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第3話

「と、とりあえず中で話聞こう!」


 抱きついて離してくれなかったので、抱っこしながら部屋の中に戻った。

 赤ん坊をあやすように背中をポンポンと優しく叩き、頭を撫でて続けたら少し落ち着いたようだ。


「ぐすっ……ごめん……」

「いや、大丈夫だ。……にしても、一体全体どういうことなんだ……? 『捨てる』? とかなんとか……」


 椅子に座らせて、話を進めることにした。

 するとまた涙ぐんでしまったが、声を震わせながら説明してくれた。


「だって……昨日既読無視するし、放課後家いっても怖い顔されたし……」

「……ん?」


 『あれ?』と思い、スマホを確認した。すると、玲美に送信できてなかった。

 っていうか、昨日の人玲美だったのかよ!


「それで……わたしのこと嫌になって引っ越しちゃうかもしれないっで思ったしぃ……! やだ! 離れ離れになりたくないの!」

「な、泣くなよ玲美! 俺引っ越さないから!」

「え……ほんと……?」


 また泣き出しそうな玲美にそう伝えると、目を見開いて俺の方を向いてきた。


「もちろん! ……ってか、なんでそんなことを……?」

「だって、荷物とか運ばなきゃって言ってたから……」

「あー! それはなぁ、俺の部屋に妹が引っ越してくるんだよ。俺が引っ越すわけじゃないから!」


 必死の弁解をすると、続け様に玲美が質問してくる。


「じゃ、じゃあ昨日の既読無視は……?」

「送れたと思ったら送れず、画面を開いたまま寝ちゃった」

「怖い目で他人行儀だったのは……?」

「コンタクトつけてなくて、誰かわかんなかったからだ」


 玲美は安堵したかのように肩を下ろして椅子にもたれかかる。


「よかった……ほんとうに……」

「っ……!」


 ……俺は本当に馬鹿野郎だよ。ついさっきは、生意気な玲美がこんなに弱ってるのを見て少し優越感を覚えていた。

 だけど玲美はこんなにも傷ついていたんだ。過去に戻って、そう思った俺をぶん殴ってやりたい。


 ギュッと拳を握りしめていたが、それを緩めて、玲美の涙を拭き取った。


「ごめん、玲美」

「ゆーすけは別に謝らなくてもいいよ……。わたしが勘違いしただけだし、ゆーすけに嫌な態度とっちゃってたし……」

「いいんだよ、別に。俺は……泣いてる玲美より、少し生意気で、笑顔を見せる玲美の方が好きだから」

「ふぇ……?」


 ……ちょっと待て。イタいッ! イタタタタ! なんだ今の俺の台詞!? キザすぎるだろうが……!


「あ、いやぁ〜、忘れてくれ今の言葉!!」

「や」

「ひぃん!」


 小悪魔的な笑みを浮かべ、玲美はこう言う。


「絶対に忘れないから♪」

「こうして黒歴史に刻まれて行くのかぁ……」


 まあでも、玲美がいつもの調子を取り戻してくれてよかった。


「学校行けそうか? 無理そうだったら一緒にサボるか?」

「んーん、行こっ。でも今日一日は私の言うこと聞いてもらうから」

「ま、今日は大人しく従うよ。明日からちゃんとしろよなー?」

「ん〜〜?」

「聞こえないふりをするんじゃない」


 椅子から立ち上がり、玄関まで歩いて外に出た。早速しゃがみ、おんぶして運送しようとした。

 しかし、背中に乗ることはなかった。代わりに、玲美は俺の片手を柔らかい手でぎゅっと握ってきた。


「今日は、これでいい」

「え、じ、自分で歩くのか!?!?」

「そこまで驚かなくてもいいじゃん……。ほら、行こ」


 玲美に手を引かれ、俺たちはそのまま学校に向かう。

 玲美も成長するんだなぁ……と、しみじみと幸福を噛み締めながら足を進める。


「あ、そうだ。明後日俺の家でパーティー的なことを開くんだけど……玲美来るか?」

「面倒くさい」

「だよなぁ」

「けど……ゆーすけがいるなら、行く」


 玲美は、ほんの少し微笑む。俺は少しドキッとしてしまった。

 ツンデレやクーデレと並ぶ、新たな『ダルデレ』というものか……?


 そんなことを思いながら俺たちは学校へ向かった。



###



 私が一番好きなことは最高のダラダラすること。

 けど、その最高のダラダラには色々なものが必要になる。暖かい部屋に、ふかふかのベッド、心地いい枕……。けれど、私は一番大事なものを昨日まで忘れけてた。

 失いかけて、初めて自覚できた。


 その一番大切なのは――


「――ゆーすけ」


 自然と口からこぼれ出ていた。

 学校へ行く途中で、ゆーすけは私の方に顔を向けた。


「ん? どうした?」

「私、おばあちゃんになって死ぬまで、最高のダラダラを続けたいなって、思っただけ」

「あはは、お前らしいな」


 ゆーすけにおんぶされるのは好き。安心するから。

 けど、まだ安心するには早いってわかった。


 だから――今日から覚悟しとけよ、ゆーすけ。

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