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リックと黄金の神鳥  作者: sick
7/18

リックと黄金の神鳥Ⅵ

 眠っているエイリーの近くをラクシュナが通る。


 再びエイリーの近くをラクシュナが通る。


「ん・・・・」


 エイリーがそれに気付いて目を覚ますと、ラクシュナはまじまじとエイリーを見つめていた。


「ラクシュナ」


 そう言って小さい子が自分を指差している、少し考えたエイリーがラクシュナの自己紹介ということに気付いてエイリーは言う。


「エイリー」


「わ、しゃべった」


 ラクシュナは驚いてその場に倒れるように座る。エイリーがそれを見て目を丸くしているとラクシュナも目を丸くしている。


 ラクシュナがエイリーに手を伸ばすと、エイリーはその手に嘴を向ける。


 ぺたぺたとラクシュナがエイリーの嘴を触って、手のひらで叩いている。


 何か覚悟をしたようで、ラクシュナがエイリーにニコニコして言う。


「のっていい?」


「えぇ」


 この背中には今代の乗り手であるリック以外乗せるつもりはないエイリーだが、どこのお子さんか知らないが乗せるわけには―


「わあ・・・!」


 ラクシュナを背に乗せたまま城内を走るエイリーが玉座のフィルに見つかり、ラクシュナがフィルに怒られている。


「シュナ、その方から降りなさい」


「ははさま、しゅなはかぜになってます」


「ボクは構わないけど」


 エイリーがそう言って広間を回ると、ラクシュナは大喜びしている。フィルが頭を抱えているのはどうやらこのラクシュナの事らしい、エイリーはラクシュナがフィルよりも強い魔力を秘めていることを知っている。


 フィルは天候を意のままに操れるだろうが、ラクシュナは水の属性に愛されている。その大きな違いは水の属性に関しては持てる魔力を消費しないということだ。


 魔法はリックとエイリーの世界に存在する。言わば詠唱を必要とする魔術の上位互換だが、持てる素養が大きく関わってくる。


 ラクシュナはおそらくこの氷城の次の城主だ。


「この子が次の城主?」


「そうです、ですがあまりにも活発で・・・・」


 フィルがそう言って困った顔をしてエイリーとその背中に乗るラクシュナを見ていると、ラクシュナはフィルの様子を見てある程度のことは大丈夫だと判断したのかエイリーに言う。


「エイリー、わたしはかくごをきめました」


「待ちなさいシュナ」


 止めるフィルに対してラクシュナは顔を向けて言う、覚悟の顔だ。


「ちょっとエイリーの、わがはんしんのほんきをみたい」


 背中に乗せてものの数分でラクシュナの半身になったエイリーは立ち止まり、慌てるフィルを見つめて言う。


「ボクは構わないけど」


「ですが・・・」


 フィルが心配そうな顔をしてこちらを見ている。


「ボクがこの世界にとって、何者であるかをこの子に見せることはいいことだと思う。ラクシュナはきっとこの後、フィルの言うことをちゃんと聞くようになると思うよ」


 エイリーがフィルにそう言って説得すると、フィルはこちらに伸ばした手を引っ込めた。


「・・・・一度だけですよ、シュナ」


「うん!」


 ラクシュナが今後、そのフィルとの約束を守るかどうかは分からないが、エイリーはそれを聞いてラクシュナを取り囲むようにバリアを展開し、城の外へと城内からゆっくり歩き出す。


 空が見える位置に立つと、エイリーは立ち止まる。


「エイリー?」


 そう言ったラクシュナに対してエイリーは説明する。


「ラクシュナ、ボクは地面を蹴らなければ走れない存在ではない」


 空を見上げるエイリーを見つめてラクシュナも同じように空を見上げる。


「わくわく」


 エイリーはぐっと足に力を込めるとその場から跳躍し、高く高く雲まで突き抜けて天よりも高く宙へと到達する。


 エイリーの展開するバリアは何も通さない、中で気流を生み出すこともない。これは【封牢結界】と似ている性質を持っているが、それとはまた性質が違う。


 リックの【封牢結界】は何もかもを通さない結界であるのに対して、エイリーのバリアは乗り手とエイリーを護るための防衛機構と生命維持能力を兼ね備えている。


 ほぼ宇宙空間を走るエイリーはラクシュナを背中に乗せたまま十数分で世界を一周する。


 そうして隕石のように落下と減速を繰り返し、氷城の庭へと降り立った。


「エイリー、ありがとう!」


 乗っている時は一言も言葉を発さず、降りる時だけラクシュナはそう言ってエイリーから降りて先に氷城の中へと走っていく。


 エイリーもとことこと氷城の中へと入ると、ラクシュナがフィルの手を引いて感動のあまりに興奮して説明している光景を目の当たりにする。


 フィルがエイリーに気付いて会釈をすると、それを見たエイリーも会釈をし、エイリーはリックの居る書庫の隣の暖炉がある部屋へと戻った。


「おかえり」


 リックが戻ってきたエイリーに声を掛けると、エイリーは元居た場所へ座ってリックに返す。


「ただいま」


 エイリーがラクシュナに見せたのは、ラクシュナの想像を超えるものだった。


 本来、常軌を逸脱する強さというのは畏怖されるべきものなのだが、ラクシュナはまだ若くエイリーを怖がることはない。フィルが頭を抱えていたのはラクシュナの自由奔放さだ。その奔放さ故にフィルの言葉が耳に入らなかったのだが、ラクシュナは今後、フィルの言うことや教えることに耳を傾けるだろう。


 おそらくラクシュナが今後、一生涯かけてもエイリーの見せたあの光景を自らの力で見ることは叶わない。


 それが特異点、エイリーという存在だ。





 リックの氷城での調べものは三日間を要した。


 その間の三日間でラクシュナはすっかりエイリーになついてしまった。


 リックは取り出した本や地図を元の場所に戻し、そうして玉座のフィルに挨拶をしに行く。


「ありがとうございました、助かりました」


「もう行くのか」


 フィルがそう聞くと、リックは広間で遊ぶエイリーとラクシュナを見てあははと困っている。


「大変、世話になった」


「いえいえ、エイリーがやったことですから」


 リックのそう言う姿を見て、フィルは聞く。


「これからどちらに向かう?」


「んー・・・・とりあえずしばらくはこの大陸を観て回ります。特異点とは言っても見分けは付かないですし、エイリーに判断を任せます」


 フィルはそれを聞いて頷いた。


 ラクシュナがそのリックとフィルの様子を見ていて、エイリーに言う。


「わがはんしんよ、おわかれだ」


 ラクシュナはエイリーから降り、エイリーを抱き締める。


「このふかふかはわすれないぞ」


 エイリーもなつかれて満更でもなさそうだ。


「また来るよ、ラクシュナ」


 エイリーはそう言ってリックを背中に乗せる。


 ラクシュナはフィルの元へと駆け寄り、左手でフィルの手を握ってエイリーとリックに手を振った。


「ありがとうございました、いつかお礼に伺います」


 リックはそう言って、エイリーを走らせる。


 広間を抜け、城の庭を行き過ぎ城門をくぐると、リックはエイリーに言う。


「ラクシュナに取られちゃったのかと思った」


「ボクは子供の面倒も観れる鳥なのさ」


 リックはそれを聞いてクスクスと笑い、そうして方針を待つエイリーに言う。


「ここ周辺はフィルの領地だから何かあればフィルが教えてくれるだろうし、それがないなら特に問題なさそう。南下して中央大陸の南側周辺を調べるよ」


「おっけー」


 エイリーはそう言って、南へと進路をとる。


 雪と氷の大地を走って、リックと周囲を見渡しながら氷河を越えて氷山を飛び越えると、白夜がなくなり夜が訪れていた。


 山間の闇の中をエイリーは進まず、立ち止まる。


 夜なのに元気なリックとエイリー、フィルの氷城は白夜で太陽が落ちることがなかったためだ。


 しかしながら夜に闇の中を走るのも気が引ける、進行方向も狂ってしまいそうだ。


 太陽が出ているうちに拠点を決め、安全を確保して野営をするべきなのだが、闇の中は動けない。


「【封牢結界】」


 リックがそう言って周囲に結界を張り、エイリーに言う。


「仕方ない、日の光が出るまでここでしばらく休もう」


「うん」


 四方20メートルの正方形の結界だ、何者も寄せ付けないので命の危機に瀕することもない。


 闇夜で大事なことは動かないことだ、動けば崖から落ちたりして大きな怪我をしてしまう。エイリーとリックが崖から落ちるなんてことにはならないだろうが、危険は避けるべきなのだ。


 次に考えることは虫や動物だ、厄介なのはマダニや蚊などだろう。もっともリックとエイリーがそれらを寄せ付けることはないだろうが、異世界が未開な土地のために警戒するに越したことはない。


「夜が明けるまでしばらく待機だね」


 リックがそう言ってエイリーの装備の中にあるランプを取り出して火を灯すと、エイリーは結界内を見渡してリックに聞く。


「これ、【封牢結界】?」


 問われ、リックは自慢げに言う。


「ふふ、私の【封牢結界】は練度が上がりまして、精度の調節ができるようになりました」


「やるなぁ」


「空気を入れ換えたり、結界内で焚き木をしても煙は籠りません。都度、調整できます」


 そう言ったリックの【封牢結界】をエイリーはまじまじと見て、もはやこれはリックの奥義に昇華しつつあると分析する。


 元の世界でも、この異世界でもエイリーを止められる者はリックを除いて一人いるかいないかだろう。


 大したものだ、とエイリーは結界内を軽くつついて再度確認している。


 リックは自らの装備の中からメモ帳を取り出して、改めてエイリーに言う。


「一応、この世界について調べたことを話すね」


「うん」


「この世界には人族、いわゆる人間は少ないみたいでその他の亜人種、獣人種、竜人種などが多く、それらの国もあるみたい」


「ふむふむ」


「特異点の存在については正直分からなかった、それらしい存在に成り得るのは勇者、魔王、調律者、転生者・・・・大きな可能性としては突然変異体かな」


 エイリーはリックの成果についてうんうんと頷いている。


「この世界には勇者と魔王がいるんだね、人族から必ず生まれる勇者がこの世界を支配する魔王を討伐するって話はなかなか興味深い」


「それについてリックはどう思う?」


 エイリーの問いにリックはんーと考えた、その後にエイリーに話す。


「バランスの問題なのかな、その他の種族が増え過ぎれば勇者に力が与えられて、人族が増え過ぎれば魔王に力が与えられている感じがする」


「悪くない視点だ、概ね正解だと思う」


 エイリーがそう言ってリックから世界樹の実を貰う、それをエイリーは一飲みしてしまう。


「エイリーは特異点についてどう思う?」


「勇者か魔王かどちらかが力を蓄えていて、どちらか一方が相手を倒さない場合は特異点と成り得る、かな」


「うーん、それだと人族の国を見て回る方がいいのかな」


 エイリーは二個目の世界樹の実を丸呑みして、悩むリックに言う。


「たぶん簡単な話じゃないと思う、あのマキナがボクとリックにわざわざ依頼してくるということは何かある」


「マキナは世界の管理者でしょ、特異点の居場所については知らないの?」


「うん、何せ特異点だからね。いきなり現れて世界そのものを根幹から覆す存在だから、手が付けられなくなるらしい、そういう前例もあるからね」


 “前例”という話にリックが反応する。


「前例?」


 エイリーは自分の事を翼で指し示す、リックは「あー」と飽きれ顔だ。


「ボクの場合は突然変異体になるのかな、あらゆる可能性の一つがボクという存在らしい。マキナに『手が付けられない存在』って言われたけど、マキナからしたら好都合だったみたい」


「好都合?」


 リックがそう聞くと、エイリーは三つ目の世界樹の実をリックから貰って言う。


「ボクは騎乗鳥種で世界樹の実が大好物だからね。誰かを背中に乗せて運ぶことが天命だと思っているし、自分が居た世界の世界樹の実が実り続ける以上は暴れることもない、言わば調律者さ。マキナが出来ないことを可能にする調律者、特異点の前にあの世界の住人なのさ」


「なるほどね」


 リックは眠気が差したのか欠伸をすると、エイリーの傍に寄ってエイリーにもたれかかる。


「日の出まで眠ろうかな、時間は有効に使わなくちゃね」


 そう言ったリックに対してエイリーは翼を広げてリックを温める。


「おやすみ、リック」


「おやすみ、エイリー」


 ランプに灯された火の光が結界内をゆらゆらと揺れていた。


 明朝、太陽の光が山間に差し込むと霧が結界の外を覆い、何も見えなくなる。


「これは考えてなかった」


「リック、ボクなら平気だよ」


 頼もしい、ともリックは思うが少し違う意味で懸念する。


「ちょっと待って、少し【封牢結界】を動かしてみる」


 リックはそう言って正方形の結界に何足も足を作り、虫のようにその場から山頂へと霧の中を這わせた。中にいるエイリーとリックが霧が頭上から吹いていることに気付くと、そこからは唖然とするだけだった。


 亀だ。


 夜になったと思っていたのは実は亀のお腹の真下で、霧が出ていたのは亀の吐息だ。音も出さないような静かな一歩は振動すらない。


 亀の顔を見上げるカタチでリックとエイリーは亀の存在に気付いてしまった。


 下敷きにされるとまたしばらく結界の中に居なければならなくなるため、リックはすぐに移動するためにエイリーの背に騎乗する。


「とりあえず亀の上に」


 リックが結界を解き、エイリーが指示に従って亀の顔の横を飛び越える。


 何百年、何千年、この亀は生きてきたのだろうか。


 もはや山だ、亀の甲羅に山が出来上がっている。


 リックとエイリーはその亀を甲羅の上に積もった山から見下ろしながら息を呑む。


「こんなに大きい生物がいるなんて・・・!」


「大きな亀だねぇ」


 リックは考える。この大きさの亀が育つということはこの大陸まで人種、勇者は長い間来ていないということになる。


 倒せば膨大な経験値になるであろう巨大生物、それともこれはイベントだったりとかフラグだったりとか、はたまた隠し要素だったりとかするのだろうか。


 とにかく大きい亀だが、じわりじわりと移動はしている。


「これに乗ってこのままとはいかないか、人族の国を見て回らないと」


「ボクはかなり悪い感じがする、見るにしても先に介入するかしないかを判断するべきかもしれない」


 エイリーはリックにそんな意見を言い、リックに説明する。


「人族が今の状況を甘んじて受け入れてる場合だ」


「・・・・ありえる」


「リックは介入するかい?」


 エイリーにそう問われ、リックは巨大な亀の山のような甲羅の上から周囲を見渡す。


 手付かずの大自然が眼下に広がり、どこを見ても森や山、川ばかりだ。


「・・・・そうだね、勇者と呼ばれる存在に任せようか」


「リックに従うよ」


 エイリーはそう言って走り出し、山を下りて巨大な亀の甲羅から跳躍して南へと移動を開始する。


 巨大な亀を背に森を駆け、川沿いを行く。


 いつの間にか背にしていた亀が見えなくなった、どこにいるのか分からなくなった。


 おそらくそうやって山に擬態しているんだろう、遠くからでは見分けが付かない。


 川を下っていくと大きな滝が広がる。その中に小さな滝が複数集まっている。


 竜人種の村だな、とリックとエイリーは判断し、立ち止まる。


 全身を覆う鱗に二足歩行の竜、長命種とも呼ばれるこの世界のご長寿族だ。


 彼らはエイリーを見ると有無を言わず槍を持って戦闘体勢、次の瞬間には襲ってきた。


「ふ」


 エイリーはそれを見て鼻で笑い、けええええんとけたたましく鳴く。叫び声にも似た甲高いエイリーの咆哮は襲ってる竜人族を全て気絶させる。


 リックに対しては予め防護バリアが展開されていたようでその咆哮の影響は受けてない。


「ボクが獲物に見えた感じか、竜人族とは仲良くなれそうにないな」


 エイリーがリックにそう説明する。


 ふと、目の前に両手に何も持たない鋭い鱗を持った竜人族が両手を見せたまま地面に平伏した。


「同胞の非礼、我が身一つで御許しくださらぬか、黄金の羽を持つ者よ」


「ボクはエイリー、こっちはリック、特異点を探している。攻撃されそうになったから威嚇しただけだ、これ以上のことは攻撃されなければこちらからも手は出さない」


 エイリーのその言葉を聞き、その竜人は更に平服する。


「我が名はガルガ、この集落の長であります」


「そこまで平伏さなくてもいいよ、さっきのことはお互い水に流そう」


 エイリーはそう言って周囲を見渡している。大きな集落ではないが、暮らしは貧しくもなく、道具もある。それなりに知識がありそうだ。


 立ち上がるガルガはそれでも頭を下げたままだ。その状態でエイリーとは目を合わせずに話す。


「特異点と呼ばれる存在に関しては、我々は聞き覚えもなく・・・・」


 エイリーはそれを聞いてガルガに言う。


「それならこの集落には用はないかな、南へ行きたいんだ」


 その言葉を聞いてガルガは顔を上げて反応を見せる。


「南へ、ですか」


 ガルガはエイリーに乗っているリックを見てエイリーに言う。


「人族の国へは立ち入らない方がよろしいかと」


「それは何か理由があるのかな」


 ガルガは頷き、頭を下げてエイリーに言う。


「人族の国は完全な差別主義国家であります、お見受けしたところエイリー様の主人であるリック様にとっては生きにくい場所になるかと」


「差別主義国家・・・・」


「そうです。身分制度があり、奴隷民、従属民、平民、商民、貴族民、王族民と厳しく管理されております。国外の民に関しては人として扱われることのない奴隷民となります、故に入国すれば命の危険が及ぶかと思います」


 リックはそれを聞いてガルガに言う。


「大丈夫、私はそこまで弱くない」


「あの国は勇者が国王、勇者とは人族の頂点、故に従う他ないのです」


「勇者が国王、ね」


 そう言ってエイリーは呆れている。


 エイリーとは違い、聞いたリックは悩んでいる。


「まあ、そういうことなら特異点もそこに出現する可能性があるかもしれない」


 エイリーが悩むリックに対してそう言うと、リックは少し困った顔をする。


 特異点を探して対応・対処することが世界の管理者であるマキナから与えられた役割だが、それだけで世界が滞りなく循環するとは思えないからだ。


 段々とマキナの意図がエイリーとリックに伝わりつつある。


「ありがとう、ガルガ。それでも行ってみる」


「それじゃあガルガ、またね」


 リックと、エイリーはガルガにそう言って別れた。


 ガルガが真実を話しているのか真偽は分からないが、見て回る理由にはなりそうだ。


「しかしあれが竜人族・・・・」


 そう言って竜人族の集落を後にするエイリー。


「かっこよかった、ガルガ」


 リックはそう言って遠くに見えるガルガに手を振った。


 川を辿って南下するとリックとエイリーは海に辿り着いた。


 ここから東は北半球から南半球へと縦に長い大陸へ野道だ。


 リック達は西の島々が点々と並ぶ人族の国へと向かう。


 海の向こうに飛竜が4体飛んでいるのが見える、こちらには気付いているようだが進路を変えずに右から左へと飛んでいく。


 浜辺では海竜の群れが日向ぼっこをしていた、ここ周辺は竜が多い。


 そう思っていた矢先、大きな怪鳥が頭上を飛ぶ。


「む」


 エイリーが頭上の怪鳥を見やると、怪鳥は逃げていく。


「あいつ強いな、目が合っただけで逃げていく」


 そう言ったエイリーに対してリックは言う。


「エイリーに乗ってるとすごい安心感があるから危機感を感じなかった」


「あの怪鳥はやばいな、リックが単独で勝つには難しいかもしれない」


 確かに、と言ってリックは頭上を見上げて怪鳥を見つめる。


 いきなり頭上から襲われればひとたまりもないし、気付くのが遅れれば命取りにもなり得る。


 何より大きい、得意戦法である奇襲ならまだ有利だろうけどそれもあの大きさだと封牢結界で閉じ込めるしか有効手段がない。


「倒せないことはない、かも」


 一人と一匹は色々な動物に出くわした。中央大陸は人の踏み要らぬ領域だ、獣や大型の怪物、進化を遂げた動物も多い。


 踏み入ると縄張りだらけで数多くの動物や怪物と敵対してしまう、お互いが臆病で生存競争に必要な牙を隠し持っている。


 このような土地に人が入ってしまえば、うっかり縄張りに入り込んで敵対してしまうだろう。


 それらをエイリーが避けたり、時には威嚇したりと、争いを上手く避けて進んでくれている。


 リックが単独であれば体力の続く限りそれらの死体の山となっていただろう。


 それでもエイリーに対して挑戦してくる者も居た。


 竜種だ、そもそも竜にとって鳥はエサにしか見えない、それがどんなに強いオーラを放っていようとも鳥のカタチをしていればエサなのだ。いきなり襲ってきた竜人族の集落のように、竜はかなり好戦的にエイリーに挑戦してきた。


 エイリーはそれらから全て逃げ切り、決して敵対することはない。


 圧倒的な力を持つ者は他者に対して傲慢で自分以外の者に対して誇示するかのように影響を与える。


 特異点という存在は気まぐれで世界を滅ぼせるような力を持つ存在だが、エイリーにとってはそれが怒ることは決してない。


 乗っているリックにとってエイリーはとても強い存在だが、この行動にこそマキナという世界の管理者からの信頼もあるのだろう。


 誤って蛇は3回踏んだが、その不幸な3匹は踏まれた箇所以外もイグドラシルフィールドによって完治している。


「エイリー、向かって来る敵とどうしても避けられない戦闘になったらどうするの?」


 中央大陸最南端から西へ進む道中、見つけた清流の河川の岸辺で一休みする。


 ふと、リックはエイリーにそう問うた。


「逃げるさ」


「逃げられなかったら?」


 そんなリックの問いにエイリーは言う。


「戦うよ」


「超強かったらどうする?」


 んー、と言ってエイリーはしばらく考えた後にリックをまじまじと見て言う。


「ボクが動きを止めるから、リックが【封牢結界】で閉じ込めればいいよ。2分もあれば違う次元に結界ごと飛ばして、そこで決着をつける」


「ちなみにその時、私は?」


 問うリックに対してエイリーは世界樹の実をリックから貰う、飲み込んでふふんと鼻をならし、エイリーは言った。


「いっしょ」


 そう言えばこの鳥は騎乗鳥種だった、とリックは思い出す。そんな顔を見てエイリーはリックに言う。


「前の乗り手は正直言うと今のリックより弱くて才能もなかった。初代乗り手と比べて至って平凡、凡人の極みだね」


 だけど、とエイリーは唸るように言う。


「騎乗が人一倍上手だった、料理も上手でかなりの世話好き」


 リックにとって思い当たる人物は蒼い髪の男なのだが「それに」とエイリーは続ける。


「ボクにだってどうにもならないことはあるもんさ」






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