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リックと黄金の神鳥  作者: sick
6/18

リックと黄金の神鳥Ⅴ

 エイリーにとっては“閉じた世界”から抜け出すことは容易だ。


 問題は抜け出した後、エイリー以外が生きたままで居られるかどうかだ。


 リックは気付きがよく、誰かが“見て”いることに気付いてしまった。


 エイリーにはリックに頼まれたのなら連れて行かないといけない理由がある。


 世界から異なる世界への移動は明確な知覚を持って初めて開かれる。


 存在に気付いて、その存在を捉えきれるかどうかが異なる世界への切符だ。


 リックは明確に見られていることを捉え始めている。


 エイリーはリックに淡々と説明する。


「連れて行くのは構わないけど、ボク以外は身体を保つこと自体が難しい場所だよ」


「エイリーは行ったことがあるの?」


 察しがいい、とエイリーは笑いながら言う。


「会いに行ったことがあるんだ」


「会いに・・・・・?」


 まあ、とエイリーはリックから目を逸らし、リックの【封牢結界】を思い出しながら続けて言う。


「【封牢結界】の中ならリックでも耐えられるかもしれない」


「わかった」


 リックはエイリーに乗り、全体を覆う【封牢結界】を展開する。


 エイリーは爪先で虚空を切り開き、時空の狭間を開いてリックの【封牢結界】で覆われた自身とリックをその狭間へと移動させた。


 時空の狭間はあらゆる事象と可能性を映し出していて、エイリーはその空間内を走っていく。


「これがエイリーがいつも見ている場所?」


「この空間の中はあらゆる時間が見せる夢だ、ボクはそこを行き来できる。ありとあらゆる空間と事象を超えるからボクは神をも超える鳥とも呼ばれることもある」


「そんな鳥がなんで家の近くの湖なんかに・・・・」


 リックが困惑していると、エイリーはニコニコしながら言う。


「もう着くよ、絶対に【封牢結界】を解かないでね」


「わ、わかった」


 行き着いた先の空間で【封牢結界】にヒビが入る、リックは慌てて【封牢結界】の上に重ねて結界を張り直した。


 エイリーはそれを見て感心する。


「この世界に対応した結界を展開できるなんてリックの力は異常だよ」


「そ、そう?」


 現れた場所は狭いとも広いとも言えない六畳一間の空間、部屋と表現した方がいいのだろうか。


 目の前に端末が机の上に綺麗に置いてあり、椅子も置いてある。


「これは・・・?」


「PCと呼ばれる端末だね、願い事を叶える機械、と言えばいいのか」


 リックには分からない、エイリーがそれに近づいていくとPCと呼ばれた端末は姿形を変える。


「ボクにとってはこれが世界樹に見えるんだけど、リックにとっては何に見える?」


「お父さん・・・・?」


 エイリーはそれを聞いて大笑いする。


「え、え?」


 分からないリックに対してエイリーは笑いながら説明する。


「この端末は自身の尊敬と崇拝によってより尊きものへと姿を変貌させるのさ、まるで自分が神と自慢するようでボクは気に喰わないけど」


 エイリーのその言葉を聞いて、目の前の端末が言葉を発する。


「何の用だ、エイリー」


「やあ、マキナ」


 エイリーがそう言葉を返すと、端末は察したように「ああ」と言い、続けて言う。


「リック、君が来たということは“お願い”があるということかな」


「え、ええと」


 エイリーは分からないリックに対して説明する。


「こいつは君が居た世界の神さ」


「神って・・・・」


 宗教を信じる者にとっての崇高な存在、しかしながらリックは宗教には入信はしていないし、神を信じてもいない。だからこそ自分の父親に見えるのかもしれない。


「私はマキナ、そのエイリーを生み出した世界の管理者。神と呼んでも差支えはないけどリックには崇められそうにはないかな」


 そう言ったマキナの姿形が黒い髪の美しい女性に変わる。


「それで、何の用かな。ここまで来れた御褒美に何でも一つだけ願いを叶えてあげよう、その代わりに対等な等価を貰うけど」


「願いを、叶える?」


 リックがそう聞くと、マキナは澄まし顔をして言う。


「そう、願いを何でも一つだけ」


 そう言ったマキナがリックの顔を見つめると、理解したように言う。


「黒化病はエイリーの前の乗り手が作ったこの世界の歪みを治すための病だよ」


「お父さんが作ったの?」


 そう聞くリックに対してマキナはエイリーを見る、エイリーはマキナの視線を感じても知らないふりをしている。それを見てマキナは言葉を選んだように言う。


「シック、あれはリックの育ての親だね。あれとはまた違う別の乗り手が居たんだよ」


「前の乗り手はお父さんって聞いてたけど・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 リックは察しがいい子だが、エイリーはリックに目を向けられても話すことが出来ないために沈黙を貫いている。


「世界を歪められる冒険者に対して必ず発症する安全弁として作られた機能が黒化病さ、私としては上手く機能しているようで何よりだけどリックにとっては不都合だったのかな」


 マキナがリックにそう言って笑んでいる。


「私はお父さん達の黒化病を治したい」


 マキナとエイリーはそれを聞いてそれぞれが違うカタチで頷くが、リックの願い事には続きがあった。


「だけど世界を歪めたいわけじゃない」


 ふーん、とマキナはニコニコ笑って感心している。


「狂化するのが気に入らない」


「あれは前の乗り手の性格の悪さだね」


 マキナがそう言うと、エイリーもそれを聞いて頷いた。


「私はお父さんやみんなを殺したいわけじゃない、だからせめてみんなが寿命で死ぬまではお父さんやみんなと一緒に居たい」


 マキナはそれを聞いて「んー」と唸って言う。


「願い事は【黒化病の抹消】とその引き換えに【寿命の設定】ね、対価としてはまだ足りないかな」


 ああ、とマキナは思いついたように口の端を釣り上げる。


「一つ、私からのお願い事を聞いて欲しいのだけれど」


 エイリーはマキナの笑んだ顔を見て世界樹が不気味に揺れる姿を見ている、おかしなことを頼まれそうだ。


「リックとエイリーの居る世界とは別の世界で起きてる問題を解決して欲しい、エイリーも一緒に同行して貰おうかな」


「え、異世界召喚・・・・」


 エイリーがそう言ってマキナを見てかなり引いている。普通はその世界だけで歪みのバランスを取るのだが、今回は無理な願い事でもないために別の世界の問題を引っ張ってきたからだ。


「どうする?受ける?」


 マキナは内容を言っていない上でリックに問いかける。


「わかった!」


「よし、それじゃ決まりね。リックの居た世界の黒化病は寿命で歳を取るというカタチで精算してあげる、代わりに違う世界に現れた特異点を見つけて問題を解決してきてくれればいい」


「えぇ、リック、即答って・・・・・」


 巻き込まれるエイリーが困惑したままにその部屋から出る扉がマキナによって作られる。


「エイリーはリックを手伝うといいよ」


 そう言ったマキナに対してエイリーは言う。


「手伝うボクには何かないの」


「頑張り次第かな」


 リックとエイリーがその部屋を出ると、その瞬間に景色は一変する。


 花畑へと降り立ち、エイリーは四方を見渡してリックに言う。


「【封牢結界】を解いても大丈夫そうだ、少し寒いから気を付けて、リック」


 リックは結界を解き、蒼い花の匂いと冷たい風に触れる、降り立った場所はそれほど悪い場所ではない。


「しかし特異点とはね」


「特異点って何なの?」


 リックがそう聞くと、エイリーは溜息を吐いて言った。


「ボクと似たような存在」


「えぇ」





「特異点とは言ってもボクみたいに主人を背中に乗せることを生き甲斐にする存在もいるんだ」


 エイリーがリックを背中に乗せて蒼い花畑の中を歩いていく。


「ふーん、私はエイリーの主人ってこと?」


「そう」


 エイリー達は花畑を抜け、まずは拠点を探す。


 理想は敵性がない存在が近くにいないこと、厄介なことに巻き込まれない安全な場所だ。


 リックはエイリーの背の上で手乗りサイズの【封牢結界】を展開する、それはもはや投擲可能な石ころのようだ。


「波動剣も【封牢結界】も使えるみたい、違う世界とは言ってもそんなに変わりがないのかな」


 そう言ったリックとエイリーの目の前に巨大な狼が現れる。


「前言撤回」


「むん!」


 そう言ったエイリーが何やら気合いを入れると巨大な狼がたじろぎ、何も言わず背を向けて逃げていった。


「生物としての格が違う」


「きゃーエイリーかっこいい」


 確かにエイリーは生物としてどこか超越している。人語を話すのも本来ならばあり得ないことだ。


「しかしなんであんなに大きい狼がいるんだ」


「狼は単独行動をしないはずなんだけど」


 リックがエイリーとそんな話をしていると、急に風向きが変わり冷たい山の風が吹雪へと姿を変える。


 エイリーのバリアはそれら吹雪や風を通さない、そんな吹雪の中をエイリーとリックが進んでいくと巨大な狼が一匹、二匹と増えて八匹と群れをなしてエイリーとリックを囲む。


 彼らはエイリーの存在に対して警戒するものの絶対に近づかない、その様子を見てエイリーは言う。


「賢いヤツがいるみたいだ、話が早そうだ」


 目の前に一際大きな銀狼が現れ、吹雪の中でエイリーとリックに対峙する。


「こんばんは!戦う気はないんだけど!」


 触発する前にリックがそう言うと、囲んでいる巨大な狼達が居なくなった。


 吹雪が激しくなる。


 長い沈黙が続き、エイリーが片足を上げると銀狼は鋭い目付きでその場に座り込んで言った。


「こんばんは、強き黄金の鳥、美しき姫君」


 初めて異世界の住人と挨拶する、エイリーがそれを聞いて片足を下ろした。


 ふ、っと猛吹雪だった天候が綿雪へと変わる。


「ボクはエイリー、この子はリック、違う世界から来た」


 エイリーがそう言うと、銀狼はじいっとエイリーを見据える。


「私の名はフィルだ。なるほど、それで私の縄張りにいきなり現れた、と」


「場所は選べなかったんだ、迷惑をかけるつもりはないんだけど、この近くに人間が住むような街はあるかな」


 それを聞いた銀狼は少し考え事をしている。これはリックが見ていた感想だが、銀狼はエイリーの問い掛けに答えようと良い答えを模索しているようだった。


「周辺の街はどれも滅ぼした、それを罪というならば罰を受けよう」


 なるほど、言うに躊躇う理由はそれか、とリックは考える。おそらくエイリーも同じように考えているだろう。


「この世界のことにはあまり干渉しない、ボクらは目的を果たすための拠点が欲しいだけだ」


 エイリーが銀狼に対してそう告げると、銀狼はしばらく考えた後に言う。


「ならば、我が氷城に案内しよう」


 銀狼がそう言うと、エイリーは背中のリックを見て判断を仰ぐ。


「まずは情報収集、そこから方針を決める」


 リックがそう言うと、エイリーは銀狼の後ろを歩き出した。後ろの狼達も距離を取りながら後ろを歩いていく。


「世界地図とか、この世界の異常とかそんなところを知りたい」


 エイリーが銀狼にそう聞くと、銀狼は前を歩きながらエイリーとリックに言う。


「我々にとってこの氷河は変わることがない、獲物を獲って自分達の棲み処に持ち帰り、子を育てていくだけだ」


「街を滅ぼした理由は、復讐かな」


 エイリーがそう聞くと、銀狼は立ち止まって振り返りはしないものの後ろを見やる。


「それ以外に理由はない」


 銀狼が崖を飛び下り、エイリーもそれに着いていく、氷河の谷を上流に歩いて行くと凍土の谷の間に見事な氷城が現れた。風もなく寒さもない、ただ静かに氷の城が佇んでいるだけだ。


 リックとエイリーにはその氷の城が冷気の魔力を帯びていることに気付く、おそらくはこの銀の狼が作り上げたものだろうと察しが付く。


「綺麗なお城」


 リックが氷の城を見上げてそう言うと、銀狼は開かれた城の大門の先、城の大扉を通って中へと進み、玉座に座る。


 エイリーがその後を歩いて大門をくぐり、大扉から氷城の中へと入り、銀狼の見下ろす広間で止まった。


 氷から反射する日の光が氷城の中を薄く照らして輝きを放っていて薄暗くもあるが見えないわけではない。エイリーにとっては風もなく寒さはない、リックにとっては少し寒い温度だがエイリーの近くに居ればそんなに問題はない。


 リックはエイリーから降り、改めて銀狼を見上げる。


 銀の狼はエイリーとリックを見下ろし、その場に座り込んで言う。


「異界の者よ、我が氷城へようこそ」


「お招き頂きありがとうございます、フィルさん」


 リックがそう言って銀狼を見据える。


 エイリーは物珍しさにあちこちを観ているところをリックに手綱を握られて窘められている。


「我々は既にあなた方の匂いを覚えた、城の書庫を解放するのでそこを自由に使うといい」


「あ、ありがとうございます」


 そう言ったリックに対して銀狼はエイリーを見やる、エイリーは銀狼に対して言う。


「リックが不自由しないなら、ボクがここ一帯に干渉することはない」


 その言葉を聞いて銀狼は安堵の溜息を吐く、銀狼は改めてリックを見据えて言う。


「我々からすれば強きものに従うことは自然の摂理なのだ。気を悪くしないでおくれ、人の子よ」


「い、いえ」


 そう言ったリックが銀狼を見つめている。美しく気高い氷城の主、フィルは今まで見てきたどのモンスターよりも完成している。


 単独でリックが戦えばおそらくは勝てないだろう、銀色の体毛はリックの剣を簡単に弾く、結界に止めることは出来るかもしれない。


「調べて、方針が決まればすぐに出立します。それまでは書庫をお借りします」


 そう言ったリックに対して銀狼は静かに頷いた。


「ボクはフィルとお話してる、聞きたいこともあるし」


 リックはそれを聞いて手綱が引っ掛かって粗相をしないように外し、エイリーに耳元で言う。


「喧嘩しちゃだめだよ」


「わかった」


 エイリーはそう言って、その場に座り込んだ。


「フィルさん、エイリーが悪いことをしたら私に教えてください」


 銀狼はそれを聞いてふふと笑う、エイリーはやれやれと言ったような様子で首を横に振った。


 リックが氷城内を見渡していると、それに気付いて銀狼は言う。


「書庫は二階だ、右側の通路から入って左の階段を上ったところにある」


「ありがとう」


 リックが銀狼にそう言って広間から右側の通路へと歩いていく、狼の居城なのに書庫があるのも不思議な感じだ。


 エイリーはそのリックが歩いていく背を見やり、見えなくなってからフィルの方へと目を向ける。


「聞きたいことがあるんだけど」





 リックは長い廊下を歩いていくと左に大きな階段が見え、その階段を上って周囲を見渡しながら扉を開く。


 それらは人の大きさのものでとても銀狼が入れるような場所ではない。


 書庫の隣の部屋に装飾された暖炉が付いている、やはり人が使うようなものだ。


 最近、燃えたような形跡もあるので使っているのかもしれない、狼が使うこともあるのかなと不思議に思いながらリックは近くの焚き木を三つほど置き、近くに置いてあるマッチで火を付ける。


 火が整うまでその場で暖をとり、そうして暖炉に火が入るとリックは隣の書庫へと歩いていく。


 この世界の地図と、周辺の地図、言語は不思議と読んだこともない文字だがしっかりと読み取れる。そういえば言葉も伝わっているし、こちらが話してもあちらとしては問題なく通じる。


 違う世界の言語で書かれた本ばかりだが、必要なのは歴史と国の成り立ちや相関図、そして世界にとっての異常、特異点を把握したいところだ。


 書庫から暖炉のある部屋へと持ち出し、戻ると暖炉の目の前の椅子で暖をとっている子供を見つける。


 どう考えても人間の子に見えるが、犬の耳と犬のしっぽが付いている。


「こんばんは」


 リックがそう言って近くの机の上に持ってきた地図や本をゆっくり置く、その子は暖炉の火で温かくなって眠っているようだ。


 まず世界地図を確認しよう。


 中央大陸が地図の真ん中にあり、その大陸の北方が現在地になるみたいだ。中央大陸から右下に二番目に大きな細長い大陸が北半球から南半球まで、左下の南半球に島々がバラバラに点在して、中央大陸から南半球は全部海だ。


 調べたところによると、どの大陸にも国がない。


 人間が少ない、代わりに獣人や亜人、竜人が多く人間の生息域は左下の島々の小国家に過ぎない。


 中央大陸は力を至上とする勢力が根強い、フィルが近くの街を滅ぼしたと言っていたが力の誇示のためだろう。


 問題の特異点だが、この世界における最悪は一体何が考えられるか、だ。


 リックは周辺の地図を見て、ここ周辺一帯がフィルの管理下に置かれているために長い間に渡って戦禍にさらされてないことに注目する。


 どの人族も実力至上主義で他を脅かすことはあってもそれ以上の支配をしない。


 となると特異点は、とリックは左下の人間が住まう島々の国を指差した。


「なにしてるの」


 リックが静かに地図を眺めていると、その横で犬の耳と尻尾を持った子がいつの間にか一緒に地図を眺めている。


「この世界を不安定な方向に導くきっかけを探してるの」


 そう説明すると、小さい子は言う。


「すけーるがおおきい」


 言わんとしていることはリックにも分かる。


「わたし、ラクシャナ。おねえさんは?」


「リック」


 小さい子は一所懸命にリックの名前を覚えようとしている。


 リックは暖炉に薪を足し、火かき棒で調整する。


 ラクシャナはそれを見て暖炉の火から少し離れた椅子に座る、少し温かすぎるようだ。


 リックが戻って立ったまま机に置いてある本を読み出した、ラクシャナはそれを見て静かにしている。


 内心、このラクシャナに興味が向いている。


 小さくて犬の耳はぴこぴこ、尻尾は興味が向くとしきりに動く、犬みたいだ。出来れば持って帰りたい、そんな気持ちを抑えてリックは情報収集をしている。


 確かエイリーに持たせている荷物に干し肉があったような、とリックは静かに本を読んでいた。





「特異点はやはり人間かな」


 そう言ったエイリーは玉座に座るフィルを見上げる。


 フィルは頷き、説明する。


「人間はこの世界で最も弱い種族だ、我々人狼族の足元にも及ばない。だが、この世界で最も欲深き種族でもある。彼らは欲している、我々の土地や皮、牙ですらも」


 エイリーがそれを聞き、フィルに言う。


「リックとボクは特異点をどうにかするためにこの世界に来たんだ、まあここに来て何が特異点かは察しがつく」


 溜め息を吐き、エイリーは確かめるようにフィルに聞く。


「人間の勇者、なのだろう?」


「その可能性はある、だが分からない」


 そう答えたフィルにとってはこちら側でもあちら側でもエイリーという存在を間近で見てしまえば敵対できない、加えてリックの存在が人間であるということが人間と敵対するフィル側にとって都合が悪い。


「リックとボクの目的は特異点だけだよ、だから安心して欲しい」


 エイリーがそう言って考えを巡らせるフィルを落ち着かせる。


 フィルは溜息を吐いて、自身の肉体を人化させて改めて玉座に座り直した。


 目の前に白銀の髪の女性が現れ、女性は頭を抱えながらエイリーに言う。


「わかった、どちらにせよ私にはこの地を護るためにそうせざる負えない」


「ああ、人狼族ね、なるほどそういうことか」


 エイリーがそう言って独りで納得している。元の世界でエイリーは無限に在り続ける書庫に長らく滞在していたが、そういった者がいるというのを書物で読んだことがある。


 フィルの領地にリックとエイリーが召喚された、というのはマキナの配慮があってのことだとエイリーは気付いている。


 出現していきなり敵対し、エイリーやリックに中途半端な危害を加えて返り討ちにならないようフィルを選んだのだろう。


 フィルという存在はこの世界においての中立だ、一族を守るために敵対すれば破壊や攻撃を行うがそれ以上の侵略や略奪はしない。彼女はおそらくマキナのお気に入りだろう。


「さてと、ボクもリックのところに行くよ」


 エイリーがフィルにそう言うと、フィルは頷いた。再度、フィルは頭を抱えているがエイリーは無駄な詮索をしない。


 右側の通路をとことこと歩き左手の階段を上ると、暖炉の部屋でリックが静かに本を読んでいる。


 エイリーは近くの小さな子に気付き、暖炉の部屋に入ってすぐの場所に座る。


 リックに調べものは任せて、エイリーは目を閉じて出発まで少し眠ることにした。



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