のお姉さん? 紬さんだったんですね。知らなくて、ごめんなさい。陸斗の彼女さんだったなんて…。」


 洸も信じられずに驚いている。


「何かトラブルですか?」


 ホールの方で何やら揉めているのかと思って奥から慌てて、紬の父の遼平がエプロンで手を拭きながらやってきた。


「あ! 店長!久しぶりです。その説はいろいろとお世話になりまして…。」


 さとしを見るとすぐに深々とお辞儀をする遼平。


「本当、久しぶりだな。いやいや、こちらこそ、お店の方も順調そうだな。お店を遼平に任せて本当に良かったと思っているよ。全然、顔出してなくてごめんな。本業の方が忙しくなってきて…。しかも甥っ子まで世話してもらって申し訳ない。」


 さとしもさっと頭を下げる。


「それで今日はどうしたんですか?」


「いや、ほら、紬ちゃんと家の息子の陸斗が、同じ学校っていうもんだから、一緒に車乗せてきたんだよ。」


「大越陸斗です。紬さんとお付き合いさせてもらってます。よろしくお願いします。」


こちらも深々と頭を下げた。遼平は感心していた。


「え、そうだったんですか。なんだ、最近の紬の様子がね、変だったからそういうことか。こちらこそ、こんな娘ですが、よろしくお願いします。車に乗せてもらったみたいですいません、わざわざありがとうございます。」


 遼平は紬の頭をおさえて一緒にお辞儀した。


「紬ちゃん、奥さんに似ているよね。そちらにいるのは、弟くん?」


「そうなんですよ。紬…似てますかね。弟は、拓人って言います。」


 遼平は拓人の頭をぐいっとさげた。


「谷口拓人です。よろしくお願いします。」


 恥ずかしそうに小さい声で話した。


「拓人、声が小さいぞ。」

「うっせー。」


 洸が注意した。仲の良さが伺える。


「もし良ければ、一緒にお食事いかがですか?」


「え、本当? 遼平の食事、食べるのは何年振りかな。待って、紗栄に電話しないと…。」


「紗栄さんもぜひ、連れてきてもらって良いですよ。」


「娘もいるんだけど、良い? お会計きちんと払うから。」


「いやいや代金いただけないですって。」


「いやいや、そこは払うし。んじゃ、今から2人連れてくるから、陸斗、待たせてもらえるかな。」


「良いですよ。紬、案内してあげて。」

 

 

「あ、はい。陸斗先輩、こっち。」


さとしは頷いて、車に戻った。家に一度帰ってから紗栄と悠灯をシュナイザーに連れてくることにした。


 待っている間、なぜか、アウェイ状態の陸斗が谷口家のカフェのテーブルに座っている。


「洸くん、君もせっかくだから、どう?甥っ子だったんだね、大越店長の。あれ、もしかして、スコフィッシュフォールドの名前のとき、本当小さいときにお手伝いしてたあの洸くん?」


「実は…そうなんです。恥ずかしながら…。まさか、シュナイザーになってからおじさん関係してると思わなくて…関わってたんですね。と言うか、娘さんいたなんて知らなかったです。」


「そう、大越店長って呼んでるけど、お店の軌道に乗るまでは経営オーナーだったのよ。いまだに店長って呼んでしまうわ。あれ、紬と会ったことなかったっけ?」


紬はぺこりと洸にお辞儀した。


「ええ。はい。お会いする機会がなく…、今初めてです。陸斗の従兄です。よろしくお願いします。」


「ちょ、洸。あまり、紬を見るなよ!」


「は? 何言ってるんだよ。やきもちかよ。はいはい。お熱いね。」


 陸斗は紬を隠そうとする。

 洸と陸斗のじゃれあいがおもしろくなった。


「え、俺も混ぜてよ。」


拓人が仲間に入りたそうだった。

何だかよく分からないが、突然の腕相撲対決をしている。審判は拓人。

 紬は呆れながらも様子を伺っていた。


「あれ、紬。帰ってたの? ん?何の騒ぎ?」


 2階から降りてきた母のくるみがレジ横に立っている紬に声をかける。


「あれ、あの子。お父さんに似てる…。誰?紬と同じ学校の制服着てるけど…。」


「大越陸斗先輩。同じ学校の…。」


「ああ、そういうこと。紬の彼氏ってあの子なんだ。お父さんにそっくりの子、好きになるんだね。」


 照れて下を向く紬。


 恥ずかしくて、何も言えなくなった。


 わちゃわちゃと男3人が盛り上がってるうちに、大越家族が揃って到着していた。



「こんばんは。お邪魔します。」


 紗栄が横に悠灯を連れて中に入ってきた。差し入れにお酒と袋いっぱいの食べ物を持ってきていた。


 悠灯は恥ずかしそうに紗栄の横に付いていた。


 さとしは車を停めて最後にやってきた。


「紗栄さん。お久しぶりです。お元気でしたか?」


 紬の母くるみは、陸斗の母の紗栄に近づいた。


「元気よ、元気。何十年振りかな。くるみちゃんと遼平くんが結婚してるなんて知らなかったから。2人もいろいろあったものね…本当色々。」



 含みを持たせるように紗栄は言う。



思い出したくないこともあったなあと

振り返る。

 表情が怪しくなってきたが、気持ちを切り替えて首を横に振った。


「まぁ、過去のことは、忘れて、それぞれの生活で幸せに暮らしてることだし、言いっこなしだよね。くるみちゃん。」


「そ、そうですね。そう言ってもらえるとありがたいです。遼平が料理に腕を振るうのでぜひ召がってくださいね。」


 そう言うと、キッチンの方に戻って行った。


 紗栄は陸斗たちがいるテーブルに座った。


 拓人と洸は仕事の延長線上で、洋食の食べ物が乗った大きいお皿を次々と運んでいく。


 もちろん自分達もごちそうになるものだった。


 デミグラスソースのハンバーグと、昔ながらのナポリタン、ローストビーフ、エビフライ、カニクリームコロッケ、オムライスと次々と出てきた。


 お店用の作りおきしていたものもあったため、すぐにさらに盛り付けることができたようだ。


 それぞれ、談笑しながら、舌つづみしている。


「遼平もまさか、ここまで成長してるとはなぁ…。俺も見習わないとダメだな。」


「何言ってんの。さとしはもう別な仕事してるでしょう。子どもたちに料理振るうだけで十分やってるんだから気にしないの! 店やるんだったら別だけど…。」


「あ。そう?」


「本当、まだまだですよ。定番メニューしかお店に出せてませんし、変わり種のメニューとか考えれば良いんでしょうけど、まだ勇気が出ないと言うか。」


 遼平がそれぞれのお皿におかずを取り分けながら言う。


「何言ってんのさ。その定番メニューを看板にしてるってだけでも凄いことなんだから。なかなか安定した美味しさを提供するっていうのも大変なことなんだよ。大丈夫、味は最高だから。」


 さとしはもぐもぐと食べながら話す。遼平は照れながら頭をかいた。


「ありがとうございます。そう言ってもらえると励みになります。」



別な座席では


「なぁなぁ、洸。本当に紬のこと知らなかったの?」


「え、なんで?」


 頬にハンバーグをつめながら、言う。


「だって、ここでのバイト長いんでしょ?今まで紬に気づかないってことある。」


「いや。本当だって、拓人は店の手伝いするけど、紬さんは部屋に籠るタイプだったからって店長が言ってて、裏口から出入りできるし、俺も会うタイミング無かったの。今日、初めて顔を拝見しました。」


 恥ずかしそうに紬は下を向いて、会釈した。


「別に改めて顔確認せんでもいいけど、そこまで会わなかったのか。紬、人前苦手だもんな。そう言うこともあるか。」


「陸斗、さっきから何なの?俺にどうして欲しいの?」


「いや、紬、狙われると思って…年齢近いし、洸も女性遍歴多いだろ?手を出されそうで。」


「は? 俺を勝手にたらしみたいに言うなよ。俺の何を知ってのよ?!」


 下をぺろっと出して陸斗は


「何も知りません。聞いてません。」


「勝手に妄想で広げないでもらえる? 俺は交際歴ゼロです。モテたことは一度もありません。なので、ご心配なさらず。むしろ、陸斗の方だろ? モテるのは?! 気をつけてくださいよ、紬さん。こいつは危険だから!」


「ちょ、待てよ。そう言うこと言うなって洸、俺は今まで清算きちんとしているから! 真面目だし。」


 紬は陸斗を横目で睨む。疑り深い。


「ああああ…。何だか、視線が痛いんだけど。紬? 俺は大丈夫だから。」


 冷や汗が止まらない陸斗。


「誰にでも優しいってどうかな。俺みたいなビシッと割り切った性格の方が大事だと思うけど…。」


 洸は腕を組んで自分アピールをする。似たような性格だった紬は何度も頷いて同感する。


「…紬、何で俺を選ぶ?」


「ほら、やっぱり一途が、良いってことよ。」


「………。」


 恥ずかしすぎて何も言えなくなる紬。お皿にも盛り付けたパスタを黙々と食べた。


「まーまー、これから変わるでしょ?浮気しないもんね。陸斗くん。」


 肩をバシッと叩く洸。叩かれた肩を左手で撫でた。


「絶対ないとは言い切れないけど、努力します。」


 こめかみをぽりぽりとかいた。

 紬はニコッと微笑んで受け止めた。



 ーーーすべて食べ終わり、片付け方が始まった。さとしと紗栄も申し訳なさそうにキッチンへとお皿を運び入れる。

 洸と陸斗も、睨み合いながらどんどん食器を運んでいた。


 紬はテーブルをタオルで綺麗に拭いていた。


「あと、良いですよ。やっておきますから。」


遼平が片付けているさとしに声をかける。


「本当美味しかった。ごちそうさま。これ、代金です。」


 お金を入れておいた小さな封筒に手渡した。受け取れないと小競り合いが続いたが結局は受け取ることになった遼平。


 最初から最後までおとなしかった悠灯も、全員でお辞儀した。


「ごちそうさまでした。お邪魔しました。洸、ウチまで送るか?」


「いや、大丈夫。バイクあるから。」


 洸も帰る支度をしていた。

大越家族はお店のドアを開けると、外にある車に乗り込んだ。


 エンジンをかけて、紗栄が運転席に移動する。お酒を飲んだため、助手席に移動したさとし。


お茶だけで過ごしていた紗栄は運転席に座った。


 お祭りが終わったように大越家族が帰ると、お店は一気に静かになった。



 さとしは陸斗に伝えなきゃいけないことがあるなと頭の中でモヤモヤ考えながら、走る車の窓の外を見ていた。


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